幻想の始まり 31
麗夢はどうしたらいいのかわからなかった。
自分がいれば紫の願いが叶うと言われ、信じることもできなかった。自分の願いもわからなくなっていた。確かに紫のような願いもないわけではない。だけど師匠とも一緒に居たい気持ちもあった。この先あの人と会えるのかどうかもわからない。
「私がいれば、そんな世界ができるんですか?」
「そうだな、寧ろお前と紫がいなければその世界は実現しない。あぁ、それと私も必要だけれどな。この三人がいなければ成り立たないといえば成り立たない」
紫としては複雑な気持ちだった。自分の我侭で麗夢の人生を変えてしまうのではないかと。
本当に望んでいるのならば良いけれど、そうではない気がして。本当に望んでくれているのかわからなくて。
今は良くても後悔しないのかが恐ろしくて。麗夢の本当の願いはなんなのだろうか。
自分がここで何かいうと良くも悪くも影響を与えてしまう。彼女がどっちの世界を選ぶにしても自分のせいになってしまうんじゃないかと思って何も言えなかった。
「少なくとも紫は、麗夢がどうするにしてもその世界を望むんだな?」
龍神が急に紫に問いかける。紫は少し驚きながらも、龍神の問いかけに答える。
「私は何があってももう後戻りはするつもりありませんから」
「そうか、ならばあと麗夢だけだ。別に最悪いなくてもできないわけじゃない。だけどそれは完璧な世界ではなく不完全であることは間違いない」
「私がいれば完全になるって言うの?」
「そうだ」
龍神は短く一言で答える。麗夢はそれを聞いて下を向く。そうして少し小さな溜息をつく。そのあと少しして空を見上げながら大きく息を吐いて龍神を見つめた。
「…いいわ。その世界完全にしてあげるわ」
「…!麗夢それじゃ師匠は?!」
「師匠にこっちに行けって言われてる気がしたから。その世界にも興味がないわけじゃない。いいのよ。あんたのせいじゃない。私が行きたいからその世界に行くだけ」
「それでも師匠を捨てていいの?」
「捨てるなんて言い方しないでよ。これでも昨日からずっとなやんでたんだし。師匠が行きたいなら行けとも言ってたし、きっと大丈夫よ。寂しくないわけじゃないけどね…」
「無理はして欲しくないのだけれど…でも本当にそれでいいっていうのなら私は…」
「紫、わざわざ相手の気持ちを否定するもんじゃない。自分のせいだと思わなくていい。嬉しいことだろうし、素直に受け入れたらそれでいい」
紫はそう言われ黙った。これ以上何も言ってはいけない。若干の罪悪感はないわけじゃないけれど心の中で喜べばいい。頭はまだ理解しきれてないけれど、言葉の意味は理解した。
「とは言っても麗夢、その判断で本当にいいんだな。もう戻れないぞ」
「…えぇ。ここに来させられるまでは考えもしなかったわ。無理だと思ってたし。だけど神様が私がいれば出来るって。師匠が私をここに来させたのもきっとわかってたんだろうし。だからいいと思うの」
「そうか、わかった」
短く言葉を発し龍神は背を向ける。そして神社の方に歩き出す。賽銭箱を回り込み紫と麗夢の方を見る。
「じゃあその世界をこれから作ってやろう!幻想の世界を創るのだ!全ての忘れ去られたものの最後の楽園の故郷、幻想郷を!」




