第三章~現実~
全速力で駆け抜け、跳躍。
その勢いのまま次郎は剣撃を繰り出し龍崎を襲った。
「ちょ!?ちょっと待ってくれ!『薔薇の殺人者』って何のことだよ!?」
龍崎は青龍の剣で防ぎつつ次郎に疑問を投げつける。
「そうやって油断させる気か!お前のユニコーンのカードがその証拠だろ!!」
「ユニコーン・・・!?」
次郎はそれだけ言うと再び龍崎を襲う。
【・・・!】
ユニコーンは何かを思いついたのか龍崎の手に自身の剣を現出させた。
龍崎は今、左手に青龍の剣で次郎の剣を受けつつ、右手にユニコーンの剣を持つ事となった。
「ちょ!?ユニコーン!?」
龍崎は自身の手に現出させられた剣に驚き、ユニコーンに疑問を持つ。だが、
「・・・ユニコーンの・・・剣・・・!?」
次郎はその剣を納める。
「・・・へ?」
龍崎は唖然とした。
距離をとった次郎は再び龍崎へと歩み寄る。
しかし、今度は襲い掛かる訳ではなかった。
それを察した龍崎は自身も次郎へと歩み寄って行く。
そして、二人は眩い光に包まれた。
⇒龍崎が目を開けると、そこは青龍とユニコーンが居る暗闇の中だった。自身の変貌は解除されていた。
いつもと違うのは2体の他に、大虎次郎と、そして恐らくは彼が宿す幻獣、白い虎が居る事。
次郎の変貌も既に解除されていた。
「次郎さん!」
龍崎は先程の襲撃を問いただそうとするが、
「すまなかった!」
次郎の方が先に謝った事で、ぶつける言葉を失ってしまった。
一瞬の沈黙の後、口を開いたのはユニコーンだった。
【大虎次郎様、軽率な行動、申し訳ありませんでした。】
ユニコーンが頭を下げる。
「いや、俺も早とちりだった。カードだけでなく剣も持つと言う事は譲り受けたのか。」
【はい、左様です。我が主、角谷零馬が戦線を離脱する事となった為、その意思の下、龍崎様に宿っております。】
「なるほどね。」
次郎とユニコーンの会話が為されるが、龍崎はそれについて意味が分からずにいた。
【本来、幻獣は宿った者とその者が認めた場合でなければ力を発揮できない。
そして、そうではなく不正に行使した場合、力を使う事は出来るが剣は折れる、また、今の汝の様に
鎧が新たな形になる事もない。】
疑問を汲み取ったのか青龍が龍崎に説明する。
「・・・なるほど・・・だから、俺が不正にユニコーンの力を使ったと思ったのか・・・あれ?
兜変わってるんだから、そうじゃないじゃん!」
【それについては、あやつは元々の汝の兜を知らんだろ】
「あぁ、そうか・・・」
「剣を現出させたからな、お前がユニコーンの力を受けついだのが分かったんだ。」
龍崎は、いまいち納得しきれていないがもう一つの疑問を投げかける。
「『薔薇の殺人者』って?」
先程の戦闘でも次郎が口にしていた名称。龍崎はその言葉に覚えがなかった。
【『薔薇の殺人者』・・・これは本来の名称ではない。】
それについて口を開いたのは次郎の隣にいた白い虎だった。
【お初にお目に掛かる。我は四聖獣が一柱。白き虎、白虎と申す。】
(・・・見たまんまだ・・・)
龍崎が口にしないように考えるが
【相変わらず、そのまんまよの・・・白虎】
青龍が口に出した。
【相変わらず、言葉がなっていないな・・・青龍】
両者は睨みあう。
(えぇぇ・・・)
その光景に頭を抱える龍崎の横にユニコーンが小声で話してくる。
(あのお二方は古より仲が宜しくないのですよ・・・気は合うのですが・・・)
【【聞こえているぞ!ユニコーン!!】】
【これは、失礼を・・・】
⇒二人の誤解が解けた所で、暗闇の空間を脱し現実の世界へと戻って来た。
戦闘する前とは違い、車や人々の声が往来を飛び交っている。
龍崎は次郎に連れられるまま繁華街を進んだ。普段なら来る事も無い様な場所。
連れられ到着したのは、街の一角にあるバーの様な店だった。
「いらっしゃ~い!」
可愛らしい喋り方で野太い声がしたかと思うと目の前にいたのは青髭の大男が女装して立っていた。
その男性は入店したのが次郎だと分かると営業とは違った笑顔になり、
「あら、次郎ちゃん!お客さん連れてきてくれたの??でも、年齢的にお断りしなきゃならないんじゃない??」
龍崎を見て客だと思ったらしい。
「違いますよ、ママ。ちょっと奥の個室使わせてもらえます?」
