幻想の始まり 12
手を突き出そうとした、と言うよりは既に突き出していた。その中間というべきだろうか。突き出す途中で腕を引っ込めてしまった。
もし突き出しきっていたら、あの刃の先で手を刺されていてもおかしくなかった。と言うよりその未来しか想像できなかった。
しかしその後も式神は迫ってくる。短刀を持って目の前に迫ってくる。あまりの恐怖で動かないということしか頭になかった。殺されるかもしれないが、それでも動かないほうが良いと信じて、陰陽師たちの言葉を信じてただ息を呑み、立ち止まるしかできなかった。
短刀が目の前で止まる。自分の皮膚と短刀の先の隙間は殆ど無かった。
短刀が目の前からすうっと離れていく。本当に殺されるかと思った。
冷や汗がブワッと出る。あまりの恐怖でその場に座り込んでしまった。昨日の九尾の攻撃なんかよりずっと恐ろしい。
少し自慢気に陰陽師が話し始める。
「これくらい高精度で操れる。君が傷つかないように…」
「すごく怖かったんですが!!迫力満点過ぎて死ぬかと思いました!!というか殺しにかかってきているのかと思いましたよ!!」
「いや、まぁその…すまなかった…これくらいやらないと危機感を覚えないと思って…」
「危機感覚えまくりました!!さっきのを何度もやられたらそれだけで残りの寿命が消え去りそうです!!心臓止まるかと思いました!!」
彼女は怒鳴り声だけで先ほど襲ってきた式神すら萎縮させる勢いで怒鳴っていた。
「すまなかった…」
「いや、まぁもう謝らなくてもいいですけど…本当に怖かったので…」
「とりあえずこれくらい高精度で操れるから、君がさっきやったように手を突き出しても、その前で短刀は止まってくれる。だから安心して腕を伸ばしてもらって構わない。いや安心してと言うかもちろん危機感は覚えて欲しいが」
彼女としては危機感はもう覚えたくないし、また怒鳴りたくなったがここで怒鳴っていても何もならない。
境界を出現させた力の出処を探るためにも、この実験をしなければ。
「行くよ」
また式神は陰陽師の側から走りこんでくる。今度はもっと早めに手を突き出す。あの時念じたように身を守るように手を突き出した。
気づけば式神はすぐ近くに来ていた。先程より速く迫ってきている。短刀が迫ってくる。
そして刃が手のひらの前で止まる。短刀の切っ先が手のひらの少し前で輝いている。
「うーん…発動しないか…」
冷や汗は少し出た。が先程より安心感があった。式神が絶対攻撃してこないというのを覚えたからだった。
それからというもの、何度試しても結果は同じで境界は現れなかった。
「仕方ないな…じゃあ次はこいつで攻撃する」
次の式神は獣型の式神だった。その式神はあの時の九尾のように口に光を溜めて光球を放った。




