1-闇夜の王とチキンステーキ-
ちょっと気分転換。
令和最初の投稿は、まさかのスピンオフです。またもやワタナベ氏との共同企画。ついに、ロイが大衆食堂を開きます。
これから、いろんな人たちが毎回来て、ロイが料理を振舞います。本編が一区切りついたときとか、ちょっと疲れた時とかに息抜きにめちゃくちゃ不定期に投稿しますので、時間を持て余している方は見て下さい。
ほんとにたまーに投稿だと思いますw
「こんちわ。空いてるかな?」
「へいらっしゃい!…ってお前…!」
「…へ…?…ロイ…?」
♢♦♢♦
これは、王国を守る誇り高き双刀の騎士が、いつもとは違う形で民を笑顔にしようと、奮闘し、試行錯誤し、至高の腕を見せつける、いつもとは違う【黒白の王と闇夜の剣】、“お料理”日常ファンタジーである。
「…で、ロイが大衆食堂を始めたのか?」
「そういうことだ。高級で上品なレストランだけじゃなくて、こういったアットホームな雰囲気の食堂もやってみたかったんだ」
「へぇ…ちょっと意外だな」
金髪の頭髪に碧眼の長身の男。彼の名はロイ・リデルス。普段は、エルゼンダルク皇王直属にしてエルゼンダルク最強の騎士団【円卓の騎士】の一員として活躍する誇り高き騎士である。
彼は二本の刀を振るって戦う、王国でも最強クラスの騎士で、信頼も厚い。12人いる円卓の騎士の序列三位として、日々王国を守るため奮闘している。
それと、彼には違う一面がある。
彼は料理が得意で、エルゼンダルク王宮料理長も兼任している。3か月前には、全世界統一料理選手権という料理人の世界大会で、見事優勝を果たした。
ひと月ほど前、ロイは考えた。10店舗ほどある自分の経営店。実際、その店舗は基本従業員に任せており、ロイが料理をするのは王宮でだけ。
すなわち、自分の料理を振舞うのは王宮の中の、それも一部の人々だけ。料理に絶対の自信を持つロイの願望は、自分の料理をもっと多くの人に味わってほしい、ということだ。
そして、大衆食堂の計画を立て、資金を使って建築家や大工を雇い、高級な厨房設備を整えた。メニューを考え、お品書きを造り、席を完備し、今に至る。
「それで、今日が開店日なわけなんだが…」
「…俺が第一号の来店者だったと…」
「そういうわけだ。開店から15分だったんだがな」
今、ロイと話している青年。180cmを軽く超えるロイよりも10cmほど小さい。170cmを少し超えた程度の細身の青年で、一見、普通の18歳ぐらいにしか見えない。黒髪、黒目のいたって普通の外見。
しかし、彼こそがエルゼンダルクの皇王にして円卓の騎士の仕える王、数か月前には、長らくエルゼンダルクと戦争状態にあったグラウス帝国の皇帝を単身撃破し、国に平和をもたらした真の英雄だ。
この世界の秩序を守る神々【神霊獣】。その中でも最上位に位置する【十二神】。その全てを統べる王である黒き龍【黒龍バハムート】と契約し、その圧倒的な力で国を救った。巷では【闇夜の剣士】と呼ばれる、エルゼンダルク最強の男だ。
ロイとは、帝国と戦争をしていた頃からの仲で、共に肩を並べて戦った。円卓の騎士の中でも彼は、ロイと特に仲が良い。ロイにとっても信頼できる親友のような存在だ。
普段の黒い外套ではなく、私服姿の瑛斗は、ロイの目の前にあるカウンター席に座った。いつもの微笑を浮かべ、ロイに向かって言う。
「もちろん、美味い料理出してくれるんだよな?」
「…最初の客がお前というのは予想外だったが…。勿論、全力で調理させてもらうぞ。何にする」
ロイがメニューを手渡そうとすると、瑛斗は右手で制止した。
「店主のオススメで頼む」
「…任せろ…!」
そう言い、ロイは厨房へ潜った。
♢♦♢♦
「さて…何にするかだが…」