「・・・なるほど・・・そっちの人ね・・・いいわ」
次郎から話を聞いたその男性はすぐに龍崎を奥の部屋へと案内した。
「驚いたか?」
まだ挙動不審になっている龍崎を見て、次郎は笑いながら聞いてきた。
「え?えぇ・・・まぁ・・・」
「所謂、オカマバーとでも言えばいいか・・・俺のバイト先だ。まぁ、それだけじゃないが・・・」
「バイト・・・先・・・」
龍崎は次郎の女装姿を思い浮かべようとしたが
「言っておくが、俺はバーテンダーだ。女装はしないから、その妄想はそこでやめておけ・・・」
言いながら白虎の小剣を龍崎の喉元に突きつけてくる。
「んな!?」
「ママはな・・・元『薔薇の騎士』だったんだ。」
「え?あの人が!?」
一体、どんな幻獣を宿していたんだろう。龍崎は想像しようとするがどうも想像できない。
「あの人は『薔薇の殺人者』に倒されてしまった。殺されそうになった所を幻獣が現召し、撃退したらしい。
だが、無理に現召したせいで剣は折れ、幻獣も消えてしまったんだ。」
「・・・そんな事が・・・あれ?そう言えば、さっき話の途中だったけど、『薔薇の殺人者』って?」
暗闇の空間で話をしていたのだが、あの後、青龍と白虎の口喧嘩が始まってしまい話にならなくなっていた。
「あぁ・・・まさか、白虎と青龍があんなに仲が悪いとは思わなかった・・・
『薔薇の殺人者』は『薔薇の騎士』でありながら『シャドー』だけではなく、『薔薇の騎士』さえも襲う存在だ。
聞いただろ?『シャドー』を全て倒せば願いが叶えられると。『薔薇の殺人者』はその願いを自身の為だけに叶えようとする者だ。
しかも、場合によっては『薔薇の殺人者』は一般人さえも襲うらしい。」
「そんな奴がいるなんて・・・カゲヤマさんはこの事を知っているんだろうか・・・」
龍崎は疑問を呟いた。
「恐らく・・・知らないわよ・・・」
⇒個室のドアが開いて、ママが飲み物を持って入って来た。
そして、二人とは別のソファに腰掛けると、次郎の方を向いて飲み物を口にする。
「次郎ちゃん、このお店の事、この子に話して無かったのね!?
ごめんなさいね~驚いたでしょ~」
ママは陽気に龍崎に話しかけてくる。龍崎はただただ圧倒されてしまっている。
「私は、小鳥遊 幸代 よろしくね!」
「ちなみに、本名だ。」
龍崎は口に含んでいたオレンジジュースを噴水の如く巻き上げた。
「ちょっと!なによ、その反応!」
龍崎がいそいそと吹いた物を拭き終った所で、幸代は話し始めた。
「次郎ちゃんはどこまで話したのかしら?」
「いや、まだ殆ど何も。」
「そう・・・一応、話しておくわね・・・」
そう言うと、幸代は備え付けてあったカラオケのマイクに手を伸ばしスイッチを入れる。
コホンと咳払いした後、マイクを高々と掲げ幸代は話し始めた。
マイクを持つ手の小指が立っている。
「そう・・・あれは、1年ちょっと前だったかしら・・・」
当時を思い出すように、感情を込めてゆっくりとだが、エコーと本人の地声から
とても説得力のある話がスピーカーから流れ始めた。
⇒小鳥遊 幸代は最初期の『薔薇の騎士』の一人だった。
当時は頻繁に『シャドー』が出現している訳でもなく、また小剣も多くなかった為か他の『薔薇の騎士』と出会う事さえ稀だった。
そんな時に幸代はその男達と出会った。
角谷 零馬と、合間 伍。
「こ、こいつ・・・」
私は巨大な『シャドー』・・・『エレファント・シャドー』に苦戦していたわ。
巨躯から繰り出されるそのパワーに私は吹き飛ばされ近付く事さえも簡単ではなかったの。
その上、私の行使する『ケツァルコアトル』の力は跳躍力や簡単な飛行能力の強化であり、
それによって上空から相手に私自身の巨大なパワーをぶつける戦法を得意としていたの。
それには私の剣も関係していて、剣と言うには武骨であり、斧と言った方がいい様な剣。
だけど、自身以上の巨大な力を持つ『エレファント・シャドー』にはその戦法が通用しなかった。
私が敗北を覚悟していた時だったわ。
ユニコーン!サンダー!!
突如、剣の電子音声が鳴り『エレファント・シャドー』へ雷撃が落ちる。
『エレファント・シャドー』は悲鳴を上げ膝を折った。更に相手は雷撃による痺れもあり
立ちあがる事さえ簡単ではない様だったわ。
更に電子音声が響く。
スライム!ウォーター!!
