終わり 七話
大変遅くなりました!今回でこの話は完結となります!
もしかしたら、余力があれば続編や番外編を書きたいとも思いますが、定かではありません。
長い夢を見ていたようにぼんやりした頭で、ソレは通路を歩く。
向かう先は男から指示された研究室であり、目的の政敵を消すために足のつかない薬品を作らなければ、と胸の番号だけ書かれた簡素なプレートを認証機械に押し当て、扉を開ける。
「そういえば、あの臆病狐を捕まえようと遂に本格的に動くらしいぜ」
「あのまま隠れときゃ睨まれることも見つかることもなかったのに、馬鹿なやつ」
通りすがりの研究員が何か喋っているが、頭の中を右から左へ抜けるばかりで、ボケっとした様子は戻らない。そして中へ入った先で指示通りのものを開発しようと、頭の中に組み立てられた設計図を目の前に実現させては実験を繰り返す。
その際使用した物質をポケットに詰めたり、また時折呻きながら蹲ることもあるが、手を貸す者はおらず、皆一様にまるで何も見ていなかったかのように手を止めず作業を続ける地獄がここの日常であった。
◇◆◇
調査を始めて数日、最低限の寝食に収めた生活はだんだんその体を蝕んでいくが、狼男は止まらなかった。
一方医者に預けていたロウディはしっかり治療された姿でリッターの元に返された。その時老人の息子らしき人物からはあまりにも怪しすぎると詰め寄られかけたが、医者の「アスター君の保護者だよ」という一言で口を噤むと「息子を、ありがとうございました」と一つ礼を残してその場を去ったが結局理解は出来なかった。
一欠片の情報を求めていつもの酒場、深入りを避けて入らなかった場所へと幾度も足を運んだが、何の手掛かりも得られず重い足を引きずるその帰り道、聞いたことのある声が呼び止める。
「おい、ボロボロじゃないかリッター」
「悪い、今時間に余裕も暇も無いんだ。もう行くぞ」
「そう焦ったら見えるものも見えないぞ、俺が言えることじゃないが。急がば回れってな。アスター?君の居場所は俺が知ってる、いつもの場所へ行こう」
「っ知ってるんなら早く言え! 今ここで! 俺に余裕はないって言っただろ!?」
思わず叫んで相手の肩を力強く掴むリッターに一瞬痛みで顔を歪めた男は、しかし宥めるようにその腕をポンポンと叩く。
「だっから、焦ってもしょうがないだろう! 今この場で場所を理解して突撃したって無駄死にするだけだ! 冷静になれ!」
普段は声を荒ぶることのない狐族の叫びに、狼男は冷や水を浴びせられたように静まる。
「……俺が悪かった、すまない。あそこへ行こう」
そっと肩から手を外したリッターとヘルフェンは道中会話も無く目的地まで歩き、腰を落ち着けてやっと話を始めた。
「おそらくその子の場所はここだ。表向きはエネルギー発電所だが、地下には大層立派な施設がある。裏でそこには暗い内容しか扱っていない研究所があるわけだ。勿論政府がひた隠しにしてるだけあって、技術を漏洩させない科学的機械で中はがっちりだ。システムロックも至る所にあって、相応のコンピュータ技術か魔法技術がないとこれは破れない。仮に突破しても待ち構えるのは警備ロボと警備員。接敵したこれら全部を撃破しなければ目的地には辿り着けないと思ってくれ」
机上に広げられた地図を指し示して詳細を並べてくれるが、それらを聞いて黒色の頭には救い出せるヴィジョンが全く思い浮かばなかった。
「俺は……魔法でも科学でも秀でたものは無い。辛うじて荒事くらいは一人で行けるかもしれないが、確率は五分もないだろうな」
「だろうとは思っていたよ。いや、それでいい。システム面はこちらで全て抑える、君の仕事は直接の対決、つまりは荒事だけなんだから」
「は、何故だヘルフェン。まさか君が残り全てを片付けられるのか?」
あまりにもさらっと流した狐族の言葉に、狼男の思考が白く染まる。
「おい、別に俺一人とは言ってないだろう。俺の仲間が助けてくれるって話だ。まぁだからといって国中枢の秘匿研究所が襲撃されて向こうが黙ってる筈がない。逃走の準備はこちらで用意してやれるが、まずただでは済まないぞ」
