幻想の始まり 24
境界の世界を出た紫。それを見た麗夢が紫に駆け寄ってくる。
「これで終わったのね?」
「いや、もう少しかかるわ。良いわよ九尾出てきて」
境界の世界から九尾が出てくる。麗夢を含む陰陽師達はそれを見て驚き、困惑した。
「何…紫もしかして貴方妖怪側の人間になったとか、妖怪になったとか言うんじゃないでしょうね…?」
「まぁ、見てればわかるわ。後で詳しく話すから今はこの戦いを終わらせないと。じゃあ九尾よろしく」
「わかりました紫様」
九尾が妖怪と陰陽師の間に入って妖怪達と話をしている。妖怪たちは九尾の話をおとなしく聞いているようだ。
陰陽師たちは紫の方に駆け寄ってくる。理解できないのも当然だろう。紫が九尾を生かして帰って来たのだから。
「紫殿、これはどういうことか説明してもらおうか」
「簡単に言うと、私があの九尾を式神にしたのよ」
それを言うと陰陽師達はまた驚いた。妖怪を式神にするという概念が陰陽師たちにはそもそもなかったためである。
紫殿は妖怪を式にするのか。妖怪の主にでもなるつもりなのか。
「そんなつもりはないわ。私が気に入って、力のある者を式神にしたかっただけよ。それがたまたま妖怪だったというだけじゃないの」
その力を持ったもので気に入った者が妖怪ならば普通は式神にしない。ましてや陰陽師という立場なら妖怪を式にしようなどありえない。
「妖怪と言うだけで迫害するのかしら。種族だけ気にして、内面を見ないのなら本当の平和につながるとは思えないのだけれど」
妖怪は悪の権化だ。元々人間が悪としているから妖怪なのだ。
「悪なんて人間の勝手な妄想かもしれないわ。正義と正義がぶつかった瞬間にどちらも互いの目からは悪になるのよ。それに付喪神が妖怪として見られたりするように、時には神ですら人間は妖怪として扱ってきているじゃない。都合が悪くなったら神ですらも妖怪にする人間の方が悪なんじゃないかしら」
紫を攻めていた陰陽師たちは黙る。紫の言ってることは間違っていなかったからだ。
「私は種族に関係なく、色々な者を受け入れたい。本来退治をする対象を自分の部下にするなんておかしいのかもしれないけれど、種族間の違いだけで攻撃するほうがおかしいじゃない。平和を目指すにおいて退治しなくちゃいけないのは妖怪じゃなくて、平和を乱す存在よ」
うるさい黙れ!陰陽師なのに妖怪を退治しないというのはどういうことなのだ!
「だからその古い固定概念がいけないのよ。貴方達が悪になっているということに気づかないの?去年九尾が来た時、九尾は攻撃してこなかったのにも関わらず理由なしに攻撃して痛い目を見たのに。これじゃどちらが悪かわからないわね」
近くの五月蝿い陰陽師達を無視し、遠くを見ると妖怪達は九尾の話を聞き終わり、殆どが帰っていく。
中には九尾が式神になったことを許せなかったり、陰陽師に私怨があって争いを続けたいものなどもいるようだが。
「そうやって貴方たちが私に文句言ってる間に妖怪たちはほとんど帰ったけれど貴方たちはどうするの?残った妖怪は好きにしていいって言ってたけれどもそいつらと好き勝手するのかしら?」
お前みたいな陰陽師と違って私達は正しい陰陽師だから残った妖怪だけでも退治する。
「そうね。私は間違った陰陽師かもしれないけど、人として正しい道を歩むわ。あぁ、あと私の式神の九尾に手を出すようなら私が容赦しないわ。まぁ私のそばにいるだろうし必然的に私と対峙しないといけないけれどね」
紫は殺気を含みながら周りの陰陽師達に言った。
陰陽師達は黙って紫を睨みつけていた。
「私は帰るわ。九尾、終わったなら帰るわよー」
「はい紫様!」
そうして紫と九尾は家に帰っていった。




