幻想の始まり 1
「うーん…いてててて…ここは何処だろう…」
メリーは今の状況を理解できていないようだった。
彼女は竹林の中にある大きな岩の上で寝ていた。寝ていたというより気絶していたという方が正しいのかもしれない。日は落ちて周りはすでに暗かった。人工の光がない場所では、光はすでに月明かりと星の光しかない。メリーは少し不安に思ったが満月だったため、周りの様子は視認できる状況であることに安堵のほうが大きかった。そして以前と同じく満天の星空であることの喜びがあった。気温は暑すぎることも寒すぎることもなく、自然環境にも関わらず適温だった。この気温なら命に関わることは無いだろう。
メリーは、まず起き上がり竹林にいることを確認した。周りに危険な野生の生物もいなさそうだ。いたら寝てる間に襲われてる可能性が高いが。
そしてこの竹林を以前メリーが見たことがあることに気づいた。と言うより、メリーはそれ以外の竹林を全く知らない。
あれ?私いつの間に眠っていたんだろう。また夢の中の世界に来ちゃってたのね…いつ寝たんだっけ…?そういえばいつもの女の人が何か今までになくはっきり話していた気がする。でも全部を覚えていない。なんか少し会話した気がするのに。
まぁどちらにせよ起きるまで夢の中の世界で遊ぼうっと。この世界は自然がとても美しくて私は好きだなぁ。起きたらまた蓮子にお話しようかな。
そうだ。せめてあの時のようにお腹が空いた時のために、筍を採っておこうかな。近くにあるし。こんなのでいいかなぁ。お腹が空く前に起きたら手土産になるし。
そんなことをメリーは思いながら竹林の中を歩く。確か前来たときはここで兎妖怪と火が出せる少女が喧嘩かなにかやっていたような気がした。きっとあの時の竹林だと思いながら自分の思ったままに進む。
少し歩き疲れたところで、近くにまた大きな岩があることに気づいた。とりあえずそこに座って一旦休むことにした。
ふぅ、と少しだけため息を漏らす。
そういえば前来た時は周りで動物の鳴き声みたいのが聞こえたなぁ。天然の筍を拾ったりもしてきたんだっけ。それと前も思ったけど前以上に迷ってるなぁ。月明かりしかないし。
あ、また妖怪みたいなのが出てくるのは嫌だなぁ。まぁ夢だから関係ないと思うけれど。
そうだ。一応何があったか思い出すために、メモでも書いておこうかしら。よくわからないけど、夢の中の世界から現実世界に持っていけるみたいだし。鉛筆は…無いけどボールペンならあった。そんなに大きくないけれど、紙切れもある。どこでこんなの入手したんだっけ。まぁそんなことより書くだけ書いちゃおう。
「夜の竹林ってこんなに迷う物だったかしら?
携帯電話も繋がる気配は無いし、GPSも効かないし、
珍しい天然の筍も手に入ったし、
今日はこの辺で休もうかな……って今は夢の中だったっけ?
しょうがないわ、もう少し歩きまわってみようかしら。
それにしても満点の星空ねぇ。
未開っぷりといい、澄んだ空といい、大昔の日本みたいだなぁ。
タイムスリップしている?ホーキングの時間の矢逆転は本当だった?
これで妖怪が居なければもっと楽しいんだけどね。
そうか、もしかしたら、夢の世界とは魂の構成物質の記憶かも知れないわ。
妖怪は恐怖の記憶の象徴で。
うーん、新説だわ。
目が覚めたら蓮子に言おうっと。
さて、そろそろまた彷徨い始めようかな。」
メモを書き終えた彼女はまた夜の竹林を彷徨い始めた。