『エレファント・シャドー』の周辺から粘性のある水が湧き上がり『エレファント・シャドー』を包む。
更に時間経過毎に『エレファント・シャドー』の体が溶けているようにも見えた。
「・・・一体、誰が・・・」
私が呟くと膝をつく私の傍らに『薔薇の騎士』がその姿を現したの。
「大丈夫か?」
なに?このイケメン!角谷が私を心配してくれた。
「角谷・・・一気に畳み掛けるぞ!」
後方から粘性の水を操る合間が叫ぶ。
私は起き上がり剣を構えた。
「わ、私もやれるわ!」
「よし・・・行くぞ!!」
ケツァルコアトル!ウインド!! ファイナルブレイク!!
ユニコーン!サンダー!! ファイナルブレイク!!
⇒翼を得た私は蝶の様に上空へと舞い上がり、剣を大上段から振り下ろす。
私が創った傷口から角谷が剣を突き刺し雷撃が『エレファント・シャドー』の体内から迸る。
二人の共同作業!!
『エレファント・シャドー』は断末魔の悲鳴を上げその巨体は地面へと沈んでいったわ。
スライム!サモン!!
『エレファント・シャドー』の下から突如スライムが実体化し『エレファント・シャドー』を飲み込んだ。
既に絶命していたためか、捕食にさほど時間は掛からず、『エレファント・シャドー』は灰化せず消滅した。
そして、消滅したためかその後にカードは残らなかった。
3人は変貌を解除し現実世界へと戻って来たの。
「助かったわ~ありがとう」
私が礼を言う。
「いやいや、同じ『薔薇の騎士』だからね。助けあわないと」
角谷が笑顔で言ったわ。素顔もイケメン!
それから私達3人は組んで戦うようになったの。
角谷は紳士でイケメンで!合間も顔はいいんだけど性格が少し冷徹でね
少し苦手だったかしら。
だけど、ある日
角谷に用事があって来られなかった日に私達2人で『シャドー』を撃退した事があったわ。
いつもの様に私が前線に立って、合間が後方から支援していたの。
合間は明らかに相手が絶命している時はスライムを現召させる事は無かったわ。
それが、彼の用心深さだと、思っていたんだけど。
私がカードを拾い上げた時だった。
「今日の相手は楽勝だったわね~」
そう言いながら私は振り返ろうとした時だった。
スライム!ウォーター!!
粘性の水が私の足元から湧き上がり私の体を捉えて離さなかった。
「!?な、なにを!?」
私はもがきながら合間に向かって叫ぶ。
その間、合間はニヤニヤしながら私に近づいてきた。
「くくく!お前の幻獣ケツァルコアトルか・・・役に立ちそうだな・・・」
合間はそう言うと、更にカードをスラッシュした。
スライム!ウォーター! ファイナルブレイク!!
⇒私は抵抗したものの意味を為さず私を捉えたスライムが収縮してきた。
そして、完全に私を包むと私を溶かそうと溶解液へとスライムの成分が変化した様だったわ。
あぁ・・・私は死ぬんだと思った瞬間だった。
突然ケツァルコアトルが現召したの。
サモンカードを使用しない現召は本来できるものではないわ。
ケツァルコアトルは私を守るため、無理に飛び出して・・・
想定以上の大きさの幻獣が突然自身の中に現れたことによってスライムは四散したわ。
それでも、ゆっくりと合間の元に集まって形を為していく。
既に、私もケツァルコアトルも満身創痍。
そんな時に聞こえてきた音があったの。
ユニコーン!サンダー! ファイナルブレイク!!
