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東方物語集  作者: Ra
幻想の歴史 始まりの物語
42/56

幻想の始まり 27

次の日の朝。

雲一つない青空だった。太陽の光が眩しい。



麗夢はあまり寝れなかったようだ。

未だに決心がつかない。どちらも望んでいることだから。



「おはよう紫」


「おはよう」



毎朝するはずの何気ない挨拶。これが最後の挨拶になると二人は思いながら。



「あなたは…九尾を捨てるつもりはないのね?」


「…えぇ」



少しの間をおいて紫が答えた。その言葉を聞いて麗夢は悲しみを覚える。現実はどちらかしか選べない。

紫は話を続ける。



「私がこの子を式にしなかったら争いは続いていくわ。貴方たちと別れるのは悲しいけれど、私がいなくなって少しでも平和になるのならそれはいいことなのかなって思ってね。私がこの狐に入れ込んでるって理由は無いわけじゃないけれどね」


「…貴方昨日の陰陽師たちの態度から見てもわかると思うけれどこの家を離れたら一人ぼっちになってしまうのよ。これからどうやって生きていくの?」


「どうやって生きていくのかはわからない。けれど死ぬわけじゃないわ。一人ぼっちは寂しいかもしれないけれど、仕方ないもの」



麗夢はこれ以上紫の意思を変えることができないと思い、何も言えなくなってしまった。できれば式を捨てて欲しかったけれど、ただの我侭にしか過ぎないのかもしれない。



「あぁそうだ。麗夢、よかったら式神に着せるために一枚服が欲しいのだけれど…最後の図々しいお願いだけれど聞いてくれるかしら」


「…全く陰陽師の服を元妖怪に着せるなんて貴方くらいよ本当」



麗夢は少し笑いながら皮肉を言う。こんな皮肉ももうすぐ言えなくなると思うと最後のお願いくらい聞いてあげたかった。



「九尾、どれがいいかしら。貴方の好きなのを選びなさい」


「麗夢さん、ありがとうございます」


「貴方の頼みじゃなくて紫から頼まれたことだからね。ほら、好きなの選びなさい」


「じゃあ、これで」



九尾は服が出されてきてすぐ選んだ。



「試着とかはいいのかしら」


「えぇ。これなら大丈夫です」


「貴方がそう言うならいいわ」



また沈黙。そろそろこの家から紫達が出て行ってしまう。できれば受け入れたくない。

他に何か言うことはないだろうか。この人に思い残すことはないのだろうか。いつか会えるんだろうか。そんな思いが麗夢の中でぐるぐると渦巻く。



「…最後に師匠に挨拶して行ったら?」


「そうね…一年間お世話になったし、本当に感謝しているし。ちょっと行ってくるわね」




紫は師匠の部屋に歩いて行った。九尾と沈黙の時間が流れる。

この妖怪さえいなければ、なんて嫌な考えが頭に浮かんでくる。



「麗夢さん、私のせいで貴方の大事な人を奪ってしまってごめんなさい…」



謝る気があるなら捨てられて欲しい。だからって式から捨てられる方法などない。主人を超えて自立するならまだしも、それは簡単なことじゃない。



「少し、貴方の存在が憎いと思ってしまうわ」


「…わかってます。でもこうなるのは運命なんです。私が操作してるわけでもなく、こうならざるを得ないのです。私の言うことなんて信じれないかもしれないけれど、本当に運命なんです」


「まぁ今更どのような理由であれ、彼女と師匠が対立しなければならないのだからもう関係ないわ」



そしてまたお互いに黙り込む。気まずい空気が流れる。そんなに長い時間ではないのにお互いにとても長い時間に感じていた。

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