そう言ったヘルフェンにやっと納得の顔を見せるが、それだけの危険を冒してまで手助けしてくれる味方がいるものなのかと疑問が渦巻くものの、頭を振ってその考えを追い出す。
「承知の上だ。いつ決行できる?」
「今すぐにでも、と言いたいところだが仲間に伝達する時間が欲しい。早くとも明日の深夜だ」
「上等、では時間になったら俺は行くぞ」
「構わないよ。こちらから様子はモニタリングできるから、君の動きに合わせて支援しよう」
この恩は一生忘れない。と手を固く握りしめると、こちらをずっと見つめていたその影を残してリッターは地図を手に無人の家へ走る。
――違うんだ、一生返せない借りがあるのは俺の方なんだ。君は知らないだろうけど、例の政治家秘書が不審死したあの日、原因を疑って調査したのは君だけじゃなかった。なのに薄汚れた結果を知っても尚俺は何もしなかったし、出来なかった。それでも俺が不可能だったそれを君は容易く超え、事件を糾明し子を救い、反抗してみせた。他から見れば賢いことじゃなかったかもしれないが、それが俺には唯々眩しくて、憧れたんだよ。君の勇気を見て俺は自分を恥じた。こんな俺でもいつかは君のように他人を助けられるのかなと、今でも思うんだ。
昔、ヘルフェンは秘書の奥さんが殺される前に事件を嗅ぎつけたが、無残に殺され闇に葬られるのを黙って見ているしか出来なかった。それは毒牙がやがてひとり家で待つ息子へ届きそうなときも同様であった。が、結果子供は儚く命を散らせることはなくリッターに先に助け出された。
それら一連の全てが胸にわだかまりを残し、同じようなことを二度と起こさないためにも出来る全ての活動を始めたヘルフェンに救われ、ついてくる者は多かった。そんな彼の誠心誠意の願いを受けて、この作戦に手を貸さない者はいなかった故に実現できたのが今回のサポートであった。
そして空気が張り詰めた翌日の深夜、狼男は整えた体調でもって隠し持った武器とともに片道数時間かかる目的地へ足を動かし急いだ。
その行程も半ばまで行ったところ、医者から返されるや否や「隠れ家に戻る」と何処かへ出かけた男が目の前に姿を現す。
「俺も連れてくっスよ。アスターには世話になったっス、あいつを、放っておける訳がないっス」
「お前みたいな怪我人を連れて行ける訳ないだろ、大体銃で撃たれてのびてたくせに、よく言う」
肩に包帯は巻かれたままで武器を各所に潜ませたロウディは、それに何も言い返せなくなった、が。
「疲労してるアンタ一人を行かせるより生還率は高くなるっスよ。俺の実力は知ってるスよね?」
逆に閉口するのはリッターの番となったが、そもそもこいつは「犬」族だったなと改めて認識した黒色はその揺るぎない瞳を見て説得を諦めた。
「……分かった、お前も来い。ただし命を無駄にするくらいなら、とっとと尻尾巻いて逃げろよ」
「アンタの方こそ気を付けるっス」
言い合う二人は夜の闇にそのまま姿を隠して消えた。
◇◆◇
研究所の廊下をふらふらと歩く。時々通路に片手をついたり、ポケットからぽろぽろと何かが落ちはするが、気味悪がられるそれらは清掃員が入る翌日の昼まで放置されたままだ。
後は真っ白の部屋に入って眠れば明日へ行けると足を前後に動かしていると、機械の駆動音と怒声、破壊音が遠くで小さく木霊する。
音の出所が気になったのは一瞬で、再び前へ前へ体を引きずっていると次第に音は近くなってくる。特に逃げる気も起きず、死ぬならそれはそれで良いと投げやりに自分の道を進んでいると、音が背後まで迫り、腹が圧迫されて視界が一転する。
「がっ、あ?」
「みっっっっつけた! 撤退だロウディ! とっとと逃げるぞ!」
遠くから微かな「了解っス!」という言葉が聞こえると、明瞭さを少しだけ取り戻したアスターはその身を暴れさせた。
「ちょっ、アスター暴れんな! 落とすぞ!」
