幻想の始まり 15
翌日からは師匠の陰陽師が遠くに用事があるらしく、少しの間女陰陽師と二人きりの生活が始まった。私はこの家に居続けても良いらしい。本当に優しい人たちだ。
そして今日も昨日と同じ場所であることを始めた。
能力の開花のためである。
能力は私自身が能力に自覚することが前提条件となる。何もわからずに出来るわけではないということだ。
少し戸惑ってはいたが、昨日境界が開いて以来、どうも境界の事を意識すると何故か懐かしい気がした。
「特別昨日のように攻撃はしないわ。能力ならいつでも開くだろうし」
と言われ、何もない空間に境界を開こうとする。
その間陰陽師も同じように練習をこなしていた。
最初の特別何も起こらなかったが、少し力を抜いて境界を意識するとすぐ境界が開いた。
「こんなに早くできるものなのね。すごいじゃない」
「そうなんですかね?よくわからないですけど」
「私なんてこの陰陽玉使うのも苦労したし、この結界も初めてやるときは相当苦労したわ。あなたのその力は努力じゃなくて能力だから早いのかもしれないわね。うらやましいわ」
「あなたは能力ではなく努力の賜物で陰陽師になったのですね」
「間違ってはいないわ。元々陰陽師の才能があったとも思えないしね」
「そんなことないですよ!あなたの陰陽術は凄いと思いますし、結界なんてそう簡単なものじゃないでしょうし…」
「んー…」
彼女は少し考える動作をした。
「私ね、あの人に拾われたの」
いきなりのその一言に一瞬息を止めた。
「親がいなくて孤児だったけれどあの人に拾われて育ったの。もうその時のことは覚えてないけれど。あの人が陰陽師として本当に凄いから私みたいのでもこれだけ陰陽術が使えるようになったの」
いきなりの衝撃の事実に彼女は口を閉ざしてしまう。少し重たい話を聞かされた気がして。だけど目の前の人は何も気にしていないようで。その時に自分はどんな反応をすればいいのかわからなくて。
「あ、そんなに重い話だと思わなくていいわ。寂しいとか悲しいとかって思ったわけじゃないし。師匠がいなかったら寂しかったかもね。それどころか死んでたかもしれないけど。あなたが暗い顔なんてする必要ないじゃない」
今彼女が何も問題なく生きているなら何も問題ない。私が気にすることではないのだろう。私が暗い顔をする必要なんてないと言われ、ただそういう事実があったということは忘れないようにしようと思った。
「さぁほら練習でもしましょ。せっかくだしもし慣れたら境界を複数個出してみたり、応用して色々考えて使ってみてもいいと思うわ。まずは一個ずつでいいからやってみましょう?それと私に敬語は使わなくていいわ」
敬語なんていらないと言う何気ない言葉が嬉しくて。
そして彼女のことを知れたことが嬉しくて。
「はい!」
「改まって言わなくてもいいのにもう」
少し不機嫌そうに、だけど彼女も少し嬉しそうに言う。
慣れなくてもこれから少しずつ。
その後お互い練習し続け、家に帰った。




