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薔薇の騎士  作者: 天道 晴人
2/17

第一章~はじまり~

「あぁ・・・ついてない・・・」


龍崎新一は暑い日差しが差し込む教室でポツリと呟いた。

他の生徒は誰もいない。

しかし、クラス担任の角谷零馬はそれを聞き逃さなかった。


「ついてないのは俺の方だよ・・・お前の補習が無ければ今頃俺は夢の中だよ・・・」

「さーせーん」


角谷の愚痴に龍崎は適当に謝罪した。




キーンコーンカーンコーン

「おわったぁ!!」


補習の終わりを告げるチャイムが鳴り響くや否や、

龍崎は席から立ち上がり、さっさと帰り仕度を始める。


「明日までに問題集、全部終わらせろよ~」


角谷の言葉に、龍崎は仕舞いかけた教科書や問題集をバサバサと落としてしまった。






龍崎は家に着くなり、直ぐに着替え家を飛び出した。

そして通話アプリで友人達に連絡を取り出す。


(まぁ、明日までに少し手を付けておけばいいよね・・・)


繁華街で友人達と落ち合った龍崎は、ゲームゼンターやカラオケ等、

今日の補習を忘れるかの様に遊び歩き、

気が付けば、家路に着いたのは10時を過ぎていた。


「やっべ・・・流石にこの時間はマズイ・・・」


少し急ぐかと走り出した時だった。

段々と霧が濃くなり、そして心成しか寒さすら感じる。

夜とは言え、真夏だと言うのに・・・


「な、なんか変な感じだな・・・やっぱり少し急ご・・・え?」


瞬間、龍崎が今居た位置に何かが落ちた感覚を覚える。

嫌な予感がした龍崎は振り返る。

そして、驚きの余り、目を見開いた。




そこに居たのは影だった。

いや、影だけが立体化して立っている訳はない。

そう思うが、しかし、『影』以外に形容出来なかった。

そして、落ちたと思っていたモノ・・・

それは、その影の腕だった。

腕が振り下ろされ、アスファルトの地面に爪の痕が刻まれていた。


「な・・・な・・・」


龍崎は声が出ずにその場に立ち尽くしていた。

その間にも『影』は腕を振り上げ、咆哮を上げた。


「走れ!」


不意に男性の声がして龍崎は正気に戻った。

そして、『影』脇をすり抜け一目散に走る。


「なんだ・・・なんなんだあれ!?」


龍崎は混乱する頭をなんとか正常にしようと考えるが


「死にたくなければ私の声がする方向に走れ!」


更に声はする。

その声の主も見えない為に龍崎は更に混乱してしまう。




龍崎が辛くも辿り着いたのは自身の高校だった。

グラウンドを走り抜け、昇降口まで辿り着いた龍崎。

幸運な事に龍崎は一撃も喰らう事は無かった。


しかし、昇降口には別の影があった。

だが、それは今まで龍崎を追っていた『影』ではなく人影。

それも見知った人物だった。


「せ、先生!」

「!?・・・龍崎!?」


そこに立っていたのは自身のクラス担任 角谷零馬だった。


「お前!なんで、ここに・・・」

「先生!そんな事より、俺、今なんか変な『影』みたいなのに追われていて・・・」


言いかけた時だった。

呻き声が聞こえる。

龍崎が振り返ると、彼等の近くには既に、先程の「影」が追いついていた。


「あ・・・あぁ・・・」


龍崎は後ずさりしながら呻く。


「・・・龍崎・・・校舎には入れ・・・」


零馬は『影』を警戒しながら龍崎を校舎へと向かわせる。


「で、でも・・・先生は!?」

「俺は・・・」


零馬はそう言い、懐から装飾の施された小剣を取り出す。

フィストガードが付けられた鍔には中心に一際大きな緑色の宝石が光る。

そして、キレイな鞘から剣を抜く。

その刀身はまるでドリルの様になっており、太いレイピアを思わせる造りだった。


零馬はその剣を顔の前に掲げ、叫ぶ。


