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G 戦場のアリア

Gの旅立ち

作者: 楸 椿榎

父へ

姿を見たことのない父へ。私はあなたと母との間に生まれた子です。時の流れというのは早いもので、気がつけば成体になっていました。今では新たな家族と共に仲良くやっています。

さて、本題に入りましょう。我々は今日、あなたが眠っていたこの地を、離れることにしました。

その理由というのは、人間たちによる撲滅運動が活発化したことにあります。

あなたが死んだその日から、何やら『オカン』の様子がおかしいことに、母の同僚が気づきました。

何やら二つ折りの四角い物体『こんぴゅーた』をカタカタと動かしていると。その動きが、最近やたら多いのだと。

しかし、秋が過ぎ、冬になっても、何の変化も起こらなかったため、母たちは「またネットショッピングとやらをしているのだろう」と決めつけていました。

そして私が成体となった今年、事件は起こりました。

なんと冬の寒いなか、人間たちは、自分達の身を犠牲にして家中の窓を開け放ったのです。たちまち暖かかった空気は凍りつきました。

それだけではありません。妻が腹に抱えたわが子達が、危険にさらされたのです。

このままでは死んでしまう。そう考えた我々は、冷蔵庫の裏に避難しました。ここなら安心だ。いつまで経ってもここに来れなかった仲間たちは、仕方ない犠牲としよう。

そう思っていました。しかし人間の魔の手は止まるところを知りません。家中にトラップを仕掛けてきたのです。もちろん、ここの近くも例外ではありません。

まんまと罠にはまり、多くの仲間を失いました。

これ以上、ここで生活していくことはできない。

そう直感したからこそ、今回この地を離れることにしたのです。

この直感があと少し早ければと、悔やまない日はありません。

しかし、生き残ったものとして、死んだ者たちの分まで、強く生きようと思います。

父よ。あなたのことは、絶対忘れません。

息子より。


「あなた、行くわよ」

「ああ、今行くよ」

思いは伝えた。もうここに未練はない。さぁ、新しい土地へと行こうではないか。

冷蔵庫の隙間から外へと出て、すぐ近くの勝手口へ向かう。ここが一番効率のよい逃げ道だった。この時間に人がいなくなっていることは確認済み。計画は必ず成功する。

ドアと金具の間をすり抜け、外界へ出るとき、上からなにか奇妙な音がしたが、今はそんなことどうでも

ぐちゃっ。

「ん? なんか踏んだ」

「いやだ、アンタそれもしかして」

「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!」

……。

「「ぎゃーーーーーーー!」」

無念……。


その日、妻とその他を残して、また一匹の尊い命が、天に召された。

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