紅月と七色の宵闇 1
その日の夜は満月だった。
満月は人を狂わせる。満月は妖怪を活発にさせる。
人も月を見て酒を飲み、妖怪も月を見て酒を飲む。博麗神社では巫女がいつものごとく鬼に頼まれ宴会を開かされ、妖怪たちと酒を酌み交わしていた。言葉上では妖怪と巫女が神社で宴会だなんて散々だわなんて愚痴をこぼしながらも、酒によって少し赤らめた顔は微笑んでるようで、言葉とは裏腹に満更でもないようだった。
特にその満月の恩恵を受ける誇り高き種族、吸血鬼。
今夜はあの紅い屋敷に住む吸血鬼たちはきっといつもよりも何処よりも賑やかで。屋敷の主、レミリア・スカーレットを中心にして朝日が昇るまで騒がしくパーティでもやっているのだろう。
そして神社で巫女が催している宴会こそは出ないけれども、単独で満月を喜ぶ妖怪たちもいた。
その単独で満月を喜ぶ妖怪の一人は、森の中でまるで子供が花火でも見るかのように、目を輝かせはしゃいでいた。見た目も幼く年相応の喜び方をしていてとても愛らしい。
でも彼女は気づいていない。
彼女は本来そこにいるはずの妖怪ではないのだ。野生にも暗闇にもすっかり染まり、本来の姿を見る影はどこにもなく、もう本当の彼女のことを知っているものも殆どいない。
約500年前に話は遡る。




