暢気は勇気!
大人数MORPG型ゲーム「戦乱(※実際に同名のゲームがあるかもしれないですが、ここは架空のゲームを指します)」、それは歴史を持つネトゲだ。何よりルールが簡単で、「自分のスキルと武器を使って生き残る」それだけでスタートした。
それがいまや、国を立て(国家ユニット保持者が大名)、軍団を持ち(古参プレイヤーが自主的に集まった)、そして数十の小勢力に分かれて戦っている。
僕はこのゲームが大好きだ。
古参ではないものの参加した時期は古い。ソフトそのものはリアルタイムで買っている。
ただ、ネトゲは定期的なログインと課金と攻略が必要なので、僕は周りに置いていかれた。負け続けてレベル15まで上がったレベルも、いまや3だ。
そんな僕に転機が訪れた話をしよう。
それはゲーム暦1560年、レッド国とブルー国の反乱分子制圧作戦だった。
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右目と右の頬でショートカットキーにアクセスし、視界にログを出す。
意識がゲームの世界に入る? 転生ゲーム? 現実はそんなに甘くない。
僕は自宅のコンピュータの前で、コンピュートグラス(※アイマスク型コンピュータ)と、手にコンピュートグローブ(※10本指型マウス系デバイス)をつけている。
「自軍の仲間は…… いないか。」
興味半分にレッド国の反乱軍に身を投じた僕は、レッド国とブルー国の本気にビビッていた。
「困ったなあ」、実際には昨日も何もできずにやられて、ゲームオーバー。
一定時間で民兵ユニットとして復帰できるから問題ないけど、何かこう…… 無力感に覆われたログイン人生を送っていた。
そんな中、スクリーンのナビにスキル発動可能のマークがついている。
僕は左中指でこめかみをたたき、メッセージを読み、そして実行した。
「スキル:暢気、発動! 今回の効果時間は本日バトル終了まで」耳にボイスが入る。
僕はこの効果発動が好きだ。「暢気」は、戦乱の世界を文字通り「暢気に過ごせる」と言うスキルで、基本的に害になることはない。もっとも人気スキルは「剛胆:集中時武器スキル2倍」「軍師:武将レベル以上になると知力適正が上がる」とかだけど。
とっさにログ画面が地域マップに切り替わる。「暢気」が発動した。
「>貴方と共存できそうな民兵がエリアA3にいます。ターゲットをチェックしました。」
仲間がいるらしい!
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西側のエリアからA3に入ると制圧されている…… 北から入るか。
僕はA3に入ると、見えない"彼"を探した。
ここでバトルがあったのだろう、足元にはコンクリートの瓦礫が散乱し廃墟がたたずむ。
「元アパートか…… まだNPCが住んでいるかな?」
廃墟でもゲームである以上、住人生活ができるようになっている。うーん、ゲーム。
先へ進む。
階段に足をかけると、豪快にすっ転んだ!
「武器をよこせ!」直ぐ隣から人に飛び掛られた。
階段の一段目に落ちていたロープが、急に引っ張られたのである。
彼は紫国の鎧を着ていた。僕の弓を取り上げると、僕に矢尻を向けた。
「民兵さんか? 動かないほうがいい、俺は弓スキル振ってる」
…… 僕は黙って彼を見た。
「あんた、紫国の兵士じゃないでしょ? 僕には分かる。休戦しようよ。」
相手は驚く。
僕は察して言った。
「僕のスキルで、君が仲間だとは分かってるんだ。ここはもう直ぐ制圧されるよ? 経験値失いたくなかったら、二人で逃げよう?」
彼は「驚いたな、紫国の鎧着てるとみんな逃げるのに。そんなスキルもあるのか。」と唸ると気を取り直し、改めて「俺はモカ、万年民兵で仕官もできてない」と名乗る。
僕も名乗る「僕はカッコ、万年暢気民兵さ」と。
刹那、通りの向こうで音がする。
「来たか!」、二人で息を飲む。
二人で階段を駆け上がったけど、後ろから追っ手が来る。
またレベル下がるのか…… と思っていると、三階から明かりが見える。
部屋に滑り込む。
「ナビゲーション:住人の部屋」、二人のモニターに表示されていることだろう。
大抵NPCは非戦闘員なので悲鳴を上げて逃げる。
二人は諦めモードだ。
「なんだあお前たち!?」、NPCが声を発した!
