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薔薇の騎士  作者: 天道 晴人
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第六章~君達には期待しているよ~

「らっしゃ~せ!」


ラーメン屋に入った所で店員の元気な声が店内に響く。

なぜ、ラーメン屋というのはこんなにも元気一杯に挨拶をしてくるのだろうか。

龍崎はそう思いながらカウンター席へとつき、店員に注文する。


「チャーシュー麺、味噌でお願いしま・・・」


そこまで言った龍崎は店員と目が合い固まってしまった。

店員も店員で龍崎を見て固まっている。


「・・・次郎・・・さん・・・」

「・・・りゅ、龍崎・・・」


一瞬であった筈だが二人の間には途轍もなく長く感じた事だろう。

龍崎は混乱していた。


(え・・・?待って!次郎さんはたしか『情熱の蒼い薔薇』でバイトしてた筈だよね!?

 それが、なんでこのラーメン屋に!?というか、ここうちの近くだし俺よく来るよ!?

 い、今までいたっけ??いや、覚えがないぞ・・・)


「りゅ、龍崎・・・注文は・・・チャーシュー麺 醤油で・・・良かったか・・・?」


(いやいやいや・・・味噌だよ・・・というか、もしかして次郎さんも混乱してる!?)

「次郎さん!」


突然、龍崎は立ち上がる。


「な・・・なんだ?」


次郎もその勢いに引いてしまう。

と、共に客も皆、龍崎に注目しているが、本人は気が付いていない様だった。


(聞かなきゃ・・・次郎さんがなんでここでバイトしているのか・・)

「次郎さん!オカマバーのバイトは辞めたんですか!?」


店内の客が一斉に噴き出す音が聞こえた。


「え?あれ?」


その音で冷静を取り戻したのか龍崎は周りを見回している。


⇒事は昨夜の戦いの後まで遡る。


龍崎がレベル3へと至った事、そしてカゲヤマが来た事によって

次郎はカゲヤマから情報を聞き出そうと、そして、龍崎と情報を共有すべく

会談を行う事を提案した。

驚くべき事にカゲヤマもその提案に乗り奇しくも初めての三者会談という運びになった。

しかし、『情熱の蒼い薔薇』は既に営業を開始している時間だったため、

別の場所を探していた時、


ぐぅ~


龍崎の腹の音が高々となった。


「あ、・・・そう言えば、今日何も食べてないや・・・」


二人は呆気に取られたものの

まずが腹ごしらえする事にした。

そんな時だった。


「あ、お兄さん達!」


次郎よりは年上だろうか。

しかし、カゲヤマよりは下に見える男性に声を掛けられた。

男性はラーメン屋の様な姿をしていたが

手にはざるに盛られた白い蕎麦の様な物と、透明なカップに入れられた麺つゆの様な物を持っていた。


「お兄さん達、お夕飯はまだかい?

