フィーユという少女の語る世界
わたくしが暮らしていたのは迷い込んでしまったこの街とはかけ離れた、異世界でした。その世界の名前はお伽の国と呼ばれお伽話によって作りだされたキャラクターたちはこの国に暮らし、平凡な暮らしを営むことで元である物語の内容を保つ役割を持っていました。
ちなみにわたくしは名前はありませんでしたが、『マッチ売りの少女』の主人公でありました。
『マッチ売りの少女』はご存知ですよね。皆様のご想像の通り最後はマッチの幻想で見えた大好きなおばあさまの姿と一緒になくなってしまう。わたくしはお伽話のわりに切ないこの物語の主人公であります。
そのためお伽の国での生活ではわたくしは大好きなおばあさまとお姫様や王子様の靴磨きをしておりました。
毎日毎日、おばあさまは身体が悪かったためおばあさまの介護と靴磨きの仕事で生活自体は裕福ではありませんでしたが、幸せに暮らしていました。お伽の国では作中の身分や振る舞いなどがそのまま反映されていく掟があります。そのため、作中でもわたくしは身分がとても貧しいものであったため、国から強いられた生活はこのような暮らすことのみを保障された生活を送ることがこの国の掟でした。
しかし、暮らしていけることのみでわたくし自身は十分満足していました。
だって、大好きなおばあさまとずっと暮らしていける。もうわたくしは寂しくない。それだけで有り余る幸せでしたから……。
ところが、わたくしの平和は揺らいでしまいました。
隣町より、王様が来たのです。名前はケーヒニ。彼は上半身いつも裸であることが彼に課された掟でありました。雨の日も風の日もいつもどんな時であれ上半身は裸でなければなりませんでした。この町で不思議な格好を強いられた20歳なりたての若い王様であったケーニヒは住民たちから当然のごとく不思議な目で見られ、変態のように思われていました。
彼に近づくものはいなく、彼はいつも孤独でありました。
町中がそんな雰囲気だったため、わたくしも大好きなおばあさまの支持もあり、彼はどこか遠ざけるような扱いをしていました。
そんな中、ある日わたくしは町で偶然彼が困っている姿を目の当たりにしてしまいます。
彼はひとりで町の中を探索していたようで、迷子になってしまったようでした。
しかし、この町で不審な人物として彼は認識されていたためそれを誰にも聞けずに困り果ててました。
そんな姿を見かけたわたくしは無視することはできずに彼に声をかけてしまいました。
「あの、何かお困りですか?」
そう、少し緊張しながら聞くと彼は微笑みを返してこう言い放ちました。
「ありがとうございます。実は、自分の宮殿に戻ろうとしたのですが、来た道を忘れてしまい迷子になってしまってて……。」
王様ながら、その恐縮した彼の態度がわたくしはやけに身近に感じました。
「ふふふ…。申し訳ありません。あまりにも王様らしからぬ返答でしたので、つい驚いてしまいました。」
「そんな風におっしゃられると、貴方のおっしゃる王様の印象はどんな印象であるのかとても気になります。僕はそんなに変でしょうか?」
「いいえ、変ではありません。良い人だと思いますよ。」
そうわたくしが彼に言うと彼は今まで真っ赤にしていた顔がより一層リンゴのように赤くなりました。
「そんな事生まれて初めて言われました。なんだか照れくさいですね。」
真っ赤になった頬をかきむしりながら下を向きました。人は見かけによらないとはこのことでした。
その日からわたくしと彼は毎日わたくしのおお仕事のお休みの時間にて二人で会ってはたわいもない話をしました。そして、彼にわたくしは恋をしましたの。
身分違いの恋でした。しかし、彼にわたくしの思いを告げると彼はそんなの関係ないといい、わたくしのこの思いを受けてくださいました。
何もかもがうまくいった世界。そう思っていましたの。
しかし、彼はある日お伽の国の治安を維持するために設置されている魔女裁判にかけられ、牢獄の刑に課せられてしまいました。
わたくしとの恋が発覚し、彼は今までの平常を取り持つことが出来ず、それが原作の物語を書き換える原因になってしまったことで罰を下されたのです。そして、そんな相手であるわたくしも刑に課せられました。それが、流刑というものでどこかの世界に流されてしまうという刑です。
そして、今に至ります。わたくしは彼にもそして大好きなおばあさまにも会わなければならないのです。
どうかお力添えお願いできないでしょうか?
少女はそう告げると深刻な面持ちで私に小さな頭を下げてきた。
こんなにも真剣に人に頼られるのはいつぶりであろうか。彼女の泥まみれな小さな手と小さな頭を眺めながら切なさもふと感じた。
「いいですけど……。」
そう気が付くと言葉を出してしまっていた。めんどくさい事は嫌いだ。だから、後悔した。
「よろしいのですか!ありがとうございます。」
キラキラと宝石のような瞳が私のあるかないかの良心を苦しくさせた。
「とりあえず、今日の宿に向かってもいいかな。」
昼間居た猫たちも嘘かのようにいなくなった夕暮れの公園で私はとりあえず彼女のことよりも自分の今日の事を考えてみた。