幻想の始まり 22
「え…はぁ?」
先ほどまで威厳のあった声が急に気の抜けた声になる。
「だからー、貴方が私の式神になれば私はあなたを殺さなくて済むし、貴方も死ななくて済むじゃない?」
「いやそれは確かにそうだが…」
「何か問題でもあるの?」
「元々私は妖怪としてはかなり強い妖怪だ。それに共同で生活もしたことがないが故に不安しか無いのだ。それに誰かの言うことをそのまま受け入れたことも少ないから命令を受け付けるかも分からないし…」
「大丈夫よ。きっと全部私の言いなりになるでしょうし」
「それが私には腹立たしいのだ!」
怒りっぽい狐だなぁと紫は思う。感情豊かな上に理由も人間らしくて少し笑ってしまう。人間より人間らしいのかもしれない。
「何が面白い!」
「いや、貴方とても感情豊かで人間らしいなぁって思ったのよ」
「誰が…!はぁ…」
九尾は人間らしいと言われ怒りたくなったがまた笑われてしまうのではと思い、グッとこらえた。
「まぁ貴方といるときっと楽しそうだし、貴方くらい力のある者なら式神になってもらったら安心だわ。私の名前は紫というの。よろしくね」
「まだ誰も了解なんて」
「あら、貴方そんなに死にたいの?」
紫は少し微笑みながら境界を開き、九尾の首を握る。
握る力は決して強くはない。いつでも振りほどくことができる。
が、力の差を簡単に思い知らされた。この人には自分は勝てないと。
少しして首を握る手はすっと戻っていくのであった。
「なんてね。これからよろしくね」
「わかったよ紫、こちらこそよろしくな」
「わかりました紫様、でしょ?」
「…わかりました紫様…」
「それでよし」
紫の満足そうな顔が少し気に食わない。だけどこの人だから命が救われたのも事実なのだ。九尾は少し複雑な気持ちで紫を見ていた。
「どうしたの?新しい主人に見とれたの?」
「そ、そんなことあるわけないだろう!」
「敬語」
「くっ…そんなことあるわけないじゃないですか…」
「それでよ…いや、なんかムカつくわね…素直になりなさいよ」
「私は素直だぞ!…素直です…」
「むぅ…少しは素直になって見とれてたとか言えばいいのに…」
少し悔しがる紫。どちらも人間らしい。
「それにしても紫は…あ、紫様は何故私を式神にしようと思ったのですか?」
「うーん、そうねぇ。まず先程言ったように貴方のことを殺したくなかったというのが理由の一つ。それと貴方を式神にしたら何かがあっても貴方くらい力があれば安心して行動できるわ」
「…あなたはそうじゃなくても十分な力があるでしょう。何が目的ですか?」
「まぁ確かにそうね。もう一つ理由があるけど、なんとなくよ。何故か式神にしたいの。そうねぇ、好きとかそういう感情に似ていて言葉では説明しにくいけれども、まぁ貴方といたら楽しそうだなって」
九尾は少し戸惑っている。意外と可愛いところもあるんだなぁと紫は見ていた。九尾はとても人間らしくてこれから楽しくなるといいなと思う紫だった。
「それよりそろそろ貴方を式神にするわね。死ぬより私の式神でいいのね?」
「私の意志をどうしてそこまで尊重するのだ…?」
「貴方が望まないなら式神にする理由はなくなってしまうもの。それは我侭でしかないから」
「…死ぬよりか紫様にこき使われる方がマシだ」
「ふふっ。じゃあ貴方を式にするわね」
紫は嬉しそうに九尾に微笑んだ。




