ざる
料理をすると水だけ流して
ゆがいた具材はこぼさない。
ざるはえらい。
一息ついてお湯を沸かすと
澄んだお茶だけ注いでくれる。
茶こしはえらい。
その後、洗い物をすると
みんないやがる生ごみをその身で
しっかり受け止める。
排水口の網目はえらい。
ぼくのからだはあついときだけ汗をかく
流れる血潮はあふれない。
ぼくの瞳はかなしいとき涙を流す。
流れる血潮はつたわない。
ぼくのからだはえらい。
ひとのからだは網目のようだ。
ひとのこころも網目のようだ。
なにかに別れを告げながら
なにかを大事に守るのだ。
わすれていく
うしなっていく
わからなくなる
それでもたしかにのこるのは
こころに網目があるからだ。
すべてを抱えて生きたなら
とっくに壊れていただろう。
すべてを忘れて生きたなら
とっくに僕はいないだろう。
ここに網目があったから
こうして僕はいきている。
いまもこうしていきている。
こころに網目があったから。
網目はえらい。
網目はえらい。