幻想の始まり 18
「そうねぇ、まぁあなたが好きな色の服を着るといいわよ」
「今着てるのも薄い紫色の服だしね、これらのなかだとこれが一番いいかな。ちょっと着替えてくるね」
着替えている彼女を待っている間、そういや今日はあまり飲み物を飲んでなかったなぁと気づく。
どうせやることもないし、なにか飲みたいなぁと思った彼女はお茶でも作ることにした。
「どうかな…ちょっと大人っぽすぎないかしら…」
そうやってお茶を作っていると着替え終わった彼女が帰ってきた。
「そうねぇ、いいんじゃないかしら。大きさもあなたに合ってるし似合ってると思うわ」
「そうかしらね」
そういう彼女は少し照れくさそうにしている。可愛い。少し意外な一面がみれた。
「あなたもお茶いるかしら?」
「じゃあ是非」
「はーい、待ってね」
「はい、お茶」
「あ、ありがとう」
そういえば。彼女の名前を聞こうとしてずっと忘れていた。前聞こうとしたときは九尾が現れたんだっけ。
今更かもしれないけれど聞いてみるかな。
「ねえ、今更かもしれないけれどあなたの名前はなんていうのかしら?聞いてなかったわね」
彼女は少し時間をかけ、悩みながら答えた。
「なんていうか…あんまりここに来る前のことをあまり覚えてなくて…自分の名前もわからなくて…」
「なるほどねぇ。私と同じで親戚もいないから、仕方ないわね…」
少し空気が暗くなってしまった。でも、名前はないと不便だろう。
「そうねぇ、じゃあ私が名付けてもいいかしら。師匠が私を名付けたように」
「じゃあ、それでいいわ。いい名前をつけてね」
彼女は自分に少し微笑む。
うーん、どんな名前をつけようか。
彼女のことは境界を操る能力があるということ。それくらいしか、人として特徴がないのが事実。この人の過去は知らないし、誰もわからないのだから。
そうねぇ、じゃあ今の彼女を見て…紫色の服が似合っていて。うーん。そうねぇ、いい名前になるといいけれど。
これからも永く一緒にいられることを願って名前をつけよう。
「ゆかり」
「…あ、はい!」
「これから、あなたの名前は紫と書いてゆかりと呼ぶわ。紫の服が似合っていて、これからも私たちが永く一緒にいられるって意味を込めて、ゆかり」
「…はい!わかりました!」
どうやら気に入ってくれたようでよかった。だけどまた敬語に戻っているなぁなんて思いつつ。
「そういえば、私の名前も教えていなかったわね。忙しくて忘れていたわ」
と言っても私も師匠にもらった名前だからあなたと同じで元々の名前はわからないのだけれど。と付け足された。
「私の名前は麗夢っていうの。綺麗の麗に、夢って書くの」
「麗夢っていうのね。改めてよろしくね麗夢!」
「えぇ、こちらこそよろしく紫」
お互いの名前をようやく認識し二人共気分よく就寝した。
翌日からはまた紫の修行をしたり、二人で妖怪退治に行ったりしていた。
一ヶ月もしないうちに師匠も帰ってきて、また三人で過ごすようになった。
師匠が帰ってくるまでに紫は境界を操る能力をかなり身につけたようで、師匠も驚いていた。
そして紫がこの世界に来て、ちょうど一年が経った。