戦闘員だったのか。覚悟を決めた。
しかし、「ここは俺の家、俺は黒国のプレイヤー」と言う声に、混乱してしまった。
普通、家と言ったら城下に作るものだし、こんな地方都市の廃墟に住むなんて考えられない。案外、「暢気」が導いてくれたのかもしれない。
ショートカットキーで「話す」を選択しようとすると、「我、プレイヤーなのでコマンド不要」と先にログに表示された。
モカが言う。「オッサン助けろよ。プレイヤーの自宅なら、兵士の排除権限あるだろ?」
オッサン、にこやかに両手を出す。
…… あ、これは取引モードだ。
僕はなけなしの1021Gを渡した。
モカを睨む。
「金はない、代わりにこれでどうだ?」と、モカはイヤリング(装備アイテム)を出す。
それは黒水晶の細工品だった。
オッサンが話す。
「なんだ、懐かしいなあ。黒の国建国のときに配属プレイヤーに配られた……」
すると、足音が二階まで来ていることを悟ったオッサンが、(初夏なのに)冬限定アイテムの「初詣コタツ」に入るように促した。
コタツ布団の隙間から、静かに覗くと、ブルー国の兵士は割れた窓を一瞥し、去っていった。
「…… 今しかない!」
モカがそう言うとコタツを飛び出し、兵士を追いかけた。
僕もそれに続く。
階段を下りている兵士に飛び掛り、兵士は不意を食らって倒れ、ログアウトした。
「レベル4、仕官必要まであと少しです」
二人は笑った。こんなに要領の良いやり方があるなんて! やはり、一人が駄目なら二人でやればいい。
「モカ、次のレベルが上がったら、一緒にレッド国に仕官しないか?」
僕はモカに持ちかける。モカも満足そうだ。
- 3 -
僕たちは仕官の準備をするために不戦地帯へ向かうことになった。
反乱軍捕虜であってはならないと言う認識で二人は一致した。
不戦地帯には、各国の高レベル者がいる。
今日の内に不戦地帯に入り、レッド国の力を借りる。そして明日のバトルで仕官だ。
エリア中央は不戦地帯を目指す民兵にとって安息の地。だけど、初心者ハンターも多い。ひたすら中央近くに隠れて初心者狩りをする輩もいる。僕たちはカモネギだ。
中央の施設が見えたとき、モカが右手で僕を制した。
「カッコ、南に8剣士。隣の二階にスナイパー1、元気でな」
僕が驚くとモカは走り出した。
「お前も走れ! レベル下げるなよ、約束だ」とモカはそのまま建物に逃げ込む。
初心者狩りがモカに押し寄せる。
僕は意を決して不戦地帯に目標を絞ると、駆け出す。
「モカ、時間まで生き残れよ」
不戦地帯に入る直前で建物の二階を見たら、モカを狙撃しようとして集中しているスナイパーがいたので、臭い玉(※臭いアイテム)を投げつけてやった。
これで集中できないだろう。
ついでに得たわずかな経験値でレベルが5になった。
かくして、僕は不戦地帯に入った。戦闘終了だ。今はモカの様子を眺めている。
「おお! あいつ、与一(弓スキル)持ちか!」
一緒に見ている戦士が叫ぶ。
モカは廃墟ビルの階段を登り、間合いを詰められながらも一人一人剣士を射抜いていく。
時には上から石を落として登らせない。
「あと三人!、いや、二人!」
周りの全員が手に汗を握る。
しかし刹那、いや、あと少しと言うところで、モカの活躍は終わった。
最後の一人が隊長レベルだったのだ。
「あー、あいつマジックアーマーだ。弓効かねえよ。」
モカが捕虜になると、僕一人を除いて興味を失ったようだった。
- 4 -
「ナビゲーション:バトル終了、本日の結果を発表します。戦った皆さんも全員お友達に戻りましょう」
僕は、レッド国の陣営にいる。
レッド国では、今回の討伐戦で成果を上げた、旧国の領土持ちが抜擢されていた。
「コネがあるやつはいいよな」と一同。
そして、僕の名前が呼ばれた。
「カッコを新たな仲間として仕官を認める。お前たち、かわいがってやれ!」
僕は上官に緊張した顔で言った。
「民兵や、まだ仕官していない者、仕官したての同僚はどこにいますか?」
笑って「そこそこ」と上官は指を刺す。
声を出して、大声で!
