19.初心者と初心者
「な、何をすれば良いのか、ですか・・・?」
俺は予想外の質問をされて、困惑していた。
これがRPGとかなら「魔王を倒すためにレベルを上げて、装備を整えて・・・」とかいえただろう。
だけどVRMMOであるアルカディアの遊び方なんて人それぞれだ。
最強を目指す人もいれば、生産系を極める人もいるかもしれない、もしかしたら全く戦わずに友達と仲良く会話することを目的にしている人もいるかもしれないし、とにかく有名になりたい人もいるだろう。
「はい、周りの子達が楽しそうにこのゲームの事を話していたので、私も・・・と思ったのですが、名前を決めたら何も説明もなく開始してしまって・・・」
ユノさんは困り顔で答えてくれた。
なるほど、アルカディアでこれがやりたいという目的があるわけでもなく、周りの流れに乗っかって始めただけなのか・・・。
俺も特に『アルカディアでこれがしたい!』ということはなかったが、篠田に誘われてこのゲームを開始したから基本的に篠田と一緒にプレイするという目的があった。
でも、ユノさんは一人で開始したからそういう目的もない。
それにこのゲームは特にチュートリアルみたいなのがあるわけでもない、公式サイトに説明はあるらしいが俺は読んでない。
チュートリアルがないこともあってユノさんにはどうすればいいのかわからないのだろう。
「(俺もβテストに参加せずに最近始めたばかりの初心者なのにこういうことを聞かれてもな・・・)」
はっきり言って、相手が望む答えを俺が出せるとは思えない。
俺もまだまだ知らないこともあるし、人生経験だってあるわけでもない(この相談に人生経験が必要かどうかは不明だが)
だけど、ここで「いや、私も初心者なのでそういうことを言われても困ります」といって突き放してしまうのも俺にはとてもじゃないが出来ない・・・。
俺もナタやミリアからいろんなことを教わったので、わからないことを人に聞きたいという気持ちは自分の身を持って経験してるからだ。
「うーん・・・最初は他の人とパーティを組んでレベルを上げたりするといいかな・・・スキルの発動方法とかメニューとかはわかりますか?」
とりあえず俺は一番最初に自分のやったことをそのままおすすめした。
異論はあるだろうけど、MMOはある程度レベルが上がらないと本当の面白さがわからないというのが俺の持論だ。
マイナースキルを取るにも最初は3ptしかない、戦い以外のことで楽しむ場合でも、まずはレベルを上げてポイントを稼ぐ必要があるだろう。
だけど、ユノさんは回復役っぽいし、一人でレベル上げするには俺ほどではないが厳しいだろう。
だから、誰かと協力してもらうのがいいだろう、MMOで回復役は基本的に欲しがられるし、組むのはそんなに難しくないと思う。
問題はユノさんがそもそも操作方法とかがわからないとしたら説明するのが大変そうだったが・・・
「はい、周りの皆さんを真似してたらメニューをだせたので、ヘルプを全部読んでおきました」
ユノさんはそこら辺はしっかりしてるようだった。
俺は最初のヘルプを読んだ後は全く読んでなかったのでちょっと耳が痛かった。
ここまで話して思ったが、ユノさんは真面目というか・・・格好だけでなく雰囲気がシスターっぽいんだよなこの人。
「なら大丈夫ですね、レベルが上がればできることも増えるし、そこからやりたいことを見つけてみるのも一つの手だと思いますよ」
少なくとも俺はそう思っている。
最初から目的を無理やり探すよりはこっちの方法のほうが良いだろう。
「なるほど・・・非常に参考になりました、早速やってみます!」
ユノさんは俺に頭を下げてお礼を言い、去っていった。
・・・もしかしたらアドバイスをミスった可能性もあるが・・・まぁ間違ったことは言ってないと思いたい。
ユノさんが去った後、俺は再び呼びこみを再開することにした。
ユノさんがちゃんとパーティを組んだり、戦えるのか気になったがそもそも俺は呼びこみの途中だ。
どんなに気になっても、まずはやるべきことをやらないといけなかった。
「んー・・・・」
俺は再び視線を広場に移す。
プレイヤーはいっぱいいたが、誰に声をかけるのか非常に迷っていた。
ユノさんとの会話でだいぶ時間を使ってしまったことだし、挽回するためにお金を大量に持ってそうな人を探したかったからだ。
俺は視線を横に移動させていたが、途中でぴたっととまった。
俺の視線の先にはまるで貴族のような華やかな格好をし、顔もファンタジーの王子様のようなイケメンだった。盾や兜は装備してないが、むしろ装備しないことで貴族っぽさがでていた。
俺の中身が女の子ならときめいてたかもしれんが、中が男である俺にとってはむしろ敵対心すら芽生える
だけど、今のところ一番お金を持ってそうなのはそいつなので声をかけるとしようか。
それに装備しているものはどれもデザイン性を重視してるっぽいし、もしかしたら買っていってくれるかもしれない。
「あの~、防具に興味はありませんか?」
俺はそいつに近寄って声をかけた、もちろん笑顔で、もう男相手にスマイルをお届けするのも慣れてきていた。
「・・・・・・」
しかし、相手から何も反応はなかった。
やばいミスったか?もしかしてどこかでボロを出してしまったのだろうか?
相手は俺をじっと凝視していて、まるで値踏みをされているような感覚だった。
だが、少し経つと
「ひ、姫!ここにいたのですか!」
と急に俺の手を取り、さっきまでの無反応はどこへやら、いきなり喋り出した。
このシーンだけを見ればメイドの身に堕ちた元お姫様と王子様の出会いのワンシーンだが、もちろん打ち合わせとかもしてないし、この男とは今日始めてあったばかりだ。
なのにこの反応・・・・
「(こ、これはまさか・・・!)」
先ほどとは別ベクトルで厄介なことに巻き込まれたのだと、その時俺は気がついたのであった。
最近あんまりRPG・・・というより主人公がすでに決まっているゲームをやることがかなり少なくなってしまった気がします。
理由としては、子供の頃は主人公とかに感情移入しやすかったのですが、大人になると自分の分身であるはずの主人公に感情移入できなくなってきたからだとおもいます。
なので最近はストーリーやキャラクターではなく面白そうなシステムかどうかで買うのを決めてしまってる気がします・・・。




