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巡りに廻りて  作者: 啄木鳥
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始まり 一話

こちらのページを開いてくださった皆様方、大変ありがとうございます!


気まぐれに押されたのか、気になったところがあったのか、ミスタッチで開いてしまったのか、どれであろうと私はここを読んでいただけて有難い限りです!


なろうでは初めての投稿となりますが、この作品は今後発刊予定のサークル本に寄稿させて頂いた作品を手直しした作品となりますので、完結します!ご安心ください!


至らないところも多いと思いますが、少しでも皆様を楽しませられたなら幸甚の至りです。

人外とヒトの交錯する物語、よろしければ何卒ご覧くださいませ!



現在#コンパスのヒーローデザインコンテストにおいてこちらの主人公を応募中です!

主人公のイラストも見られますので、よろしかったらご覧ください!↓

http://seiga.nicovideo.jp/seiga/im8643247


「……っつう、頭痛い……」


 しとどに降る雨はソレの事情など知るはずもなく、ところ構わず水滴を落として回る。


「体も痛いし……。というより、ここはどこ?」


 目を開けた先に広がる風景に見覚えはなく、何があったのかと回転させた頭は突き刺さるような痛みを知覚した。


「っあ、つつ……。でも何か、確かに大切なナニカがあった筈なんだ。本当に大切な僕の――」


 妙な焦燥感から幾度も「何か」を思い出そうとするが、痛みは次第に増加して思考力が奪われる。

 煩悶すること数十分、遂にそれ以上の痛みを恐れて諦めたソレは、周りを見渡して現状理解に努める。 


 先ず、天候は雨、激しいうえに長時間降っていたのだろうか、辺りにはそこそこ大きい水たまりが散らばり、ソレが伏していたところにも池ができていた。そのためか着ていた白い服は水と泥でぐちゃぐちゃになっており、離れたところに木造建築の家々がちらほら見えている。けれど寂びれた雰囲気の戸はどこも閉められ、内部の一切を窺わせない。


 辺り一帯の村の様子をある程度は見はしたが、最初の通りソレが今いる場所についての覚えなどは無く、此処がどこであるかの検討もつけられないのは変わらなかった。

 そして、ソレは思い当たる。

 ないのだ、ごく当たり前の、知っていて当然の「それ」が――。


「ボクの名前って、なんだっけ?」


 途端に視界が狭まり、世界が縮小化を始める。


 ――あれ、ボクの名前って? というかボクは誰なんだ? 何者なんだ? 家族は? 友達は? 何をしていたどんな存在なんだ? どんな生活をしていた? どんな性格だった? 交友関係は? 年齢は? 記憶にない理解できない証明できない他人がいない、観測してもらわないと認識してもらわないとボクは、僕は、ぼくは――。 


「ぃ、ぉい、おいっ! そこのお前!」


 閉じた世界に差された一筋の光のように、声がやっとその耳に届いた。

 見上げた先には、頭頂部にぴんと立つ耳と突き出た鼻と口、濡れた黒色の毛並みが一層凛とした雰囲気を感じさせる、俗にいう狼男が立っていた。

 その姿を視界に収めたその瞬間から、ソレは何とも言い難い違和感を覚えた。

 こみ上げた懐かしさが溢れて止まず、意図せずとも目元には水が溜まるが、相対した男が気付く前に雨がその雫を浚っていった。

 なおも黙っている相手を訝しく思った、不純物の混じっていないべっこう飴のような瞳がソレと目を合わせるが、ソレが何か喋ろうと口を開くより前に先に声を発したのは狼男であった。


「そんなシケた面下げて、こんなところで何してんだお前。どっか怪我してんのか?」

「……ケガは、してない」


 まるで久しく出していなかったかのように声を絞り出し、油の切れたブリキのように首を左右に振った白い存在に、思わずため息を吐いた黒獣は相手の腕を掴んだ。


「そんじゃ行き倒れか? ……ともかく、お前は体を冷やしすぎてる。とりあえず俺の家に来い」


 有無を言わさない口調で言い切られた白色は、そのまま引っ張り上げるように立たされると先導されるままに男に腕を引かれて付いていった。


速いとも遅いともつかない速度で歩くこと十数分、あまり変わり映えのしない風景を横目に村を抜け、少し外れた場所にその家はあった。二階建てだがそう大きくはなく、オンボロで雰囲気の悪いさまは、ここが廃墟であるといわれても信じられる程であった。

 しかし、来る途中で狼男が度々視線を後ろにやり、ちゃんと付いてきているか、何か具合が悪くなっていたりはしていないかを確認していたことを知っているソレは、既に相手に対して「ぶっきらぼうだが、心根は優しい存在」という印象を持ち、不信感などは微塵も無かった。


「ここが俺の家だ。別にお前を取って食うつもりはねぇから、警戒するだけ無駄だぞ」


 害す意思があれば、最初に会った時が絶好の機会だと理解していたソレは、隠しきれない優しさを持つ隣の男に思わず頬を緩めた。


「あはは、そんなこと思ってすらないよ。君みたいな優しい存在に対して」

「あぁ? 俺が優しいだと? お前頭大丈夫か? ……っち、いいから中に入れ! ったく、最近はいきなり巨岩が現れたり行き倒れを拾ったり、おかしなことばっかだ」


 一瞬眉間に皺を寄せた狼男だったが冗談でないと分かると、ばつが悪そうにブツブツとボヤキながら頭をがりがり掻いた。

 そしてギィと萎びた音を立てる扉を潜り抜けて、一番最初に向かったのは脱衣所であった。


「おら、とにかくその小汚ぇ服脱いで、体中の泥を落としてこい。その格好で家を歩かれても迷惑だ。着替えは俺のやつを貸してやる」


 ほらほらと背中を押され、急かされるままに歩くソレは申し訳なさそうに顔を歪める。


「何から何まで色々ありがとう。迷惑を掛けてごめんなさ……ってうわ、ちょっと待ってっ、脱ぐから、自分で脱げるから!」


 その弱々しい態度に途中からイライラし始めた男は、問答無用で服をひっぺはがすと風呂場に放り込む。

 服を回収して洗衣装置に突っ込んでいる間も喚き声は聞こえたが「体すっげぇ冷やしてんだ。しっかり温めてこい!」というと、その声も止まった。

 先程、男は服を脱がせた際に体の白色を消すかのような無数の傷跡をしっかりと目に映していたが、一つ頭を振ってそれらを無視し、ついでに持ってきたタオルで体を拭きながら居間に戻る。


 数秒後、「あっっっっつーーーーーーーーいっ!」という悲鳴が家中に響き渡ったが、無情にももう一人の男は部屋で「あ、俺がいつも風呂の温度高くしてんの伝えてねーな」と呟くのみだった。


思ったより早く上げられました!

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