「それでいい! リッターやっと脱出出来たんでしょ!? ボクは放って早く逃げて! 君に助けられる義理も無ければ価値もボクに無かった!」
「うっせぇ! つべこべ言わずに黙って助けられてろ!」
魔法のかかっている脚力は抱えられた白色に強い重力を与え、無理やり口を閉じさせられる。
そして来た道を戻る途中に合流した犬族はアスターの姿を視界に収めると、隠し切れない嬉しさを顔に出すものの現状をすぐに思い出しリッターに追走する。
「待て、こら! 逃がしてたまるものかぁ! 早くあいつらを追えこのポンコツどもが!」
「リョウカイ。シジヲジッコウシマス」
後ろから先程は気付かなかった男の声と荒々しい駆動音が追いかけてくるが、結局視界には入らずそのまま研究所を飛び出す。後ろをさっと振り向くものの追いつかれた様子はなく、都合よく目の前に置かれた車に飛び乗る。
「ちょ、これ誰が運転するっスか!? 自動運転で一々ルール守ってたら追いつかれるっスよ!」
「んなの俺しかいねぇよ! サツ時代の記憶薄いからな、しっかり掴まっとけよ!」
ロックは掛けられておらず、鍵も既に刺さっていた車のハンドル中央に貼られた紙に書かれた「頑張れ」は見たことのある筆跡で、リッターは操作を思い出しながらエンジンをかけて国境に近い我が家へと走る。
「そんなこと書いてる暇あったら操作方法書いてくれよヘルフェン!!」
それにアスターとロウディは何も口に出せずに視線を横に逸らす。
無理やりなハンドル操作と限界まで押し込んだアクセルでどうにか近くまで迫っていた追手を撒いたあと、後部座席から身を乗り出したロウディがアスターの白衣に付けられたナンバープレートに気付く。
「おっと、こんなもん捨てちまうっスよ」
そういって服からさっさと剥ぎ取り、車外に勢いよく投げ捨てる。
横目で見ていたリッターがガチャ、と何かを取り出してハンドルをそのままに片腕を外へ出すと、破裂音と先程のプレートが砕け散る音が辺りに響く。
「勝手にパクってきたが、今でも腕はそこまで落ちてないらしいなぁ」
するとプレートを取られても何も気にしなかった科学者が銃を尻目に声を出す。
「あー、やっちゃったね」
「何がだ?」
「あれ、散々ボクが歩かされた施設にばら撒いた爆弾の起爆装置に改造しといたんだよね」
それこそ威力の高い爆弾発言に、残り二人の「はぁぁぁぁぁ!?」という叫びが飛び出た後ろで、遠くから地鳴りのような轟音が耳に入る。各々がミラーや直接後ろを確認すると、遠目ながらも研究所らしき場所から沢山の火の手が上がっているのが見えるが、それらは赤、青、黄、橙、紫と妙に色彩にあふれていた。
「一色だとつまらないから、炎色反応で色々工夫してみました」
「お、お前なぁー!!」
「やっべぇ、こんなイカれた野郎そうそういないっスよ!」
「綺麗だねー」
怒鳴る狼男に笑い転げる犬族と場が混沌としてきたが。
「……ねぇ本当に、なんで君たちはボクを助けたりなんかしたんだ。ボクはこの世界で一番の大罪人だったのに……リッタ―だってロウディだってあんな酷いケガを……」
突然の落ち着いた声に、二人も一旦口を閉じる、が。
「まぁ情けは人の為ならずというか、アスターのおかげで治ったところもあるっス。それでアスターが今ここにいるんなら、体張った甲斐があるってもんっス」
「……ケガ? コイツはともかく、そんなの俺はしていないぞ、さっきのドンパチ以外ではな。お前を探すのに必死で怪我作る暇もなかったぞ。それより、大罪人ってどういうことだ」
辻褄の合わない解答に最初はきょとんとしていた魔法士だったが、謎が解けると頭を抱えた。
「あー……、そういうこと。幻覚だったんだね、あのクソ野郎……」
割と長く一緒にいたリッターでさえも聞いたことのない低い声に、獣族は一瞬震えあがる。
