表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
真夏と海と深い闇  作者: プウノスケ
1/1

1章 何気ない日常

♢家族♢

  「お父さんまだ〜早くみんな待ってるから!」

 笑香は娘の声に庭を見る、大きな声で母ではなく父を呼ぶ娘。

「もう少し、今もりつけてるから飲み物出して待ってて頂いて真夏ちゃん‼︎」

 これ又大声で返す父。納戸前のクーラーboxから娘がビールやジュースを抱えて庭中央にある届けている娘。真夏はお父さん子だ。今日は庭で開いたパーティーに来られた人達へ父の代わりとばかりに、父とその間を奔走してる。

 いつも私には一緒に料理でも作ろうとは言ってもくれないのにだ! それでも今日は笑香の育てた草花を皆さん賞賛してくれるので、それがなんとも心地よい。庭に出る。

「奥様またお招きいただきましてありがとうございます!いつもながら見事なお花の数々が美しく咲き誇っていますわね」「本当に素晴らしいお庭を拝見してご主人の

美味しい野菜で作った料理も堪能できるできるなんて、旅先の高級旅館に来たような嬉しさです。お誘い感謝しております。」「いえいえ皆様どうぞ楽しんでくださいね」

 笑香が来客と会話していると「お母さん続きは私がするからお父さんに早く来てと言って!」 低木の果実の庭先は夫の菜園になってて、美味しい小ぶりな野菜が沢山出来、私達家族は時々、その野菜を使ったパーティーを開き楽しい時間を過ごしています。真夏が取り皿を配っている笑香の手を止めさせる。

「ハイハイわかりましたょ!後よろしくね真夏」

 いつも集う仲間が早くから料理を楽しみに待ってるので、娘は談笑してる人々に、自慢の父の料理を早く持って行きたく声を掛けたのでしょう。

「お手伝いいつも偉いわね真夏ちゃん。座ってお父さん来るまで話しようか、ありがとうね」

喜んでみんなの間に収まる娘が見えた!

…もう、あまり甘やかさなくて良いのにみなさん…

「出来たよ!今回はイタリアン風だよ‼︎」

「イタリアン風?風なの?」「ああプロではないから風でいいアハハ!」「ま、そう言う事に」

料理を台に乗せ夫が押している。笑香は調味料など籠に入れ台横に下げ並んで歩く。待ちきれなくすでに紅くなった人達も気づいて手を振っている。「やーこんにちは、今日はお忙しい中みなさん、私どもの会に参加頂き野菜達も喜んでおりますよ。ごゆっくり楽しんでください!イタリアン風な料理にしましたのでワインなどもどうぞ。」

「ア、ありがとうございます。お先に皆さんで乾杯させて頂きすみません七海さん。暖かくて風も無く良い天気、奥様の育てられたお花も見事な美しい庭で、我々が食事に預かるのは申し訳ない程です。」

「ありがとうございます!こちらこそ丁度野菜もたくさん取れて、良い時期に皆様に食して頂けるのも楽しいものですよ。妻も観て頂けるから楽しみに頑張れるんでしょうし

私どもも大勢で食事できて会話して良い日になります!」

紅い顔の町会役員さんは夫にビールを持ってきた。ワインをどうぞと進めながら自分はビール党なのだ。笑香は白ワインを、並んで座る自分の料理教室の生徒さんと談笑しながら一気に喉へ流す。

「お母さんみんなと一緒の写真を撮って」

花と野菜の間の通路は南向きの居間から出てこれるように造って有る。その通路上20人以上のテーブルを挟むとサッと左右に皆んなが動き写真に収まるのは毎度の事、慣れたものだ。皆んなは慣れている。

咲き乱れる色とりどりの花々と、緑の野菜畑の前で美しくフレームに収まる。しばらく躊躇してシャッターを押す。

切り取られた1枚の絵のように動かない静かな風景がそこにある。絵のまま留めたいと思ってしまう風景、この瞬間は笑香だけのもの。カシャと指がシャッター音を皆んなに届け弾ける様に人々は動き出しパッと景色が変わり、ザワザワとした会話が現実に引き戻す。

夫も真夏も来客者も空気の様に笑香を思っているのか写真にいつも笑香は居ない。それはまた笑香も望んでないからだ、動かない捕らえられた人々のようになりたくないと何故か思うのだ。

手土産として庭木の手入れを兼ねて、好きな野菜を持って帰って頂いてパーティー終了。甘酸っぱい余韻に微睡む。

(奥様は静かな海のような方ですね。深く優しい愛を湛えておられる女神様です。また貴女は全てを持っておられる、働き者で優しい夫、可愛い天使のような娘さん、恵まれた生活、大勢の仲間たち、それを果報者と言うのでしょうね

苦しみも悩む事もない羨ましいものです。)

