夜逃げ
……お待たせしました。
後半はノリでシナリオを540度変えました。後悔はしているが反省はしていない(殴
風が吹く。
それが体に当たる度に俺達の体力は奪われてゆく。
……いや別に詩的に纏めようとは思っていない。
寒い。物凄く寒いですはい。
俺たちは現在、セザルの家(というよりは俺達の住んでいる倉庫)を見渡せる森の中で息を潜めている。まあつまりは様子見である。
仮に使い魔がセザル以外にもいた場合、高確率でこの森を通じてやってくるであろう。
ではなぜ森の中にいるのか。
理由は二つ。
一つ目は単純明快で、セザル以外の使い魔の存在を確認しやすくするため。
そして二つ目。
「なあほんとに大丈夫なのか?とても夜逃げとは程遠いぜ。あと危ない。風強い」
「……正直僕も怖いです」
「じゃあ何故登ったし!?」
ここが、木の上だからである。
「いっそ本当に夜逃げした方が良かったんじゃねぇのか?」
「確実に今夜使い魔が来ると分かっていたのならいいんだけどね、正直そうじゃない可能性の方が高い」
ほう。
「あと夜逃げするなら荷物とか纏めなきゃねー」
そう言うアイスの両腕には、しっかりと彼のPCが抱かれている。おいちゃんと幹支えろよ、落ちるぞ。
この森の植生は、乾燥及び温度変化に強い広葉常緑樹が主………というのはデータベースと照らし合わせた上での俺の判断で、勿論現実に存在する樹木では無いだろう。しかし水不足&食料を賄いきれないというセザルの話が本当であるなら、この結果もうなずける。
風が通りすぎる冷たさと揺れる木の上で、何度も寝てしまいたい衝動に駆られるが、絶対にその判断は良くないと体のどこかから警告音が鳴り響く。
「今、何時くらいだ?」
そろそろ様子見を行うのに飽きを感じてきたため、そうアイスに問うた。…まあ、この世界に明確な時間は存在しないわけだが。
「……その質問今ので4回目だよ」
「マジで?」
いつの間にやら3回も同じ質問をしていたという。そりゃあ彼も苦笑いをせずにはいられない筈である。
俺が言うのもどうかとは思うのだが、アイスだって人間である。人間である以上は(俺だってするのだから)疲労はするし、体の限界というものがある筈なのだ。というよりアイスの年代の人間ならとうに力尽きても良い状況である。なのになぜこうもまだ俺より元気があるのか。…この世界に入ったせいかアイスが人外だからなのかはこの際議論しないでおこう。
さて……と。疲れた。
「休息を要求する」
「却下します」
なん……だと……
仕方ない。今何時かという質問にも答えてくれなかったし、ここはひたすら辛抱してみるか。
……………。
……………………。
…………………………お?
無駄にアイスが付けやがった暗視能力。
俺達の住処(笑)である倉庫の影から、ここ二日間で見慣れた顔が覗いた。
「…あれ、セザルじゃね?」
俺はアイスに小声で訊いた。
「んー?ああ、確かに人影が見えるけど誰かは分からないや。セザルだとして、他の使い魔はいないのかな」
「セザルは人を使役するようなのには見えないがな」
そう言うと、アイスがなにそれ?とばかりにこちらを見た。あれ、そんなに変なこと言ったか俺。
「お、近くに来たぞ」
はいはい話題転換話題転換。もう普通の人間なら視認できる距離までセザルは近づいていた。え?アイスは普通の人間じゃないって?揚げ足を取るのは良くないよ。
さて、ここからが本番である。果たして、何をするのか。
セザルが、辺りを見回した。暗いので向こうからは見えない……と思いたい。そして、窓から倉庫を覗いている。……無論、そこには誰もいない。心臓が高鳴る。そのまま戻るのか、それとも……?
………ん、今あいつが何か呟いた気がした。とその瞬間、あいつの手に青い光が集中し始めた。その手は真っ直ぐにこちらを向いている。
…やばい、まさか気付かれたか?
驚きの余りに木から落ちそうになったが、それをなんとか堪える。そして即座にアイスの方へと顔を向けた。
アイスは向こうから見える光を凝視している。うん寝てないな。良かった…ってそんな場合じゃねぇよ!
とりあえず彼につられて俺もその光を見てしまったわけだが、どうもその集まった光はこちらに向けて撃たれるものではないことが見てとれた。その光はセザルを包み、そして………
……消えた。
…………はい?
「アイス、これわどうゆーことかせつめーをしてください」
「却下します」
なん……だと……
「…正直に言うと僕も全く理解出来ない。この世界に物を媒体としない転移魔法は存在しない。つまりこの世界の外に逃げた……」
「えとつまりそれは……」
俺とアイスは木の上で顔を見合せて、同時に言った。
「「……夜逃げされた?」」