「……リッターってさ、大昔、人類は突然発生した人殺しウィルスと魔力の大暴走で滅亡したって教えてくれたよね? あの時は自然災害みたいな扱いだったけど、あれをやったのは、ボクだ。だからボクはどうしようもない大罪人なんだ。世界を捨てたボクは醜悪な人間を滅ぼして、新しい優しさにあふれた世界を作りたかったんだ。まぁものの見事に失敗したのは見ての通りだけど……。でも結局、折角人類滅ぼしたのにこんな目に遭うんだもの、研究所の爆発くらい許されるよね」
「程度ってもんがあるだろうが! というか倫理的にも論理的にも色々おかしい!」
「スケールが、スケールが違いすぎるっス……」
開き直ったアスターは悪気なく愚痴を言う。
「だって、嫌なものは皆も消したくなるでしょ? 視界から、記憶から。ボクはちょっと木っ端微塵にしたかっただけなんだよ、一般人だって爆発させるだけなら粉塵爆発とかバックドラフトとか思いつくだけなら沢山あるじゃない」
「どんな逸般人だよそれは!!」
仕舞いには突っ込まざるを得ない言い分に激声が何度か飛ぶ羽目になった。
しかし当たり前のように話される内容に、思わずリッターは抱いた疑問について尋ねる。
「まて、そもそもアスターは何でそんな大昔から時代を飛ばして今にいるんだ」
「ボクは科学者でもあるから、全ての人間を消して浄化された未来に行く為にタイムマシンを作ったんだ。ちょっと失敗して投げ出されたけど、ちゃんと今存在してるから大成功だったんだね」
「生きてりゃ儲けもんだけどよ……。本当に規格外だな、お前は。いや、心からすごいと思う。まぁ罪だの云々は気にしてもしょうがないし、今知ったとしてどうにも出来ねぇし、ここに当時直接被害を受けてた奴らはいねぇし、アスターがアスターであることに変わりはない」
「そうっスよ。過ぎたことをぶちぶち言ってもしょうがないっス。俺たちは気にしないっスし」
途中黙っていたロウディも明るくアスターに話しかける。
「あぁ、ボクは世界で一番の幸せ者だ。人間を滅ぼせたことは何の後悔も反省もないけど、ただ、彼には一言謝って一緒にいたかった。けど君がここにいるんだからボクはいなくて正解だったのかな」
しみじみと言う科学者がいつかの誰かを思い出す狼男をじっと見ると、当の本人の意思なき言葉が勝手に口を突いて出る。
「そんなわけがない、君の幸せを真に願ってこの時を待っていたんだ」
「っケッテ!」
本当にまた会えた。じわりと涙を滲ませて足に抱き着かれたリッターは自分が何をしたのかと困惑する。
「あ? ケッテ? 俺なんか言ったか? おいアスター泣くな足に抱き着くな蹴っちまうぞ」
「え、今リッター自分で何言ってたか分からなかったんスか? 俺も理解できないんスけど」
しかし様子の変わらないアスターをどうすることも出来ないと悟ると、ロウディを指定された場所まで送り届ける。そこでやることがあると言った犬族は挨拶もほどほどに駆けだすと、入れ違うように他のシルエットが顔を出した。
「よく生きて帰ったねリッター、本当に良かった。彼も無事助けられたみたいだし」
「ヘルフェン……本当に、お前には一生かけても返せない借りを作っちまったな。もし今後俺に出来ることがあったら何でも言ってくれ」
見覚えのない狐族にアスターは困惑してリッターの後ろに隠れるが、ズルズルと前に引き出される。
「おい、お前を助け出した作戦最大の功労者の、ヘルフェンという俺の元同僚だ」
「うぇ、それはとてもお世話になりました……。ボクも手伝えることは何でもする、多分」
失礼な物言いに狼男は白色の頭を指で弾く。
「お前な、助けてもらったんだからもっと誠意を尽くせ」
善処します、と言って一歩後ろに下がったアスターを叱ろうとリッターが振り返ろうとするが、ヘルフェンはまぁまぁ、と諫める。
「そんなに気にしなくていいよ、手伝ったのは俺の意思なんだから。それより今後のことだ。最早あれだけやらかしたら、この国の端から端まで逃げることになるかもしれない」
当人たちより深刻そうな顔で声を潜める狐族を、狼男が笑い飛ばす。
「気にするなって、大体この国に対しては愛想も情も尽きてるし、他国に足を運んでみるつもりなんだ」
