20.ロールプレイ
「ああ!まさか貴女がこのような使用人の身に堕ちていたとは・・・あの時、私に力があれば・・・!」
俺の目の前の王子様(仮)はまるで俺達が昔からの知り合いだったかのように語りかけてきた。
いや、あの時っていつだよ、このゲームまだ開始してからあんまり日数経ってないぞ。
言っておくが目の前の男はNPCなんかじゃない、れっきとしたプレイヤーだ。
なのにこの反応・・・これは間違いなく・・・
「(こいつ・・・ロールプレイ勢だ・・・!!)」
ロールプレイ勢・・・だいたいのオンラインゲームで一定の割合でいる、ゲーム世界の人物になりきってプレイする人たちのことだ。
まぁ、基本的にロールプレイは同じロールプレイ勢同士でやったり、一人で勝手にやってるというのが常識だが・・・
目の前の相手は話し相手がロールプレイ勢でなくても勝手に設定を付けて、盛り上がってしまうタイプのようだった。
「あの、ぼ、防具に興味はあるのでしたら、ぜひおすすめしたいお店があるんですけど・・・」
俺は相手の話をスルーし、呼び込みとして会話することにした。
ここで相手の流れに乗ってしまうと、絶対に時間が掛かるし、こっ恥ずかしいロールプレイをせざるを得なくなるかもしれないからだ。
「ああ・・姿だけでなく、心まで使用人に染まってしまったのですね・・・」
が、相手は手強かった。俺の言葉を自分の都合のいいように解釈してきた。
「(・・・もう、こいつをひっぱたいて逃げ出しても許されるんじゃないだろうか?)」
俺はこの厄介極まりない相手からどんな手を使ってでも逃げたかったが、かなりの確率で「姫!なぜ、私を拒むのですか!」とかなんとか言ってきて追いかけてくると思うので、逃げ出すのは愚策と思える。
しかも、周りも俺達の事をいろんな目で見始めてきた・・・。
「(こ、こうなったら・・・ヤケクソだ・・・!!)」
俺はこの状況から一刻も早くぬけ出すために、心を殺し、この王子様を絶対にこぬこ屋に誘導するためにとある決断をした。
「・・・・・・」
「姫?どうしたのですか?」
急に目をつむり、黙りだした俺を心配そうに王子様が言ってきた。
俺は深呼吸をし、今からやることでボロが出ないように、心を落ち着かせる。
ロールプレイに対処できる数少ない手段・・・それは
「王子・・・今の私では貴方に姫として会う資格なんてありません」
こっちもロールプレイをすることだ・・・!
これには相手も少し驚いたのか、一瞬、素の表情をみせた。
俺が恥ずかしさを感じる前に決着をつけなくては・・・
「な、何故ですか姫!?私は・・・」
「今の私は、もう歌姫などではなく、借金を返済するためにこぬこ屋で働くしがない小娘に過ぎないからです・・・」
相手は食い下がってきたが、俺は悲劇のヒロインを演じることで距離を作ることにした。
借金についてだが・・・嘘はいってない、まだMPポーションの費用を返してないし。
それに、こぬこ屋で働いてることも間違いではない。
「一国の王子と借金を抱えた小娘ではあまりにも世界が違います・・・私のことはお忘れになってください・・・」
「そんな・・・私は貴女と過ごした日々が忘れられないのです!」
いや、俺にはお前と過ごした日々なんて記憶に無いし、そもそも存在しないんだが・・・・
さっきまでは相手のロールプレイに圧倒されていたが、今は立場が逆転していた。
これはチャンスだ、一気に畳み掛ける!
「駄目です・・借金を背負った身では貴方に会えません・・・ですが借金がなくなれば・・・」
「そうなのですか・・・わかりました、姫のために一肌脱ぎましょう!」
勝った・・・!勝ったぞ・・・・!!
俺は心の中でガッツポーズをした。
ここまでロールプレイをしておいて「いや、お金持ってないし買いません」とは言えないだろう。
「姫、こぬこ屋の場所まで案内してください!」
「わかりました、こちらです」
自分から案内を頼み込んでくるほどうまくいったようだ。
俺は王子様をこぬこ屋に案内し、店の中に入れた。
財力には自信があるみたいだったし、ミリアも満足するような金額を落としていってくれるだろう。
「・・・・・・・」
王子を案内し、こぬこ屋に突っ込ませた後、俺は無言で広場に戻った。
だが、呼びこみをするわけでもなく、俺は一直線に広場の長椅子に座った。
なんでこんなことをしてるかというと
「(・・・・・・・男としてなにか大切なモノを失った気がする・・・)」
真っ白に燃え尽きていたからだった。
昨日から風邪気味で辛い・・・
更新は頑張るつもりですが、ちょっとペースが落ちるかもしれないです。