どなたかが言った。笑ってる人々をみたり美しい物に出会う時幸せだなぁと思う。このままが幸せなのだ。

いつかしら時は日常にも人々の心にも変化をもたらす。

移ろいゆくのを気づかぬ流れに乗って、ただ行く事もまた止まる事も可能で流れが早いか、遅いか時は進む。料理教室は多忙だった。ただ食材が近所のスーパーに変わった。

最近、夫に会ってない向こうも多忙なのだろう。

さして気にも止めなかったが菜園が雑草に埋もれているのを見るとどれ程の長い時間を…野菜達が泣いてる様に思えた。

「今日は白菜を使った和、洋、中、の3品を作っていきましょう!」「先生ここ最近の食材の品質が変わりましたね、以前はとても柔らかく甘い香りもして美味しかったですが?今は味も香りも落ちてご主人の作られたものではないのですか?」「そう私も前のが良かったです。最近は近所のスーパーで私が買って作るのと変わらず少しガッカリしてます。」

「ごめんなさいね。主人の仕事が多忙なので手入れ出来ず状態なんです。待っててください戻り次第、良い品をお届け出来ますから」「奥様お庭の手入れをする時についでに菜園を見られたら?」「あら本当ですよね!でも主人のように上手く出来ないと思う」「畑が良い筈ですから是非奥様が引き継いでくだされば」「そうですね次回は庭で採れた野菜に致しましょう!」夕方、菜園を見るともう雑草畑になっていて、元々手入れを良くし土が最高なので雑草が生き生きと生えて手では抜けそうも無く、元に戻すには何日かかるかわからない!後半月で野菜ができるはずも無い。立ち尽くしてしまう!

「お母さん公園で友達と踊りの練習してくるね、行ってきます。」

娘が学校から帰っていて夏祭りに出て踊る為の練習に出て行った。夫はいつから帰ってないのか顔を見てないのはどのくらいなのか今さらながら心配になった。事故や病気になって連絡出来ずにいたら?そんなはずは無い他の人ができる筈、全く一人の筈はない。

巷ではバブル景気の崩壊により企業、とりわけ中小だが倒産が続出していた。生活に影が差し始めるような情報が新聞、テレビ、ネットに毎日溢れ、花も野菜も手入れはおざなり。料理教室の生徒さんは波が引くように少しずつ居なくなり笑香は、野菜作らなくて良いとホッとしてしまう。

夫がある日メールをくれました…多忙で暫く会社で寝食してる…との内容、これにもホッとしました。笑香もメールに…頑張って下さいでもたまには野菜畑を見に帰ってね…と入れます。時はまた速く流れて、娘が小学校を卒業する頃迄に夫は戻り3人の日常は何事も無く続き、夫の会社も不況を乗り越える。早春の柔らかな光に包まれた早咲きの桜。景気の回復、華やかな装いの笑顔がいっぱい、人々の賑わいは本当に嬉しい、楽しい卒業式で本当に良かった。

笑香はこれもまた幸せと感じる。

「真夏ちゃん小学校卒業おめでとうこれからはお姉ちゃんだよ」「お姉ちゃん?」「ああそうだよ!小学校を終えて人間として一つ二つと成長していくから、小さな子供たちのお姉さんとして中学生になって、弱い人や小さな子供たちを助けてあげれるように、お母さんのお手伝いもして仲良くやってくれよ。お父さんは4月から北海道に行く事になるのでね、会社の都合で2年程だけど月二回は帰れるから寂しがらずに頼むよ真夏」

「大丈夫だよお父さん真夏、強いし、お母さんのお手伝いもするからOK‼︎」「私も大丈夫、真夏と仲良く家をしっかり守りますよ!」「お父さん帰るたび何かおみやげ買ってきてくれる?」「ああ良い子にしていてくれたらね!家でも学校でも」

レストランで食事をする家族に窓から大きな赤い太陽が落ちる夕日となり影絵になっていく街。

桜の季節は何度めか、毎年が新しく美しさに目が奪われる。早いもので真夏は中学2年。

今年の桜は風雨に祟られ可哀想な程の短命で、盛りで落ちた花びらはそれはそれは見事なジュウタンとなり足元を埋め尽くし秋の銀杏の様に美しい。

景気回復はしたけれど人々の生活では財布の紐はまだ硬いまま。活気ある祭りの時さえ甘くはならない。

ハローワークには祭り会場、テーマパークのように人々の列が並ぶ。

「お母さん私達こんな風に楽しんでるけど、生活苦しい人々多いとニュースで言ってたね?あの人達はお仕事大変なのかな!」「そうかな生活大変な人達多いだろうけども観光地にも人々沢山いたじゃない?案外皆さましっかりしてるのよ、見せないだけ」「そうか!じゃあより良い生活を求めての職探しという事か!」

春休みを利用して笑香達が夫の元へと会いに行っての帰り道。帰りは船と電車を乗り継ぎ旅を楽しんでの途上のこと。娘の大人びた口調と横顔がなぜか嬉しくて眩しく見える。早く大人になって仲良い姉妹ようでいれたらいいなと考える。私達の未来は限りなく明るく、娘がこのまま自由に考えを言い、健やかに育っていけたら家族は皆幸せであろうと思えた。相談があったら、どのようなアドバイスがいいかしらと笑が浮かぶ。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