「アームドチャージ!ユニコーン!!」


その言葉に呼応するかの様に中心の宝石は光を放ち、

まるで日中とも思える程の光が辺りを照らす。

そして、零馬の体は鎧に覆われ始めた。


暗い赤の色合い・・・朱殷色の鎧・・・

頭部には一本の角。さながらユニコーンを彷彿とさせる角だ。


光が収まる。


そこに立っていたのはフルフェイスの鎧と兜に身を包んだ騎士だった。


「あれが奴等『シャドー』と戦う『薔薇の騎士』・・・『ローゼスナイト』だ。」


先程まで聞こえていた声が不意に龍崎の後ろから聞こえ振り返った。

そこには、白いマントを羽織った20代後半だろうか、

30歳の角谷零馬と同じ位と思われる年齢の男性が立っていた。

龍崎は不思議に思う。

自身が校舎に入った時には誰も居なかった筈だと。

だが、それよりも龍崎にとっては自分を襲った『シャドー』

そして、零馬が変貌した『薔薇の騎士』の方が気になってしまう。

マントを羽織った男性は続ける。


「私の名はカゲヤマ。あの『薔薇の騎士』に変貌するシステムの開発者だ。

 故あって、私は『薔薇の騎士』になれない。しかし、『シャドー』は人を襲う。

 なので、申し訳ないがああやって人間に頼っているんだ。」


『薔薇の騎士』ユニコーンとなった零馬は相手と対峙する。

変貌する時に溢れた光によって影『シャドー』はその姿を現していた。

熊・・・片手が大きく肥大化した熊だった。

零馬は剣を『ベアー・シャドー』へと向ける。

変貌する時に使った小剣はその形をそのままに、大きな剣へと変化していた。

さしずめ、ユニコーンの角を模したレイピアだろうか。

また、刀身の付け根には不自然な隙間があった。


剣を向けられた『ベアー・シャドー』は唸りを上げ、零馬へと走る。

目の前で大きく腕を振り上げた『ベー・シャドー』だったが、

既にその場所に零馬の姿は無かった。

零馬は『ベアー・シャドー』が走る間に、腰のカードホルダーからカードを取り出し、

刀身の隙間にスラッシュ、スキャンした。


ホッパー!シャドー!


剣が電子音を発する。

瞬間、零馬の足が光る。そして人とは思えない跳躍を果たし

『ベアー・シャドー』の背後へと降り立った。

そして、そのまま剣を『ベアー・シャドー』へと突き刺す。

『ベアー・シャドー』は大きな悲鳴を上げるが、それに構わず零馬は更にカードをスラッシュ、スキャンする。


「とどめだ!」


いつもとは違う低い声が聞こえる。

龍崎は背筋に冷たいモノを感じた。


ユニコーン!サンダー!


その電子音の最中、更にカードを手元に戻す形でスキャンする。


ユニコーン!サンダー!ファイナルブレイク!!


一度目のスキャンで剣は雷撃を帯び、

更に返しのスキャンでその雷撃は『ベアー・シャドー』の体内を駆け巡る。

瞬間、全身から放電する様に四散する。

大きな衝撃音が遅れて辺りの空気を震わせる。


零馬が剣を引き抜くと、『ベアー・シャドー』は前へと崩れ落ち

一瞬後にはその体は灰化、カードだけがその場に残っていた。


零馬は一息吐くと『ベアー・シャドー』のカードを手に取り龍崎達の方へと歩いて来る。


「・・・カゲヤマ・・・説明しろ。なぜ龍崎がここにいる?」


2人の前に立った零馬は先程の様な低い声では無く、いつも通りの声色をしていた。

しかし、その口調には少なからず苛立ちが混じって聞こえはするが。


「なに。・・・『シャドー』が現れた所に一般人がいて、それが彼だっただけさ。

 他に逃がすよりも君の所へ招いた方が安全だと判断したんだ。」

「・・・と、言う事はだ・・・明日までの課題は当然・・・」

「え、え~と・・・」


龍崎へと視線を送る零馬。その表情は兜により窺い知れないが想像に難くない。

龍崎が視線を逸らすが、


「りゅうざき~」

(こ、こわい・・・)


