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東方物語集  作者: Ra
幻想の歴史 始まりの物語
24/56

幻想の始まり 9

彼女は恐怖で座り込んでしまっていたが、覚悟を決めて立ち上がった。

もしこのまま陰陽師たちが防戦一方だったら勝つなんてありえない。

負けないにしても勝つということはない。せめて九尾を撃退しなければ、この村は滅ぼされてしまう…



追い返すためには、恐れを抱かせれば逃げていくだろう。が、今の状況では恐れさせる方法などない。九尾より強い力を持っていて、その力を誇示できればそれが早い、がそのような力があれば既にこの状況すら起きていないだろう。それだけ強力な力があれば防戦一方なんて状況にはならない。



だが先ほどの力で九尾の攻撃を無効化できると分かれば、今よりは状況が良くなる。

でも誰がさっきの力を持っているのか?陰陽師達の中にそんな力を持っているような人はいないし、居たらそもそもここまで苦戦していない。

じゃあ神様のご加護?妖怪もいるんだから神様だっているさ。でも何の神も信仰していない彼女を守ってくれるそんな神様がいるのか?

自分の周りに陰陽師以外に人はいない…。



そんなことを考えていると、九尾と彼女は目があった。数秒間沈黙した。

その後また九尾が雄叫びをあげた。

全員が身構える。九尾の攻撃が来るのに備えた。


が、九尾は攻撃をしてこなかった。雄叫びをあげ、そのまま何かあったかのように急に向きを変えて夜の闇の中に走り去っていった。


全員が安堵する。

だがあの九尾には余力がまだまだあったはず…。

そもそもなにか目的があったのだろうか?暴れるだけが目的だったのだろうか?人間からすればとても迷惑極まりない妖怪でしかないのか?それとも妖怪ってそういうものなのだろうか。人間に恐怖を与えることが存在意義なのか?



九尾のことを考えていると、陰陽師たちが彼女に駆け寄ってきた。怪我はないか、などの心配をかけさせてしまった。


お世話になった二人の陰陽師を除いて。


陰陽師達がそれぞれ帰ってから、彼女はお世話になった陰陽師たちについていき、先ほどの家にもどった。

九尾から攻撃を止めようとしてくれた女陰陽師が質問をする。

「あなたは何者なのか?」「あの攻撃をどのように対処したのか?」と。


私は何もわからない。恐怖心で見ることができなかった。気づくと目の前に境界があってそれが閉じていったのだから実際の現場は見ていない。


「あなたがあの境界を創りだしたのではないか?」


ただの普通の人間にそんな力があるわけがない。私は普通の一般人だし、境界を見ることしかできない。


「…あの境界はあなたの手の動きに合わせて出てきたようにしか見えなかったの。あなたは本当に人間なのかしら?」


境界を見ることはできても、創ることはできないはず…。

自分は人間でしかない。普通の人間だと思う。



師匠の陰陽師が、人間として生まれたのにも関わらず、妖怪になっていってるのかもしれない、と言う。


妖怪と動物の存在の違いなんて曖昧なもの。人型の妖怪もいるし、人間が妖怪化してもおかしくない。君を責めているわけではない。ただそういう状況にあるのかもしれない。人でいたいと思うのなら、人の心を持ち続け、人に恐怖を与えないこと。たとえ善意でやったことが恐怖の対象になれば、君の心は荒み、妖怪になっていくのかもしれない。



彼女は少し自分が妖怪のように扱われていることに対して、少し苛立ちを覚えたがこの陰陽師のいうことは納得できる内容だった。




これからどうするべきだろうか、三人がそれぞれその内容は違えども同じことを思いながら、夜は更けていった。

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