書斎にて
い……1年経った日が終わるまでだからセーフ(震え声)
また頑張って行こうと思いますので、よろしくお願いします!
「さて、と」
俺は書斎の扉の前に立っていた。
別に気持ちを入れかえる必要は無いのだが、目の前の扉は俺達に遠ざかれと言わんばかりの重厚感を放っている。
「お邪魔しま~す……」
ゆっくりと扉を開け、中に入った。書斎のいかにもカビ臭い匂いが鼻につく。
ふと、俺が入ってきた位置の真正面にある本棚の隙間から、『何か』が覗かせているのが目に入った。
「?………ぬぉっ!?」
反射的に頭をずらした。暫くしてみてみると、そこまで俺の頭があった場所の壁……つまり扉には、矢が突き刺さっていた。
「粉バナナ……」
どこかで聞いた台詞を口にしてみた。絶対に使うシチュエーションが違う気がするが。
しかし、アイスが付けた暗視能力には助けて貰ってばかりである。さっきのは助けて貰ったと言い辛いとはいえ、捨てたものではないかも、と思った。
さてここから下手に動くのも危険なので、この位置から書斎全体を見渡してみる。
一般的な書斎だが、それ故書斎特有の重苦しい雰囲気などが漂っている。
匂いといい部屋や扉の様子といい、セザルの様子とは大分かけ離れてるな。
もしかしたらセザルがここに来る前には別の人が住んでいたのか、とそこまで考えを巡らせていたところで、そもそもの疑問が湧いてきた。
「なんで罠なんてあったんだ?」
この部屋の端々に見られる重厚感もセザルらしくないが、入った所にサスペンスドラマにありがちな罠を仕掛けるのもまたセザルらしくない。
そもそもこの部屋には、一度アイスが入ってるのだ。なぜ仕掛け直されているのか。
その場に別の意味で立ちすくみ、色々と考えを巡らせたところで、
「あ、そうか。身長差か」
これまたサスペンスドラマにありがちな推理だが。となると、この矢はアイスでは無く自分に向けて作られたものだと言える。それもセザルらしくない。仕掛けたのは他の誰かなのか。もしかすると、自分と背格好が似ているセザルに向けられたものなのかもしれない。
「それなら、この家にはセザルの前に他の人が住んでいたってことか」
ということは、セザルか、またはその上司かが半強制的にその住人を追い出したことになる。せめてもの反抗と言ったところだろう。
「んじゃあ、もうあんまし罠は無いかな」
気を取り直し、書斎内の物色を始めた。目指すべきはやはり本棚。魔道書だ。
その背表紙に書かれている文字は全く読み取ることが出来ないが、それぞれの下の方だけを見ると一定の法則によって文字が並んでいる。きっと巻数だろう。その法則は乱れることがなく、綺麗に並べられている。
いや、一つだけその法則に従っていないものがあった。向かって右下にある水色の本達には、おおよそ1巻に相当するであろう文字のついたものが無く、またその1巻があったと思われる部分には、本の厚さよりも少し狭い穴がぽっかりと空いていた。
「これが氷魔法の本だろうな」
思ったより早くアイスの目当てのものを見つけられた。他の本達はどれも少しの乱れも許さずしっかりと並べられていて、なるほど取る気を起こさせない。……って、それじゃあ本棚の意味無いじゃん。
そんなことを考えながら氷魔法(?)の蔵書の2巻以降を回収していると、本があったさらに後ろの部分に1冊の別の本が横たわっているのが目に留まった。タイトルが見える。いや、読める。
「ん?……『猫でも分かる魔法学』ぅ?」
なぜ日本語なのか。なぜ猫なのか。疑問は尽きないが、持って帰るに越したことはないだろう。唯一自分が読めそうだし。一応ページをパラパラとめくってみると、どうやらこの世界の魔法について、基本的なことが載っているようだ。これは助かる。
「さてと、そろそろ戻るかな」
本棚の他には特に変わったものはない。意外なところで罠を踏んでも嫌だし、俺はそそくさと書斎を後にした。