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平穏の閉幕

初投稿です。至らぬ点もございますが、指摘して頂けると助かります。

  蝉の初音にもたれかかりながら、彼女と本を読むということは、どれだけ享楽で、幸福で、不気味なのだろうか。

  自分、須藤キョウが此処に記す。日常と非日常の螺旋の日々を。

  まだ自分達が中学二年生だった頃の夏休みの話だ。この日は同居している彼女と、一階のリビングで本を読んでいた。

  彼女の名前は絢瀬きょう。奇しくも同名だ。ひらがなとカタカナで判別するしかない。

  二人とも中学二年生なのだが、「あるもの」を持っていれば中学一年生から成人と同じ様に扱われる法律が制定された。

  話を戻そう。俺達はあいつが来るまで、至って普通に本を読んでいた。


「はぁ、読み終わったー」


  彼女が言う。

  相当読み応えのある本だったらしい。


「ねぇ、それ読み終わったらこれ読むの?」


  そうだが、何故それを訊いたのか一瞬分からなかった。どうやら面白いのでこの本をどうしても読んで欲しかったみたいだ。

  本が自分探しの旅で彷徨する訳でも無いのに、どうして早く読んで貰いたいのか。仮に読んだ所で、きょうの望むような感想も言えないだろう。

  今読んでいた本を読み終え、夕飯の買い出しに行くときょうに伝えたら、一緒に行くと言い出した。先述の本は歩きながら読むことにした。


「ね? 面白いでしょ? 僕この主人公の女の子好きなんだよねー」


「ああ。確かにこの子かっこいいな。共感する。それに──


  前方から来る爆発のような音。

  その音の正体から逃げる周囲の人々。

  音の正体と見られる、こちらに向かって来る人物。

  その人物は手にナイフを持っていた。相手は、宛ら化け物を見るような目でこちらをギュッと睨みつけ、眉間に皺を寄せた。何かを確認している様に見えた。ある程度の位置まで歩いた相手は、その場で戦闘姿勢をとった。

  戦わざるを得ないこの状況、きょうの前方に左手を添えて庇う様にしたら、理解したきょうが、


「あのー、僕も戦えるんですけど?」


 と耳元で囁いて来たので、庇護を解くことにした。

  そんなふうにわちゃわちゃしてたら、相手が


「羽流様、只今より任務を遂行致します」


 と腕部に巻き付いている電子機器に告げた直後、ナイフで襲いかかって来た。

  こちらに向かって次々と、正確にナイフを突き刺そうとして来る、かと思えば目にも留まらぬ速さできょうに標的を変える。

  ずっと回避しているだけでは不味いと思い、相手が戦闘続行不可能な状態になる迄応戦することにした。

  相手がきょうの方向に向かった瞬間に投げ飛ばした。投げ飛ばされた相手は、何事も無かったかのように着地しこちらに向かって来る。

  だが投げ飛ばす時に一緒にナイフも奪っておいた。これにより相手は素手で戦わざるを得なくなった。

  相手の萌芽したような格闘技術を見るに、あまりやり慣れていないらしい。

  しばらくこちらの一方的な展開が続く。相手が出す攻撃を全て躱し、反撃を入れる。

  しばらくしたら、相手が後ずさりしだしたので手を止めた。そしたら、


「ガ……ガハッ……これ以上の戦闘は危険です……帰還します」


 と言い残し、跡形もなく消え去った。

  辺りを見回すと、今起きた事象が存在しなかったかのように人々が往来していた。


「ねぇあなた、あの人が襲いかかって来たことに心当たりある?」


  きょうが訊ねる。


「羽流…………」


「羽流って、前に言ってた親友の人のこと?」


  俺はこくりと頷いた。襲いかかって来た人は亡くなったわけではなく、何処かにテレポートしたらしい。恐らく、テレポートした先には羽流が居るのだろう。


「喧嘩別れした時のこと、まだ思い出せてないの?」


「喧嘩の内容も、喧嘩した原因も、それらに関する一切も、全くもって思い出せない」


  俺は「羽流と喧嘩した」ということ以外、喧嘩していた時期の記憶がほとんどない。辛うじて思い出せるのは、家族構成ぐらいだった。母と父が離婚し、俺は母の手に渡った。だが母も今はこの世に居ない。


