幻想の始まり 29
「え…博麗神社…?」
「あれ?紫あなた知ってるの?」
「…どこかで聞いたことある気がするんだけれど…どこだったか思い出せないの」
紫は不思議な気分だった。何かどこかでこの光景を見たことがある。だけれど思い出せない。
あれ、こういう現象なんていうんだっけ。それも思い出せない。けれどとりあえずそれは置いておいて…なんでここを知っているんだろう。
「いや、気にしなくていいわ。それよりここに何しに来たんだっけ?」
「師匠がね、ここに来たら私の出自がわかるかもって。それに私があなたと一緒に行けば理想が手に入るかもって。だから私が理想を求めるなら一緒にここに行けばいいって。まぁだから私も詳しくは知らないんだけどね」
「よくわからないのにこんなところに来ちゃったの」
紫は少し悲しく微笑みながら返事をする。きっとこんなやりとりはこの神社での用事が終わったらもう出来ないんだろう。もうこれから別れるのは間違いないのだから。だからその最後のやりとりまで出来る限り笑っていようと。
「で、ここに来るだけでなにか分かるわけじゃないでしょ?」
「だろうね。だからこの神社で祀られている神様に聞くのが一番早いと思うんだ」
「神様?どんな神様がいるの?」
「この世を創りだした龍神様よ」
麗夢はその言葉を最後に神社の眼の前に歩いていき、賽銭箱の前に立つ。紫もそれについていく。
麗夢が賽銭を入れようとした時だった。どこからか声が聞こえてくる。
「懐かしい顔だな」
その言葉の主は真後ろにいた。少し不思議な格好をした人がそこにいた。
「あなたは誰ですか…?」
「私はこの神社の神だぞ?」
とても神には見えない、普通の人間のような格好をした神がそこにいた。
しかも紫や麗夢とさほど変わらないような容姿をしていた。
「あなたが…?」
「とても神には見えないというのか。まぁそうだろうなぁ。本来の姿で人前に出れないからな。人間は脆弱すぎるから」
威厳も何もない。少し変な格好をした女の子。ただ話す言葉遣いには年季の入ったものを二人は感じていた。
「で、この神社に何しに来たのだ?」
「ある人にこの神社に来たら私の出自がわかると言われまして…」
「あぁ…もうお前はそんな年齢だったか。懐かしいのう…」
「龍神様は私を知っているんですか?」
「知っているとも。お前は本来私の側にいるはずの存在だったのだから。陰陽師なんて今はやっているようだがお前の母親もここで巫女をやっていたのだもの。お前も本当ならここで巫女をしていたんだがな」