「みんなで一緒にレベル上げよう! 個人戦でやったって駄目だ。民兵で一緒に戦う人いないか? 仕官してたって、役職がないなら、一緒にやらないか!」
僕は叫ぶ。
「レベル1の俺なんか邪魔だろ?」「ん、そんなことない」
「まだチュートリアル終わってない」「手伝うよ」
一同、顔を見合わせる。
「実は俺、このゲーム止めようと思ってたんだ。古参プレイヤーとレベル差激しくてさあ」
僕は彼らに話す。
「『スタック』って言うのがあって、プレイヤーとプレイヤーを重ねるんだ。全員の体力値を合わせれば、強敵にも勝てる。」
カッコは叫ぶ、「僕と一緒に『初心者レッドスタック団』やろうよ!」
勢いで盛り上がったプレイヤーたちの参加者は、22人だった。中には仕官したヤツもいた。
上官は大声で笑って、相槌を打ちつつ。
「まあ、仕官したやつはノルマあるが、基本自由だ! それとお前ら! 自分のスキルカード見てみろ!」
一同、目を輝かせる。
僕たちのスキルには「軍団規模追加レベル:2、平均体力上昇追加レベル:5」と書いてあった。レベル2で、もう仕官クラスと互角に戦える状態だ。
上官の「お前ら、軍団効果知らなかったのか?」と言う台詞に、一同が「知らない」と答える。
「最近のプレイヤーはネットで調べんのかねえ」と愚痴をこぼしているが、僕も軍団は知っていても効果まで知らなかった。きっと、上位プレイヤーは都合の良い情報を隠しているのかも。
僕は、今までフレンドを作らなかったことを悔やんだ。
ふと、僕のステータス画面にレッド表示があることに気づいて声を失う。
「所持ゴールド:-200000G!」
慌てふためく僕に「あー、プライベート軍団は国に税金取られるから。」と言って、上官は申し訳なさそうに見ている。
「ま、何はともあれ、民兵軍団を作ったのはこいつが初めてだ。今日は解散!」
そして、みんなログアウトした。
- 5 -
ロビーにログインすると、モカが手に何かを持って待っていた。それと服が変わっている。
「モカ、その服……」
モカの手に持っているアイテムを識別すると「副隊長の証」だった。
彼は静かに佇んでいた。
俺は笑顔で、「これ見ろよ! 俺も軍団長だぜ」と言わんばかりにステータス画面を見せ、親指を立てた。
モカは驚いていたが、ある一点に目を留め、変な顔をした。
借金はいいんだよ、うるさいなあもう。
「『いつか、ブルーとレッドで同盟が組める日まで!』」
そう、共通の思いがあったと僕は信じたい。
初めての友人がライバルになってしまったのは悔しい。
でも、楽しくプレイしたい。
ここは「戦乱」戦うゲームだ。
P.S.
後日、モカからのフレンド申請があり、急いでメールをOKした。
興奮しててフレンド申請するの忘れてた。
ごめんね。