 それなら、うちの屋台で食べていかないか?」


「屋台?」


カゲヤマは興味があるのか聞き返した。


「あぁ、そこで素麺屋をやってるんだ!」


男性が指さした方向には確かに屋台があり、路上に何席か簡単にテーブルと席が設けられていた。


「素麺か・・・家でも作れるな・・・」


次郎はふぅと溜息を吐くと

男性は得意げに言い放つ。


⇒「俺の素麺は普通じゃないんだぜ!試食してみてくれよ!」


そう言って手に持っていた素麺を差し出してくる。


「いや・・・俺は別に・・・」


言い終わる前にカゲヤマが箸を取り男性の素麺を啜った。


一瞬後、カゲヤマは驚いた顔になった。


「な・・・これは・・・」


「どうしたんですか?カゲヤマさん?」


「これは、うまいぞ!普通の素麺じゃないのか!?」


その感想に男性は気を良くし更に勧めてきた。


「俺が全部自分で作ったんだ!結構、拘ってるんだぜ!」


龍崎と次郎も驚く。


「あなたはいったい・・・」


龍崎の質問に男性は得意げに答えた。


「俺は、伊勢 睦月。フリーソーメンとして素麺の屋台をやってるんだ!」


「フリーソーメンだと!?あの世界を裏から操っているという都市伝説の!?」


カゲヤマが一層驚くが


「そ、それはフリーメイソン・・・だな・・・」


伊勢は冷静にその言葉を制した。

そして彼は続ける。


「フリーソーメンは人々に素麺の良さを伝える為に活動しているんだ!」


それを語る伊勢は夜だというのにとても輝いているように見えた。



⇒かくして、龍崎達は伊勢の屋台で食事をする事となった。


「おまちどぉ!」


席につき暫くして伊勢はざるに盛られた山盛りの素麺と、そして3人分の麺つゆ、

その他に、和風ドレッシングも持ってきた。


「ゆっくり食べていってくれ!」


そう言うと、伊勢はすぐに屋台の方へ戻っていった。

龍崎は不思議そうにドレッシングを眺める。


「これ・・・サラダとかくるんでしょうか・・・」

「・・・分からん・・・」


周囲に人も殆どいないため、カゲヤマは話を始めた。


「まずは久しぶりだね二人とも。そして、なかなか君たちの前に姿を現せずに申し訳なかった。

 龍崎くん。レベル3おめでとう。これで君は1つの剣に2つの効果を纏わせる事が出来る。

 君の場合は2本の剣だったね。つまり、他の『薔薇の騎士』よりも2倍の戦いが可能だろう。

 そして、少しながら戦いにおける力も上がっている事だと思う。君達には期待しているよ。」


「あ、ありがとうございます。」


カゲヤマはその謝辞など聞こえていないのか素麺を啜っていた。

口にした素麺を飲み込んでからカゲヤマは続ける。


「さて、君達が私に伝えたい事や聞きたい事があるのだったかな?」


そう言うと、すぐに次の素麺をカップへと運ぶ。


「カゲヤマ・・・あんたは『薔薇の殺人者』の事を知っているか?」


次郎が聞きたかった事、それは幸代もカゲヤマは知らないだろうと言っていた

『薔薇の殺人者』についてだった。

つまり、そのまま角谷 零馬の事も聞こうとしているのだ。

そう感じ取った龍崎は口を挟まないようにし、素麺を口に運ぶ。

カゲヤマは口にした素麺を飲み込むと答えだした。


「噂には聞いていたよ。最近、そういうのが居ると・・・ね。

 しかし、その正体を私は分かっていない。」


⇒「そうか・・・」


視線を横に移す。龍崎も同様に素麺を口に含んでいた。


「それでは、角谷 零馬は今どこの病院にいるんだ?」


次郎は次の質問に移ったが、カゲヤマはざるから素麺をカップに移動させながら答えた。


「ん?言ってなかったかい?龍崎君?東都医科大学付属病院だよ」


カゲヤマは答えるとすぐに素麺を口に運んだ。


「ふぇ!?ほんふぁのひいてまふぇんよ~」


龍崎は口の素麺を噛みながら言った。

次郎の眉がピクッ反応したのが分かる。


「そうか?そうだったか?」


カゲヤマは飲み込んだ後に話すも更に素麺を口に運ぼうとしている。


「・・・ごく・・・そうですよ!学校でも連絡取れないって大騒ぎしてるんですから!」


「ほうふぁ・・・ほれは・・・済まない事をしたね」


「お前ら!!食うか話すかどっちかにしろ!!!」


遂に次郎の我慢が限界に達したようだ。


ふぅと一息ついて、カゲヤマはようやく箸を置いた。

食べ終わったからなのだろう。


「さて、次郎君・・・君が聞きたいのはそれだけかな?」


カゲヤマの言葉を受け、更に次郎は続けた。


「・・・角谷 零馬が『薔薇の殺人者』である可能性は?」


一瞬の沈黙が辺りを包む。

龍崎も素麺を口にしながらカゲヤマの言葉を待っているようだが

次郎はそれを気にしないようにした。


⇒「結論から言おう。その可能性は余りにも低い。

 先に言った通り、私の『薔薇の殺人者』についての情報は多くはない。

 また、零馬は私の友人でもある。そして、つい昨日までは入院していたからな。」


「・・・昨日?」


龍崎はその言葉に反応した。


「いなくなったんだよ・・・東都大付属からね・・・

 だが、私の知っている情報だと昨日、『薔薇の殺人者』が現れたそうだね・・・

 少なくとも、看護師達は昨夜、彼が寝ているのを確認していた。

 つまり、彼が意識を取り戻し病院から抜け出したのは今日未明と考えられる。

 それに、私の知る限り彼は2本目の剣を持ってはいない。

 故に、彼に犯行は不可能だと思われる。」


ホッとした気持ちといなくなった不安が龍崎を襲う。

どちらにしても、再び角谷の行方は分からなくなってしまった。

だが、カゲヤマは続ける。


「だが、私も彼の全てを知っているわけではない・・・だから確率は低いとしか言えない・・・

 申し訳ないね。」


最後にカゲヤマは龍崎の方を見ながら頭を下げた。

結局、『薔薇の殺人者』や角谷 零馬の事についてはカゲヤマも把握しきれていなかった。

収穫はさほどなかった様だ。


「・・・ところでだ・・・俺の分の素麺は・・・!?」


次郎は空になったざるを指さし言った。

龍崎とカゲヤマは目を合わせた。


「あ、あぁ・・・済まないね~いや、美味しかったもので」

「あぁ!?すみません次郎さん!!」


「・・・お前ら・・・」


次郎が怒りに震えていると彼らのテーブルに一人分の素麺が置かれた。


「いや~そんなに喜んでくれるとは思ってなかったよ~

 少し余ったから食ってくれ!」


タイミング良く伊勢がざるを持ってきた。

⇒その後、次郎が食べ終わり一同は解散したのだが、

帰り道、白虎の声に導かれ次郎は先程の屋台の場所へと戻っていた。

そして、そこには『シャドー』に襲われる伊勢の姿があった。


「伊勢さん!」

「あ、あんたはさっきの?」

「ここは、俺に任せてあんたは逃げてくれ!」

「な、なんだか分からないが分かった!」


そういうと、伊勢は姿を消した。『シャドー』の目標は見事次郎に引き付けられた様だ。


「アームドチャージ!ビャッコ!!」


次郎は小剣を取り出し叫ぶ。『薔薇の騎士』へと変貌した。

光に照らされた『シャドー』はその姿を現す。

そこには空中を海に見立てた様に巨大な魚が浮いていた。

そこに一際凶暴な歯が生えている。『ピラニア・シャドー』


【属性はないな・・・低級の『シャドー』だ次郎】

「そうか・・・だが、手は抜かない!」


ビャッコ!アームド!


