第二章~アームドチャージ~
「アームドチャージ!青龍!!」
辺り一面を眩い光が覆う。
龍崎はその姿を朱殷色の鎧に身を包み、龍の顔を模したフルフェイスの兜を装備した姿へと変貌させ、
その手には鍔に龍の顔があしらわれ、その口から日本刀の様な刀身が伸びる剣を握っていた。
先に戦っていた角谷のユニコーンとは違う点、それは、朱殷色の鎧に青いラインが伸びている事だった。
「初のアームドチャージで、レベル2に変貌するとは・・・」
カゲヤマは呟いた。
光に照らされたその『シャドー』の姿は狼の様な姿をしている。
やはり、『ベアー・シャドー』同様、一部が普通では考えられない形状をしていた。
この『ウルフ・シャドー』の場合は、尻尾が鋭利な槍と化していた事。これで、角谷は後ろから刺されたのだろう。
「龍崎くん・・・初の戦いで申し訳ないが、私達の命運は君に掛かっている・・・頼んだよ・・・」
「・・・はい・・・」
カゲヤマの言葉に頷くと、龍崎は『ウルフ・シャドー』へと走る。
『ウルフ・シャドー』はその場から動かず、尻尾の槍を振るい、龍崎へと突き出した。
そのスピードは速く、龍崎が気付いた時には既に自身の目の前まで迫っていた。
「!?」
咄嗟の判断で心臓を守るように右側へと転がる。
攻撃を避けられた『ウルフ・シャドー』はその尻尾を自身に引き戻している所だ。
龍崎は直ぐに起き上がり『ウルフ・シャドー』との距離を詰めるが
『ウルフ・シャドー』は引き戻した尻尾を細かく突き出し連続で槍撃を繰り出す。
目の前で無数に突き出される槍撃に龍崎は怯んだ。だが、
【新一!カードを使え!】
体の内から青龍の声が響く。
龍崎は、腰のカードホルダーから1枚のカードを取り出し、刀身にスラッシュ、スキャンした。
セイリュウ!フレイム!!
剣から響く電子音声の後、刀身は青い炎を纏った。
龍崎はその剣を横一閃に振るう。炎は青い軌跡を描きながら四方へと放たれた。
一見、意味の無い行動に見えたが、四方へと放たれた炎は最終的には様々な方向から
『ウルフ・シャドー』を襲う。
その攻撃により炎に包まれた『ウルフ・シャドー』は悲鳴を上げ、その攻撃を中断する。
炎が着弾すると同時に龍崎は再び『ウルフ・シャドー』へと走り、カードをスラッシュする。
セイリュウ!フレイム!!
セイリュウ!フレイム!!ファイナルブレイク!!
近寄る龍崎に『ウルフ・シャドー』は一閃の槍撃を繰り出す。が、
龍崎は跳躍し、槍撃を回避、更に大上段から剣を振り下ろす。
縦一閃。更に横へ薙ぐ。
十字に割かれた『ウルフ・シャドー』から青い炎が燃え上がり、
『ウルフ・シャドー』は断末魔と共に倒れた。
一瞬の後、その影は灰化し後にはカードだけが残されていた。
カゲヤマが近づいてくる。
「お疲れ様。見事だったよ・・・龍崎君。」
カゲヤマが手を差し出すが、龍崎はその変貌を解除されながら、地面へと倒れてしまった。
「やれやれ・・・」
カゲヤマが微笑ながら呟く。
目を覚ました龍崎の視界に入って来たものは蛍光灯が照らす天井。
「・・・明るい・・・」
龍崎は体を起こす。
「気が付いたようだね。」
龍崎は顔を上げる。そこにはカゲヤマが立っていた。
「大変だったんだよ、君達2人を運ぶのは・・・」
「あ、あの・・・先生は・・・?」
「大丈夫さ、今は安静にしている。」
龍崎は胸を撫で下ろした。
その様子を見て、カゲヤマは龍崎に二つの箱を差し出した。
「?・・・これは?」
「角谷からの伝言でね。これを君に渡してくれ・・・と」
龍崎は箱を開けた。
そこに納められていたのは、角谷が使用していた小剣と
小さな箱には複数枚のカード。
「・・・龍崎君・・・あの状況では君に頼る事しかできなかった。君がいなければ角谷は死んでいただろう。
