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東方物語集  作者: Ra
幻想の歴史 始まりの物語
36/56

幻想の始まり 21

紫が境界の世界に入ると、九尾は紫のことを睨みつけていた。

ただ何も言わず、ただただ睨みつけていた。紫は、それに対し少し悲しい気持ちでその目を見つめた。



「私はできるならあなたのこと殺したくないわ」



人の言葉が妖狐に伝わるかなんてわからない。けれど、これからやらなければいけないことを考えると伝わらなくても告げておきたかった。



「でも、私はあなたを殺さなくてはならない立場なの。あなたのその美しい毛並みを見ていたいのに、あなたを一番見ていたい私が手にかけないといけないなんて皮肉ね」



紫は紫でなぜこの狐を気に入ってるのかわからなかった。恐らく一目惚れというものなのだろうか。それは誰にもわからない。



「あなたのことを見下してる訳でもなんでもないわ。ただこのままより一矢でも報いたつもりになって消えて行きたいわよね…」



紫は自分のこの境界を操る能力の強力さを把握していた。この能力がある限り、自分より強い者でない限り一瞬で殺せるのだから。


紫は九尾が自分を殺しに来ると思っていたが、予想を裏切ってただただ紫を睨んでいた。



「…あなた私に憎しみでもあるのかしら」



「憎いわけではない!」



九尾が怒りに任せて声をあげた。正直声を出せると思ってなかったから、紫は驚いた。



「あ、あなた喋れるの?!」


「妖怪だもの、喋ることくらいできる」


「じゃあなんでいきなり襲ったの?なぜ話し合いで解決しようとしなかったの?」


「あの数日前から何か私は苛立っていた。そしてあの日に何か私は感じ取った。あの時私はある意味お前たち陰陽師と同じように、異変を解決するために貴様らの里に向かったのだ。私にとっての異変を。すると陰陽師が目をつけてきた。話し合いなどできそうになかった」



元はといえば、妖怪というだけで攻撃をした人間側が悪いということか…



「今なら異変の原因はわかる。お前の存在だ。というよりこのような結界を作り出すなど普通の人間ではない。陰陽術の粋を超えている…あまりにも強大な力を私は感じ取っていたのだなと今わかった」



一年前九尾が襲ってきたのは自分のせいだということ。その事実に思わず目を背けたくなった。



「私と貴様の力の差は歴然だ。私はお前にいくらどのような力をもってしても一矢報いることすら、傷をつけることすらできないだろう…封印するなり殺すなり勝手にしろ」


「もう覚悟はできてるのね…」



害を及ぼしたくて人里を襲ったわけではないのがわかって、尚更生かしてやりたかった。だけれどそれを世間は許してくれない。



「あなたにできる限り恐怖も痛みも感じないようにしてあげるわ…それが私が貴方にできる最後のことよ」



どの方法ならば何も感じないうちに死ねるか。

身体の内側から心臓を一思いに握り潰してやるのがいいのだろうか。

それとも脳を一度停止させてから殺してやるほうがいいのだろうか。


そもそも他に助けられる手段は無いのか。



どこか遠いところに逃しても誰かに見つかれば結果は変わらない。バレれば私は避難されるだろう。

ならば私がこの世界で保護し続けるというのも…保護…


紫は1つ閃いた。最も安全で、尚且つ自分自身のためにもなるような方法が。







「ねぇあなた、私の式神になってみない?」

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