次郎は白虎の爪を装備し跳躍、『ピラニア・シャドー』へと攻撃を仕掛けた。

『ピラニア・シャドー』は上空から迫る次郎を捕食する様にその大きな口を開く。

次郎はその中に吸い込まれるように入っていってしまう。


しかし、次の瞬間、『ピラニア・シャドー』を内部から斬撃する音が響く。

次郎は自ら体内に入り邪魔される事無く攻撃を加えていった。

そして、


ビャッコ!グランド!ファイナルブレイク!!


曇った電子音性が内側から響き『ピラニア・シャドー』の体は内部から細切れにされ

地面へと激突した。そして、その中から次郎がその姿を現す。


灰化した『ピラニア・シャドー』の後に次郎はカードを探す。

しかし、どこにもカードは見つからなかった。


「・・・どういう事だ・・・?」


その内に、影世界は解体されだし、現実世界へと戻ってきた。

そんな所に伊勢が戻ってきていたのだが・・・


「あ~!!俺の屋台・・・」


先程の戦闘後、『ピラニア・シャドー』が落下した場所。その下に屋台があったのだが

全てが押しつぶされていた。そして、海野悪い事に次郎がその場に立っていたのだった。


「あ・・・いや・・・これは・・・」





「はぁ・・・それで伊勢さんの本来の店である、このラーメン屋でバイトしてるんですね・・・」


龍崎はチャーシュー麺を啜りながら頷いた。

一通り聞き終わった所で伊勢が龍崎に声を掛けてきた。


「あ、龍崎くんだっけ?大虎くんと一緒に入ってくれない?」

「はい?」

「ね!」


何故か伊勢の目には有無を言わせない迫力があった。

かくして、何故か龍崎もバイトとして入る事となったわけだが・・・


「・・・ま、まさか・・・ここまで不器用だとは・・・」


料理などした事のない龍崎は仕方なしに皿洗いに回されたのだが、既に洗い終わった物よりも

割って壊した物の方が多い状態だった。






「すみません・・・」


バイトが漸く終了した頃、龍崎は伊勢に頭を下げていた。

伊勢は頭を掻きながらも笑顔で気にするなと言ってくれていたが。


「二人がやってくれたお陰で助かったよ。こいつはそのお礼だ。」


伊勢はそう言うと二人のスマートフォンにSDカードを接続し何かをダウンロードした。


「これは?」

「『シャドー』の位置が分かるアプリだ」


その言葉に二人は伊勢を警戒する。しかし


「俺は何度もあんなのに襲われたから、自分で逃げるように作ったんだが、あんたらはアレと

 戦ってるんだろ?そいつがあった方が便利じゃないか?」

「どうして・・・それを・・・?」

「まぁ、昨日の話と、今日の話・・・からかな。」


どうやら伊勢に他意は無い様だった。二人は感謝し帰路についた。

伊勢の手元で小剣が光る。






次郎と別れた帰り道。路地裏から声が聞こえた。

龍崎はその方向へと走った。

そこには、中年のサラリーマンが、高校生だろうか時代錯誤な不良が3人程囲んでいた。


「お前ら!」


龍崎が声を掛けると不良達は振り向き、サラリーマンはその隙に走って逃げた。


「おいおい、どうしてくれんだよ!」


不良の一人が龍崎の肩に手を掛けてきた。龍崎はそれを振り払った・・・つもりだったが

不良はすごい勢いで吹っ飛んでしまった。


「・・・へ?」


龍崎は事態が飲み込めずに混乱し始めていたが、不良達は怯みながらも戦闘態勢をとってきた。


「あわわわ・・・」


狼狽する龍崎だったがその肩に後ろから手が掛けられた。振り向く龍崎。


「『薔薇の騎士』が悪を見過ごせないのは分かるが、手加減を覚えないとな。」


その作務衣の男性は龍崎に豆腐の入ったボウルを持たせると軽く構えを取った。


次回 『薔薇の騎士』




不良の元に小剣を差し出す男

「僕の力になってよ・・・」




3人の『薔薇の騎士』と対峙する次郎

「俺は・・・貴様らを絶対に許さない!」




暗闇の中で白虎とマーメイド、ケツァルコアトル




次回 『薔薇の騎士』第七章

傷付きながらも立ち上がる次郎

「俺にも・・・更なる力を!!」








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