だが、あの戦いの恐怖を知った後だから、言える事でもある。」
龍崎はカゲヤマの言葉を静かに聞いていた。
「角谷は・・・これ以上戦えないだろう・・・代わりに君に戦ってほしいと思って、その剣とカードを君に託した。
しかし、それを決めるのは君次第だ。奴らと戦うか、それとも今回の事は忘れて、静かに過ごすか。」
カゲヤマは龍崎の言葉を待っていた。
龍崎は少し思案した後、角谷の小剣へと手を伸ばす。
「・・・先生の代りに戦わなければ、俺みたいに奴等の犠牲になる人が増えるんですよね・・・」
「あぁ・・・だが、角谷の他にも『薔薇の騎士』は存在する。君が居なくても、彼らが戦ってくれるだろう。」
「それでも・・・」
「それでも、俺は助けてくれた先生の代りに奴らと戦わなければならない。そう思うんです!」
龍崎はカゲヤマの目を見ながら語る。その目には強固な意志が感じられた。
カゲヤマは一瞬の後に傍らに座り、話し始めた。
「分かった。君の意思を尊重しよう!・・・そして、角谷の遺した物、君が使ってくれ。」
龍崎は頷き、再び小剣へと手を伸ばした。
【新一】
暗闇の中から声がして、龍崎はハッとする。
暗闇に自分は立っていた。そう、青龍と初めて会話したあの空間だった。
あの時とは違い、青龍は光の塊ではなく既にその姿でそこに存在していた。
「青龍・・・」
青龍と向き合った龍崎は、後方に気配を感じ振り向く。
そこには一本の角を頭部に携えたキレイな白い馬が立っていた。
【私の名はユニコーン。角谷様に仕えていた幻獣です。お初にお目に掛かります龍崎様、そして青龍様。】
ユニコーンはその頭を下げる。
「ユニコーン・・・」
【噂には聞いていた。4属性のどれでも無い属性を持つ幻獣・・・】
青龍の感嘆の声が聞こえる。
【角谷様の遺志により、私は龍崎様に仕えさせて頂きます。】
「・・・いいのか?青龍もそうだけど、俺は君達とは面識がないのに・・・」
龍崎のその言葉に青龍もユニコーンも驚きの表情を浮かべ、口元が緩むのが見て取れた。
【お前の心には強固な意志が存在している。そして、臆する事無く我を受け入れ戦った。】
龍崎の頭にハテナマークが浮かぶ。
【本来、青龍様を始め四聖獣と呼ばれる方々を宿した場合、我ら幻獣を宿すよりも遥かに体力を消耗されます。】
「そ、それって、死ぬ事もあるって事!?」
ユニコーンの言葉に龍崎は驚くが、青龍もユニコーンも至って冷静だった。
【何を今更・・・奴らとの戦いはそういうものだ。だが、汝は我の力を使っても倒れただけだった。】
【これからは私もおります。前回よりは負担が少ないかと】
「・・・分かった。これからよろしく!青龍!ユニコーン!」
気が付くと、龍崎は再び病室のベッドの上だった。
時計を見る。先程から時間の経過は無い様だ。カゲヤマも何かを気にする様子もなく話を続けようとしていた。
「『薔薇の騎士』となる事によって、君には伝えておかなければならない事がある。」
龍崎はその言葉に頷いた。
カゲヤマは少しずつ話し始めた。
「一つは『シャドー』は無限に湧いて出る訳ではなく、有限である事。」
「有限!?・・・じゃぁ、この戦いはいずれ終わるんですか!?」
龍崎は驚いた。
「あぁ、私の調査では、だけどね。『シャドー』は過去にも出現していたそうだ。そして、その時にも
名前は違うが『薔薇の騎士』の様な者がいて、これを撃退し全滅させたと、古い文献にあったんだ。
私は、『シャドー』が出現した際に研究を重ね、『薔薇の騎士』のシステムを作り上げた。
今の技術力でなら量産する事も可能だったが、一つ欠点が出来てしまった。」
「欠点ですか?え?あれ?『薔薇の騎士』を生みだしたのはカゲヤマさんなんですか!?」
