幻想の始まり 8
彼女は手を前に突き出したまま、願わくば光球を受け止めれることを願った。
頭ではこんなことをしても無駄だと直感的に理解している。だが本能的に彼女はこの行動をとってしまった。彼女は身を守る方法を持っていなかったから、このような行動を取るしかできなかった。
先ほどまで九尾の尾の攻撃を全く受け付けなかった結界をたった、人体に直接あたったら無事であるわけがない。彼女の腕は吹き飛ばされるに違いないだろう。それとも体ごとどこかに吹き飛ばされるか、体を光球に吹き飛ばされて死ぬ可能性だってあるだろう。それでも彼女は前に突き出すしかなかった。
彼女は来るはずの光球を、両手を突き出して光球が来るのを待った。実際は待ちたくもない光球が、自分に当たる感覚を待たなければならなかった。
自分に光球が当たるまで、それまでは恐怖でとても眼が開けなかった。
だがしかし、いつまで待っても光球は飛んでこない。痛みは全くない。
遠くで九尾の怒りに満ちた声が聞えるだけだった。
彼女は何も理解できなかった。眼を開けることが怖くて、ただ目を瞑って手を前に突き出したままの状態で待つしかなかった。
だがしかし、光球が当たるまでの時間があまりにも長すぎる。
本来ならば目を瞑って1秒も経たずに当たるはずだった。すでに10秒は経っているだろう。だが痛みも衝撃も何もない。一体何故…。
理解できない彼女は恐る恐る眼を開けた。
目の前には真っ黒な空間があった。例えるならばその空間は空間を割くかのようにそこに開いていた。
空間を割いた真っ黒な空間は、徐々に閉じていった。そして何もなかったかのように消えていき、普段の彼女が見ている風景に戻った。いや、そもそも訳のわからない黒い空間がなぜか現れ、それが消えてさっきまでの光景に戻っただけだ。
九尾の攻撃は別の空間に消えていった…?わからない。
誰かが守ってくれた?でもこんな物理法則を無視することが出来る力は誰が持っている?陰陽師?いや陰陽師はありえない…ありえるとすれば陰陽師は人間をとっくに超越している存在になっているしここまで九尾との苦戦を強いられないだろう。
今何がどうなっていたのか眼を閉じていた彼女にはわからない。
陰陽師は先ほどと変わらず、九尾に苦戦を強いられている。
だが、先ほど守ろうとしてくれたお世話になった陰陽師は動揺しているようだった。陰陽師はすべて見ていたのだから、動揺もするのかもしれない。そもそも、何を見たのか?それすらわからなかったが、理解できないことが起きたのは間違いない。
それに陰陽師たちがこれだけ苦戦していて、九尾はまだまだ余裕が有るように見える。持久戦になってしまえば人側に勝ち目はない。そもそもこの時点で退治できるような妖怪ではない。
妖狐の攻撃をいなすことすらできない。
が、それも先ほどのよくわからない力の根源が分かれば、攻撃をいなすことくらいは簡単にできるだろう。
だから次はもし、身の危険が迫っても可能な限りは全て見なくては。何かが分かれば、この状況は解決できるかもしれない。




