幻想の始まり 26
「師匠…」
「どうした?」
「紫の意見に賛成したいし、紫の言ってることって間違っていないと思うんですが…妖怪と共存ってそんなに難しいことなんでしょうか…?」
「世間的に見れば中々難しい…だけど地域的なものだったり個人間では難しいことではないだろうね。実際安倍晴明の母親がそれこそ妖狐だったという話もあるくらいだし。だからって特殊なのは間違いない。彼女の言ってることはあってると思うけれど、世間的に認められないのが現実。しかもそれが陰陽師となると陰陽師に対する印象と信頼が悪くなるだろうし私達にも関わってくるよ」
麗夢はわからなかった。彼女にとって目指す世界は紫の目指すような世界だった。
陰陽師がそうあるべきではないのはわかっている。だけれど共存していけるのだったらそのほうがいいことではないのか。実際に紫と狐は仲良くしていけてるのだから。だけれど世間はそれを許してくれない。
「お前は紫と似たような気持ちなのだろうな。私もそう思うよ。だからこそ少し辛くも思う」
「師匠…私は…」
「お前は一緒に理想を追えばいい。お前の望む世界はわからないが望めばいい。私は紫と同じ世界には居れない。私は有名になりすぎたからね。そんな人が急に心変わりしたならば、責めてくる人だって多いし生きていけないからね」
師匠がここまで有名になったのは紫のせいでもある。凄腕の陰陽師の師匠として。そして実際彼自身も力を持っていたから。
「私は…。いえ、いいです。おやすみなさい」
「あぁ、一つ言っておきたいことがあるんだ」
「なんですか?」
「私と一緒に現実で理想を求めるのならここに居続ければいい。でも、もし彼女達と理想を求めるのなら君の知ってる神社に行けばいい。あそこの神は…まぁ行ってみるといいさ」
「…わかりました」
「じゃあこんどこそおやすみ」
「…おやすみなさい」
麗夢は理想を求めて、師匠と離れて行きたくはなかった。だけれど紫とも離れたくなかった。
師匠の方が長い時間ずっと一緒にいたし、お世話になった義理もある。
紫とのこの一年間は良き友達としてとても楽しかった。
二人共大事な人達。そして同じ意見を持っているのに、社会的な立場上の問題で別れなくてはいけないという現実が辛かった。
そもそも紫があの式を外せばいいだけなのだろうけど、彼女は外す気はないんだろうなぁと思う。どうして外さないのか少し苛つく気もする。
だけれど彼女が式にしたことによって、争いが急に終わったのも事実。あそこで九尾を殺していればもっと酷いことになったかもしれない。
もし彼女が式を外せばまた争いが起きるだろう。そのままでは平和なんて訪れないのかもしれない。
平和って本当に妖怪を、自分にとっての悪を退治し続けることなのだろうか。
物思いに耽る麗夢。なかなか寝付くことが出来ずに夜は更けていった。