その電子音声は合間のすぐ近くでほぼ形を取り戻していたスライムへと雷撃を落とし
再び、スライムは四散する事となった。それでもスライムは再び形を為そうと動いていたけど。
私の傍に電子音声を発した主 角谷が現れた。
やっぱり、イケメンね・・・
私が立ちあがろうとするも力が入らず、直ぐに崩れ落ちた。
その時だったわ。
私の剣は折れたの。
何が起こったのか分からずただ剣を見つめていたんだけど
合間はそれを見て舌打ちした後、去って行ったわ。
「・・・願いを叶えるのは・・・俺だ・・・」
いつの間にか、現実世界へと戻っていた私は雨の降る中、倒れていた。いつ倒れたのかも記憶にないけど
傍らに立っていた角谷はしゃがんで私を助け起こしてくれた。
そして、一言消え入りそうな声で呟いた。
「ごめん・・・助けられなくて・・・」
私は病院で療養する事になった。角谷もよくお見舞いに来てくれたわ。
だけど、カゲヤマがその事を知った風ではなかったの。
角谷が言っていないんだと思う・・・
⇒そこまで聞いた龍崎の脳裏に映像が浮かんだ。
雨の中、仰向けに倒れた女性と傍らに立ちすくむ男性・・・
咄嗟に龍崎は頭を押さえる。
「ん?どうした?」
次郎が心配そうに声を掛けてきたが、その時にはそんな映像も消えてしまい。よく思い出せなくなっていた。
「い、いえ・・・ちょっと目眩・・・?かな・・・」
「ママの話からすると、合間伍ってやつが『薔薇の殺人者』なんだろう・・・」
次郎が腕を組みながら話を整理していた。
「合間は言葉巧みに味方を増やしているはず・・・気を付けてね!」
幸代も心配している。
幸代が部屋から出て行くと、2人は目を合わせ
幻獣達への空間へと意識が飛んでいった。
「ユニコーン、今の話は・・・」
【はい、存じております。主は嫌な予感がすると、学校から飛び出し幸代さまの元へ向かいました。】
ユニコーンが当時の事を回想した。
「・・・カゲヤマに話は?」
次郎がユニコーンに聞く。
【いえ・・・その後カゲヤマさまにお会いしたのも、龍崎さまと出会った時でしたので・・・
それに、カゲヤマさまはこちらから連絡が取れない為、知らせる事も難しかったのだと思います。】
【しかし、その合間という奴はなぜ、幸代を殺そうとしたのか・・・】
一瞬後に青龍は疑問を投げかける。
【そうだな・・・幻獣を現召させ相手を喰えば、それだけで終わる話を・・・】
「ちょ、ちょっと待って!」
白虎の発言に龍崎は驚く。
「幻獣は他の幻獣を食糧にしているって事?!」
【古の話だ。今はそんな事をせずとも我らを宿した者がいれば腹は減らん。】
【ただ、その方法は現在も伝わっていると言うだけの話でございます。】
「・・・つまり、合間は殺人を楽しんでいる・・・そういう事になるな・・・」
次郎の言葉に龍崎は息を飲んだ。
【・・・それよりも気になるのが、なぜ合間と言う人物はカードを拾わず立ち去ったのでしょう・・・】
ユニコーンが疑問を口にした。
「普通に考えるなら、自分が拾わずとも誰かが拾ってくれる・・・そういう事になるか・・・」
次郎が腕組みをしながら答える。
「じゃぁ・・・それは誰か・・・!?」
龍崎も一緒になって考える。が、すぐに一つの答えに辿り着いた。だが、それを認めたく無くて頭から振り払おうとする。しかし、
⇒【・・・角谷・・・】
白虎が同じ考えに行き着いた様だ。
「ま、待ってよ!先生が・・・そんな訳無い!先生は、俺を助けてくれた!それに、それならユニコーンだって知ってるはず!」
皆がユニコーンを見るが
【・・・申し訳ありません・・・主とは中々こういった話し合いの場所を持ちませんでした。それに、試作型の剣は
幻獣は外界の様子を見る事が簡単ではなく、主の許しが必ず必要だったのです。】
「・・・そ、そんな・・・」
「だが、角谷がそうだと決まった訳じゃない。あくまで可能性の一つだ。」
次郎が龍崎を気遣う。
しかし、龍崎も青龍も、角谷に宿っていたユニコーンでさえも、その考えを否定しきれなかった。
「・・・先生は、今、どこに・・・」
「怖い・・・怖いよ・・・おねぇちゃん!」
10歳くらいだろうか少年が『シャドー』に襲われていた。
その子を守るように女性がその子を抱きしめていた。
「大丈夫よ・・・さぁ、逃げて!」
「うん!」
少年はその腕から離れ、通りを走って行く。そして、直ぐにその姿は見えなくなった。
女性は『シャドー』と対峙する。
「・・・ふぅ・・・最近、『シャドー』の数が増しているようにも思える・・・」
女性は小剣を取り出し、地面に向ける。
水をイメージする流れる形の刀身が鞘から抜かれる。
「アームドチャージ!!」
ビルの陰から彼女を覗き見る影があった。
そして、その手にも形は定かではないが小剣が光っているように見えた。
⇒次回 『薔薇の騎士』
水の奔流が『シャドー』を襲う。だが、目立ったダメージはない。
「・・・私だけじゃ・・・」
2本の剣を操り、『シャドー』と対峙する龍崎
「この人が『薔薇の殺人者』だったとしても、俺は後悔したくない!」
暗闇から歩いてくる『薔薇の騎士』の影
足音が響く
号泣する龍崎
次回 『薔薇の騎士』第4章~
ビルの屋上に佇む人影
「戦うというのは、そういう事だ・・・」
その願いは誰の為に