厨房にある食材を眺めてから、ロイはパチンと指を鳴らした。この前、丁度良い食材が入荷したのだ。
知り合いのハンターが狩猟した危険モンスター【キングコカトリス】。ニワトリとヘビが合体したようなコカトリスというモンスターの王で、かなりデカイ(らしい)。
その肉は希少である故に高級、それに美味である。最高級の鶏肉とも謳われるほどの高級食材で、名立たる名料理人たちも好んで使用するという。
ならば、この機会にそれを使用しない手は無いだろう。瑛斗は国王であるし、金ならたくさんある。遠慮なく高級食材を使ってしまおうではないか。
ロイは、希少金属でできた特製のフライパンを火にかけた。そこに、これまた希少なクジラから採取した油を入れる。この油は、ロイが必ず料理に投入するほどのこだわりを持っているものだ。
その特製フライパンの性能は凄まじく、一瞬で火が通り、肉を焼ける状態にまでなってしまう。素人ならば、逆に扱うのが難しいだろうが、ロイ程のプロフェッショナルともなれば逆に使いやすい。
「(では…キングコカトリスの肉に少し切れ目を入れ、小さくした岩塩、コショウをふりかける…。これで味付けはひとまず完了だ。油をしき、熱してあるフライパンに肉を投下する)」
ロイがキングコカトリスの肉を投下した途端、とてもいい匂いと「ジュー」という肉が焼ける音が食欲を掻き立てる。今頃、エイトも同じだろう。
「(そして…皮目の方から弱火で、時間をかけて肉を焼く。それによって、脂肪分と水分を跳ね飛ばすことが出来る。皮がカリっとするまで焼いてから、肉を裏返し身にも焼き目を付ける)」
そして、身に焼き目がついたのを確認し、ロイは肉を取った。事前に熱してあった溶岩製の皿に乗せ、その下のは耐熱性のある木の皿を敷く。
「(付け合わせはいつものじゃがバター、トマトだな…。よし、完成だな)」
♢♦♢♦
「待たせたな、【リデルス流コカトリスのカリカリステーキ】だ。おまちどおさま、エイト」
「おぉ!美味そう!」
ロイが運んできたチキンステーキを見て、瑛斗は少年のような反応を見せた。
そして、両手を合わせて合掌する。
「いただきます」
すぐさまナイフとフォークを持った瑛斗は、チキンステーキをナイフで切った。刃物の扱いに慣れた手つきでステーキを切り、フォークでそれを口に運ぶ。
口にステーキを入れたまま、瑛斗は味わうようにもぐもぐしていた。
「…どうだ…?」
「………ロイ…」
「…何だ?」
瑛斗は、突然低めのテンションで言う。
「…円卓の騎士、辞めても良いんだぜ?」
「おいおい、何を言うんだ。料理人も、円卓の騎士も、両方とも一流でこなしてこそのロイ・リデルスなのさ」
「くそ…王宮の飯がさらに美味くなるかと思ったのに…」
そう毒づきながらも、瑛斗は凄まじい速度でステーキを口に運び、どんどん食べていった。みるみるうちにステーキはなくなり、ついに瑛斗はそれを完食してしまった。
「ごちそうさまでした」
再び合掌して言うと、瑛斗はすぐに立ち上がった。
「ゆっくりしていっても良いんだぞ?」
「いや、今日もそんなに暇じゃないんだ。国政ってのがなぁ…」
「…それは、お前にとっては苦痛でしかないだろうな…」
堅苦しいことが苦手な瑛斗が国政に挑戦している場面を思い出し、ロイは苦笑しながら言った。そんなロイを気にせず、瑛斗は金を置くと、せっせと店を出て行く。
「じゃあなロイ、美味かったぜ」
「ああ、いつでも来てくれ」
「おう、みんなに片っ端から広めとくわ」
「…あまり広められても…従業員は俺一人なのだが…」
ロイがそう言っている途中だというのに、瑛斗は店を出て行ってしまった。後日、瑛斗に紹介されたと言ってこのお食事処に来た人の数は、一日で100を超えた。
次回、決まってないww
本編【黒白の王と闇夜の剣】もよろしくお願いいたします。