「でも、別れる時にあなたのお母さんを殺害したってことは、相当壮絶な喧嘩をしたんだろうね」


「かも知れないな」


  また襲われる可能性を加味して、帰宅することにした。


「あれ、そう言えばあなた、さっきまで読んでた本は?」


「何時かまた買えばいい」


「失くしたのね」


  さっきナイフで刺されそうになった時に、無意識に本を盾にしていた可能性がある。まあ金銭ならいくらでも所有しているので、本一冊にかける金などないようなものだ。


「て言うか、戦えるって言ってたわりには、何もしてなかったよな」


「ま、まぁ囮にはなったから」


「別に囮にならなくても勝ててたと思うけど」


「細かいことはいーの!」


 そんな他愛も無い会話を交わしながら、俺達は帰宅した。

  家に帰るなり、疲れがどっと出た。溜息も心做しかいつもより深刻そうに聞こえた。

  夕飯は余り物の食材を使った野菜炒めにした。食べている間、俺達はこれからのことを話し合った。


「次来たらどうしようか」


「とりあえずバレない様に外出する時は顔隠しとこうよ」


「何処かから監視されている可能性もあるかもな、宛ら獲物を見つけた鷹の様に」


 住所が特定されないように、普段通らない様な細い通路をできるだけ通る様にして帰宅したが、仮にバレていたら少々遠い場所にある別荘に地下通路を通って行き、そこに篭もることにする。


「顔隠しても意味無いか、あなたの体格ちょっとガッチリしてるし」


「外出する時は家のドアから出ない様に、粒子テレポート装置を完成させる必要があるな」


  もはや独り言の様な小言を言い合い、食べ終わった俺達は機密的地下基地に移動した。

  地下基地は地下百キロメートルに位置する、様々な設備を備えた施設である。風呂場の床のタイルを特定の順番で踏み、壁から出てくるモニターに暗証番号を入力することで、基地に通じるエレベーターに乗ることが出来る。先述の地下通路も、地下基地から通ることが出来る。

  基地のとある一室で、俺は粒子テレポート装置の研究を進めていた。

  この部屋は俺達が作った装置、これから作る装置の材料などが部屋全体に無造作に置かれており、全体的に金属臭い。部屋の出入口から向かって右側には実験室に通じる扉がある。



「物体を粒子状にして、テレポートさせる技術はもう出来たんだっけ?」


「うん、後は望み通りの位置にテレポートさせる技術だけ」


「ふむふむ、装置に内蔵されているコンピュータに最新の位置情報をインプットしたのかー」


「試してみよう」


  俺は部屋の奥にある永久複製マシンで作られた自分のクローンの身体を使って動作テストを決行。コンピュータのマップにテレポートさせたい場所をタップする。そしたら装置に取り付けられたドアからクローン体を装置の中に入れる。因みにクローンには意思などは無く、死体の様に身動き一つしない。


「それにしても、外出すら制限されるとか、囹圄にぶち込まれた気分になるな」


「僕はあなたと牢獄で二人きりなら大歓迎だけどね」


「そうか」


  きょうから「返しが雑」とかぶうぶう言われたが、誰だって一点に集中していれば、それ以外のことは雑になるだろう。テレポートさせるのに時間が掛かっていたので、装置を見守るのに全神経を集中させていた。

  装置はオンボロじゃないので、動作させたら大きく揺れるということがない。だから外からだといつテレポートしたか分からない。その為に機械音声で「転送ガ完了シマシタ」という音声を付けた。

  しばらくして、その音声が聞こえて来た。俺達は隣の監視カメラモニタリングルームに移動した。テレポートさせた場所が別荘の寝室で、監視カメラが付いている。その監視カメラのリアルタイム映像を見る為だ。


「おお、ちゃんとテレポートしてる!」


  先に到達したきょうが一言。俺も確認し、装置は問題無く動作することがわかった。

  時計を見たら、時刻はすでに丑三つ時を回っていた。


「もうこんな時間かよ」


「まさか買い物しようと外出ただけでこんな疲れることになるとはねー」


  寝室は地上だけでなく地下にもある。今はエレベーターに乗る気力すら虚空の彼方に飛んで行ってしまってるので、地下の方を使うことにした。

  地下の寝室は地下のリビングを通過した奥にある。ベッドは地上も地下もダブルベッドで、俺達はそこで一緒に寝ている。いつもはよくピロートークしているのだが、俺はもうクタクタで毛布を掛けた瞬間に就寝まっしぐらだった。


  襲いかかって来た謎的満燦な人物は羽流に様を付けて呼称した。恐らく羽流はあの人物の上司なのだろう。羽流は俺達を殺そうとしたのか? それ程迄憎悪を感じる程の喧嘩をしたのか、だとすれば喧嘩した原因は何なのか。可及的速やかに記憶を取り戻さなければならない。

  ベッドに入り、毛布を掛けるまでの一瞬の間に色々思考を張り巡らせていた。記憶と記憶とを線で繋げていけば原因が分かるかもと考えていたが、原因の候補が多くなってしまう。そうやって悩みに悩んでいたのに、いざ毛布を掛けたら無邪気な子供の様にすやすや寝ていたと、きょうは語っていた。

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