帰宅
3ヶ月の時を経て。
別に現世界に還ったわけじゃないです。
「…………」
俺達は、青い光が消えたあとをじっと見つめていた。いや、というよりは驚きの余り目が離せなかった。
「……あ、ありのまま今起こったことを話すz」
「そのネタはいいから」
アイスに軽くたしなめられるが、正直そのようなことをやっていないと気が収まらないレベルである。
まあ今のでセザルが敵の使い魔であるようなことが確定したわけだが、それにしてもその使い魔をよく分からない形で追い返したことに違和感しか感じられない。
「いや、逆に考えるんだ。RPG界ではこのようなことはごく普通のことであると」
「それがRPGの世界じゃない所と関与してるから異常なんじゃないの?」
「では夜逃げなんてやめてセザルを捕縛して情報をだな」
「Lv.4くらいの一般人が実質チートに勝てるわけないでしょ」
……一般人?
再び隣のヤツにあっさり切り捨てられた。
さあて、これからどうしようかな。
「向こうの動機とかに関して何か手がかりが…あったりーなーんて(チラッ」
「いい加減真面目に考えなよ」
駄目だ。アイスがご機嫌斜めモードだ。
では真面目に考えて、出した結論を言おうか。
「……そろそろ木から降りないか?」
「うんそうしようか」
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カタカタカタ………
セザルが居なくなった家……の倉庫では、相も変わらずPCのキーボードを叩く音がBGMとして流れている。
「今まで聞いてなかったけど、どんな感じで壊れてるのか?」
「んー?…まあ壊れている状況にも色々あるからね。分かりやすく言うと、ネットワークに繋ぐのに必要な機能が壊れているって感じかな?」
かなりぶっちゃけたな。ネットワーク……はともかくとして、おそらくこのPCと他の何処かとの情報をやり取りする機能が死んでいるってことだろう。現世界、中でもアイスと俺からすればかなりの死活問題な気がする。
「正直そこらへんの原理について詳しくは分からないんだよね。変に変えようとすると使い物にならなくなる可能性もあるし」
……うん、まあ頑張ってくれとしか言い様が無いのが辛い所ではあるな。
「母屋の方とか物色していいんだろうか?」
「もう主は帰ってこないだろうけど……良いのかな?」
「主が居る時に魔導書をかっぱらった人が何を言ってんだか」
「いやなんというか……いないからこそ罪悪感が……」
「なんでだよ」
そういう人もいるのだろうか。
「まあでも魔導書は気になるかな?」
まだ魔法撃つ気なのか。それはPCの直る見込みが今のところ無いと言っているのだろうか?
……しかし相変わらず俺は暇である。別に深夜だから寝てもいいのだが、先ほどの夜逃げ騒動で易々と眠れる気がしないのだ。
……というわけで逃亡。
村に出てみるが、やはり深夜ということで真っ暗だ。灯り用の松明やランプ(燃料はなんだろうか)も一部しか点いていない。
そのまま回ってセザル家に入る。
立ち入ったことは少ししかないが、思ったよりも広く感じた。ずっと六畳一間に住んでいたからかどうかは分からない。
手当たり次第物色するわけでは無く、とりあえず部屋を見回して気になったものから調べることにした。
……うん、なにも無い。
今思えば全てデータなんだよな。例えそのセザルのうっかりで碌に備品を回収せずに転移していたとしても、後でお仲間がボタン一つで存在を消すことも出来るのだった。
……全く持ってこの世界は恐怖に満ちている。俺達を消すことは向こうは当分しない(そもそも出来ない?)らしいからいいのだが、今仮にこのマップが消えた場合俺は位置情報を失って全く違う場所に飛んでいたり壁にめり込んだり……って違う。そういうことを言いたいわけじゃない。
……何故だろうか。やたら思考があいつと似てきたな。現世界にいた時はそうでも無かったのに。ゲームの世界にいるからなのだろうか?
……まさか、敵は俺達を、いや、現世界全体をゲームに溶け込ませ………
「……て何がしたいんだろうなぁ?」
わけが分からない。思考が常軌を逸しているのが自分でも分かる。
とりあえず書斎だ、書斎。アイスが欲しがってた魔導書以外にも何かめぼしいものが見つかるといいが。