「そうだ。元々研究者だったからね。偶然、遭遇した『シャドー』について調べていたら、対策まで行き着いていたよ。」
カゲヤマはハハハと笑っている。しかし、直ぐに戻り話を続けた。
「欠点だが、本来は地水火風全ての属性を一人で操り、複数の幻獣を宿していたそうだ。しかも、私はレベルと
呼んでいるが、角谷の様なレベル1や君の様なレベル2などもなく、最初から最大の力を振るっていたらしい。」
「レベル・・・まるでゲームみたいですね・・・」
「まぁ、私もゲームが好きだというのもあるがね。その2点が欠点となってしまった。
今の所、レベル1で対処できないような『シャドー』は見当たらない。安心して良い。
そして、有限である証拠であり、恐らく『シャドー』を出現させた者の目的はこれだろう。
全ての『シャドー』のカードを手にした者は、どんな願いも叶えられる。」
「・・・願い・・・!?」
「最終的に、君達の前に現れるだろうけど、今はどこにいるのか皆目見当がつかない。用心してくれ。
私の目的は、最後に君達からカードを預り、『シャドー』を永久に封じ込める事だ。
私自身が『薔薇の騎士』となって、戦えれば良かったのだが、残念ながら私は適正がなかったらしい・・・」
「適正・・・俺にも適正があったという事・・・なのか・・・」
龍崎は呟く。
「その対価と言ってはなんだが、平和的な願いなら、その時に一緒に叶えてもいいと思っている。
皆で掴み取った勝利だからね。
さて、私の話はこんなところだろうか。何か聞きたい事はあるかい?」
龍崎は一時、思案した後、一つだけ質問した。
「『薔薇の騎士』は全部で何人いるんでしょうか?」
「私の作った剣は、角谷が持っていた試作を含め16本。つまり、16人という事になるね。
すまないが、角谷の分も君にお願いしてしまう。心苦しいがよろしく頼むよ。」
「はい!・・・どこまで戦えるか分からないけれど、頑張ります!」
その言葉にカゲヤマはほほ笑む。
「ありがとう。明日には退院できるそうだ。今夜はゆっくり休んでくれ。」
翌朝、カゲヤマの言った通り龍崎は退院する事となった。
検査の結果、過労だろうと言われどこも異常は見当たらなかったそうだ。
入院費も既にカゲヤマが多めに渡していたらしく龍崎から徴収される事はなかった。
ただ、角谷は別の施設に運ばれたらしく、ここに入院してはおらず、当然ながら病院のスタッフもその先については知らなかった。
(角谷先生・・・一体どこに・・・)
一応、この日も補習授業があったが学校に行くと、昨日の事件など無かったように、ただ龍崎の入院だけが知らされていた様で
安静にしていなさいと家に帰されてしまう。角谷の事を聞くが入院したという情報はあるものの、その施設がどこかは
今居る教職員達では分からないらしい。
龍崎は校舎から出る前に昨日の現場を見ていた。そこには、何かがあった形跡などなく角谷の血痕さえも見当たらない。
角谷についての情報は少しも得られなかった。
そんな状態だったので、龍崎は一度家に帰り着替えてから繁華街へと歩を進める。
(こんな平和に見える世界に・・・あんな化け物が潜んでいるなんて・・・)
喫茶店で甘いコーヒーを飲みながら外の景色を眺めていた。
どこともなく歩き続けたせいか、時間の感覚も無くなっており気が付いた時には、少しずつ空が暗くなりつつあった。
(そろそろ帰らないと・・・)
龍崎が家へ帰ろうとした時だった。
また、あの時の感覚と同じ様なモノを味わう。
まだ明るかった空が急に暗くなり、濃い霧に包まれ肌寒く感じる。
そして、昨日は気が付かなかったが周りにいたはずの人々は誰も居なくなっている。
きゃぁぁ!!