「そうか……そうだな。それがいいだろう。こんな国に居て良いことなんて、無い可能性の方がよっぽど高い。明日、明日の午前でいいなら関門を開けておこうか、ちょうど知り合いがいるんだ」
それは助かる、なんてやり取りを黙って見ていたアスターは、たまに揺れるヘルフェンの尻尾や耳を目で追っていると、唐突に大事なことを思い出した。
「――臆病狐って君のことか! それはだめだ、ヘルフェンが政府に狙われてる。見つかったら命がないのは君も一緒じゃないか」
「はぁ!? そんな情報一体どこで……」
「研究所に拉致されていた時、向こうでちらりと聞いたんだ。ヘルフェン、よかったらボクたちと一緒に国を出る気はない?」
途端に焦りが戻ってきた二人を、状況に似合わず嬉しそうに狐が見つめる。
「お誘いをありがとう、その気持ちは嬉しいけどやり残したことがあるから俺はもう少しこの国にいるよ。大丈夫、それらを片付けたら俺も出て行くつもりだから。もし旅先であったらよろしくな」
その言葉に不安などは微塵も感じられず、本心から言っていることを確認してリッターは大人しく引き下がる。
「分かった、また縁があったら会おう。俺たちはお前の厚意に甘えて、明日の午前に出て行く」
互いに元気で、と無駄に言葉を重ねることなく別れたアスターとリッターは、途中自分たちの店の窓に「みなさん、今までご愛顧ありがとうございました。」とだけ書かれた紙を貼ると、家に帰って早速準備を整える。
「まぁ、消えたボクたちを追って政府がこの辺どたどたすると思うし、住民の皆も察してくれるよね?」
「そうだな。ついでにあの不動産を斡旋してくれたのもヘルフェンだから、引き払いはしてくれるだろう」
「はー、ボク荷物全く無いから移動も楽でしょうがないや。車の燃料自体はボクがいれば何の問題もないし」
「先祖代々ここに住んでたからな、俺はそう早くは終わらん。暇だったら手伝ってくれよアスター」
はいはい、と二人で片付けていき、この家最後の食事と風呂を済ませて長旅のための睡眠をとる。
翌朝、もう二度とここには戻らないだろう、と万感の思いで家を少し眺めると、最大まで燃料を詰めた車を発進させて関門に辿り着く。しかしそこには見知った影といくらかの荷物があった。
「ちょっと待つっスよ、そこの二人!」
特徴的な語尾に、威勢のいい声、連想された人物は一人だった。
「何故ここにロウディがいる!?」
「あっ、ロウディだ。昨日ぶりだね」
「ふっ、昨日塒に戻った後急いで荷物をまとめて、周りの連中に挨拶しに回ってったら親切な狐さんが彼らはこの時間にここに来る。助けられなくて本当にすまなかった、あいつらなら大丈夫だろう、楽しく過ごしてくれって後半よくわからなかったけど教えて貰ったっス! さぁ観念してオレも連れてくっスよ!」
尻尾を左右に振り、一歩も引く気を見せないロウディにリッターは観念して盛大なため息を吐く。
「はぁ……。後部座席とトランクにまだ余裕ならある。お前本体が乗るスペースが無かったら天井に縛り付けるからな、速く積み込め」
酷いっス! と言いながらもロウディはしっかり自分のスペースを確保して、三人は関門の横まで車を走らせる。
「あの方から話は聞いております、良い旅を」
「ありがとう、またヘルフェンに会ったよろしく言っておいてくれ」
了承の声を残して車は開けられた門を潜り抜け、一面の壁で見えなかった外を走り出す。
「さぁて、まずは近くの才能がすべての国に行ってみるか」
「最初っから嫌な臭いしかしないじゃないっスか!」
「そうしたら補給だけして次の国だ。幸い時間は有り余ってるんだ、よろしくやろうぜ」
「まぁそうっスけど……。こちらからも、よろしく頼むっス」
「楽しみだねぇ、新天地。この三人なら大概何とかできるよ、これからもよろしく!」
お前一人で大概はどうにかなるだろ、と一致した心を二人は口に出さずにおいた。
そうして車は三人と期待を乗せて未来に走り出した。
最後まで閲覧ありがとうございました!
また会える日を楽しみにお待ちしております。