瞬時に零馬はその視線の先に移動する。

龍崎が逸らした視線の眼前にフルフェイスの兜があり

ユニコーンの角が龍崎の頭スレスレに鎮座している。

流石に見かねたカゲヤマが口を挟んで来た。


「やれやれ・・・そう言う事は明日にしよう。

 今は、この子を家に送り届けなくては・・・」

「ふぅ・・・そうだな。龍崎・・・とりあえず、この事は明日、話そう。

 まぁ、俺も全てを知っている訳じゃないがな。」


そう言いつつ、零馬は漸く龍崎から頭を離す。

そして、視線をカゲヤマへ送る。


「私も。だよ・・・全ては知らないさ・・・」

「まぁ、そう言う事だ。・・・立てるか?」


零馬が龍崎へと手を挿し延ばす。


龍崎がその手を掴もうとした・・・その時だった。

零馬の身体が倒れ掛けてくる。

差し伸べられた手は、龍崎の手を掴む事はなかった。


「せん・・・せい・・・?」


倒れた零馬の背中から血が溢れてくる。

それはさながら、繰り器の上に置かれた薔薇の様に。

零馬はその後、変貌が解除され人間の姿へと戻った。

龍崎、カゲヤマの2人が声を掛けるが零馬は呻き、口からは血を吐き続けている。

龍崎は静かに顔を上げる。

遠くに『影』が見えた。


「!?・・・あれは・・・『シャドー』だと!?

 バカな!!『シャドー』の気配は無かった筈なのに!!」


カゲヤマが叫ぶ。

龍崎が零馬の体越しに見たのは紛れもなく先程の『影』の様なモノ・・・『シャドー』だった。


「に・・・逃げろ・・・龍崎・・・!」


零馬が声にならない声で龍崎を庇う。


「でも!先生が・・・」

「・・・このまま逃げても恐らく直ぐに追いつかれるだろう・・・

 残念ながら、私では君を守れない・・・龍崎君・・・

 戦う意思はあるかい?」


カゲヤマは零馬に縋る龍崎に視線を向ける。

龍崎は一瞬、その意味が分からなかった。しかし、直ぐにそれを理解し立ち上がる。

その姿を見たカゲヤマは笑みを浮かべ、懐から小さな箱を取り出した。

その箱を開くと、中には何も装飾の施されていない剣が納められていた。


「・・・これは・・・」

「手に取って、アームドチャージと叫ぶんだ・・・今、3人が助かるにはそれしかない!」


龍崎は頷く。

そして、その小剣を天に掲げ叫んだ。


「アームドチャージ!」


暗い闇の中に龍崎は1人立っていた。

何もない。どこまでも続く闇の中。

俺は失敗したのか?

そんな不安が込み上げる。それと同時に2人を守れなかった怒りが湧きあがる。

目の前に光が灯った。


【我を呼び覚ます思い・・・汝のモノか・・・?】


頭に直接呼び掛けてくる。

不思議と恐怖は無い。


「あんたは?」

【我は青龍・・・四聖獣が一柱・・・汝、あれとの戦いを望むか・・・?】

「あれ?」


龍崎の後ろに光が灯る。

零馬が倒れる瞬間からの映像が流れる。


龍崎は頷く。


「あぁ!俺が2人を助ける!」

【いいだろう!・・・我の力、試してみよ!】


龍崎の目の前にあった光は一瞬輝きを増した後、

その姿を青い龍の姿へと変化させ龍崎と同化する。


身体の中から声が聞こえる。


【叫べ!我の名を!!】


龍崎は頷く。

そして剣を頭上へ掲げる。

剣は既にその形を変化させていた。

鍔には青い龍の顔があしらわれ、その口から日本刀の様な刀身が伸びている。


「アームドチャージ!」


自身の言葉と映像の中の自分が重なる。

カゲヤマと零馬の前に剣を掲げる龍崎は更に叫ぶ。


「青龍!」


零馬の時と同じ様に辺り一面を光が覆う。

そして、龍崎は龍の頭を模したフルフェイスの兜を持つ『薔薇の騎士』へと変貌した。

しかし、零馬とは違う所があった。


朱殷色の鎧に青いラインが走っていた。


「・・・な・・・に・・・?『薔薇の騎士』に変貌したばかりで・・・レベル2・・・」


カゲヤマは驚きつつ呟いた。






次回 薔薇の騎士




「角谷からの伝言でね。これを君に渡してくれ・・・と」

病室のベッドに座る龍崎に、2つの箱を差し出すカゲヤマ




暗闇に対峙する龍崎と青龍、ユニコーン

「よろしく!青龍!ユニコーン!」




『シャドー』に襲われる女性

そこに駆けつける龍崎




小剣で攻撃を受け止める男性

「なるほど・・・お前も『薔薇の騎士』か・・・」




次回 薔薇の騎士 第2章

男性は天に小剣を掲げ叫ぶ

「アームドチャージ!!」




その願いは誰の為に・・・


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