どこからか女性の悲鳴が聞こえた。
龍崎は咄嗟にその声がする方向へと走る。
そこには、『シャドー』に襲われそうになっている女性が座り込んでいた。
どうやら、恐怖のあまり立ちあがれずにいるらしい。
『シャドー』の姿はよく見えないが、足で立っているのではなく、浮いている気がする。
『シャドー』が咆哮を上げ女性を襲う。
龍崎は走るが、間に合いそうにない。
そんな時だった。
その二つの影に割って入り『シャドー』の攻撃を防いだ男がいた。
その手には小剣が握られている。
「そこのお前!」
その男に龍崎は声を掛けられる。
「早く、この女性を避難させろ!」
「わ、分かった!」
龍崎は女性を助け起こすと、建物の中に入るように促す。
女性は立ちあがると一目散に走って行き、その姿は目視できるはずの周囲から突然消えた。
龍崎は不思議に思うが、
「どうやら、あっちは見逃してくれたようだ・・・」
男は『シャドー』の攻撃を裁き、龍崎の隣へと後退している。
「『シャドー』の目的の外になれば、そいつは影世界から出る事ができる。
まぁ、どうやら、お前は見逃してもらえなかったみたいだけどな・・・」
男は龍崎を心配するが
「大丈夫・・・俺があいつを倒すから・・・」
龍崎は持っていたバッグから小剣を取りだす。
「なるほど、お前も『薔薇の騎士』か!」
男は一瞬龍崎を見て、微笑を浮かべる。
「俺は大虎次郎。お前、名前は?」
「龍崎・・・新一です・・・」
「分かった。お前の手を借りるぞ・・・新一!」
「はい!」
二人は小剣を空へ掲げる。
≪アームドチャージ!≫
「セイリュウ!」
「ビャッコ!」
二つの剣から眩い光が世界を照らす。
『シャドー』の姿が露わになるのと同時に二人の姿もそれぞれ変貌する。
龍の様なフルフェイスの兜、以前とは違い、ユニコーンの角も携えている。龍崎の変貌した姿。
『薔薇の騎士』セイリュウ
虎の頭部を思わせるフルフェイスの兜、龍崎の様にスリムな鎧とは違い肩には爪を思わせる肩当てがある。
次郎の変貌した姿。『薔薇の騎士』ビャッコ
そして、ビャッコには体に白いラインが入っていた。
二人は『シャドー』の姿を確認する。
その影は光に照らされ一度はしゃがみこんだが、ゆっくりと立ちあがる。
浮いているというのは間違いではなかったようだ。『クロウ・シャドー』カラスの姿をした『シャドー』である。
『クロウ・シャドー』はその目に2人の『薔薇の騎士』を捉えると空高く舞い上がる。
「・・・マジかよ・・・」
次郎は上空へと舞い上がった『クロウ・シャドー』を見て呟く。
しかし、龍崎はカードを取り出しスラッシュ、スキャンする。
「大丈夫!俺に任せて!」
ユニコーン!サンダー!!
電子音声に続き、刀身が雷を纏う。
龍崎はその剣を空に掲げると、『クロウ・シャドー』の上空から雷が『クロウ・シャドー』へとクリーンヒットした。
「!?ユニコーン!?」
次郎は驚く。が、『クロウ・シャドー』はよろめきながら二人の前へ落ちてきた。
「次郎さん!」
「・・・」
(まずは、『シャドー』が先か・・・)
次郎が虎の顔を鍔に持ち頭頂部から剣先が伸びる大剣へとカードをスラッシュ、スキャンする。
ビャッコ!アームド!!
電子音声に続き、大剣はその形を3本の爪を持つ虎の爪へと変え、次郎は両手にそれを装備した。
落下してくる『クロウ・シャドー』に下から跳躍し、その体を切り裂く。
続いて、悲鳴を上げ飛び去ろうとする『クロウ・シャドー』を龍崎が大上段からの一撃で地面に叩き落とした。
ビャッコ!グランド!!ファイナルブレイク!!
セイリュウ!フレイム!!ファイナルブレイク!!
2人は着地と同時にカードを2度スラッシュさせ、ファイナルブレイクを放つ。
龍崎が駆ける。横薙ぎの炎を纏った一閃。
続いて、次郎の爪がX字に『クロウ・シャドー』を引き裂く。
再度、2人が着地すると、『クロウ・シャドー』は灰化、そこにはカードだけが残された。
「ふぅ・・・ありがとう。君のお陰で簡単に倒せた!」
龍崎が『クロウ・シャドー』のカードを拾い上げながら、次郎に礼を言う。
しかし、
次郎は跳躍し、大上段から龍崎に切りかかる。
「!?何をするんだ!!」
「お前・・・そのユニコーンのカードはどうした!?
まさか、貴様・・・『薔薇の殺人者』か!?」
「『薔薇の殺人者』!?ち、違う、これは!!」
「俺達『薔薇の騎士』を狩る『薔薇の殺人者』・・・
そんな奴らに容赦はしない!!」
一度離れるも、次郎は再び駆ける。
龍崎は否応なしに2本の剣で防ぐしかなかった。
「話を・・・話を聞いてくれ!!」
次回 薔薇の騎士
相対する龍崎と次郎
「2本の剣・・・だと・・・!?」
暗闇に佇み龍崎、次郎、青龍、白虎、ユニコーン
「そうか・・・アームドのカードもあるのか・・・」
女性に守られる子供
「怖い・・・怖いよ・・・おねぇちゃん!!」
輝く新たな小剣
次回 薔薇の騎士 第3章
雨の中、横たわる女性とその傍らに龍崎
「現実」
その願いは誰の為に