誰か、感服す 2
ああ……もう少しで進級ですよ…
忙しくなりそうだ…
「……………」
「……………」
「…いやさすがにそれは無くないか?」と俺。
「どうだろうね。まあとりあえず、理由を聞いてよ」
まあ、そりゃ聞きたいわ。
~30分後~
「……………」
「……………」
「…いやさすがにそれは無くないか?」と俺。
「…どうだろうね?」
「根拠が明確じゃないな。もし違ったらどうするんだよ?」
アイスから聞いた根拠は、以下のものである。
・魔術書をセザルの部屋(?)からかっぱらおうとした時、かなり上級の魔術書まで置いてあった。それも、アイスがプログラムしたもの以上のものまであるらしい。
→一般人が持っているのはおかしい。
・自分達を、旅人だと強く断定しなかった。おそらく他の村民であったなら、セザルのように確認をとるまでもなく自分達は旅人であると認識するだろう。
→セザルはこちらの状況を把握している。
…このように、根拠の決定的な裏付けが無いわけだ。今後セザルを疑ってかかってはせっかくの安定した居場所が無くなってしまう。
「あと、さらに挙げるとすれば」
「ほう」
「少し二つ目の理由にも重なるけど…
セザル以外の村人は一瞬で泊めてもらうことを拒んだ。僕達が旅人だと知っているのに」
「ああ」
「対してセザルは、泊めてもらうことを快諾した。けどその割には僕達のことを強く旅人とは認識していなかった」
「あー?」
「…納得いってない?」
「んー無理だな。まだ裏付けが薄い。あとお前、誇張しすぎだ」
「え?」
「確かに引っ掛かりは俺にもあるが…その、言葉の端々に『セザルが悪人だ』という感情が滅茶苦茶感じられるわけよ」
「…………」
「良くないぜ、特にあいつの前でそんなこと言ったら、どちらにしろ関係は悪くなる」
「さすがに言わないよ…でも……そうだね……」
…なーんか空気悪くしちまったかなぁ。
自分で状況作り出しておきながらなんだがあんまりこういうの慣れてないというか…
「…まぁこのことは俺も考えておく。とりあえずアイスも休んどけよ?もしお前の言うことが本当なら戦闘とか避けらんないだろうしな」
「…疲れちゃないけどさ」
「……あー、まあどちらにしろ休んどけ。俺はちょっと出掛けてくる」
「……」
とりあえずノリで出てきたはいいものの、これでは夕方の二の舞である。金も無いしな…
仕方が無いので、倉庫から出たあとセザルの家の周りをあても無くぐるぐる回っていた。現世界じゃ間違い無く通報もんだがここでは関係無い。
…と、ここで俺の耳にある会話が聞こえてきた。
「はい……すみません…」
ん?これはセザルの声だ。しかし音量は小さく、口に手を当てたようなくぐもった声である。もちろん母屋の方から聞こえるのだが、…中に誰か他の人がいるのか?
「しかし……はい。只今あのアンドロイドが部屋から出た様子ですが……」
……はぁ?今あいつ何て言った?
しかも他の人の声が聞こえない…ということは電話か。
…いや、この世界に電気が通っているかが問題だ。大都市なら分からなくもないがこの村の様子からするとなおさらである。
そして万一、電気があったにしろ…
「アンドロイド………か……」
もしかしなくても俺のことだろう。そして俺達はセザルに俺達の本当の事情を話したことは微塵もない。
まさか……本当にセザルは敵のまわし者なのか?
ただなんとなく、『何者かがこの世界を監視している』という危機感はあった。しかし、俺の思考はそこで停止していた。理由は簡単。作者の家への居候癖が原因なのか、衣食住とある程度の身の安全が保証されればそれで良かったわけだ。それもあるとは言いきれなかったのだが。
もしかして……アイスが今朝早く俺と共に近くの森へ特訓に行ったのは…?
あいつ……あんな前から…気付いていたのか?
「……はい……明日の予定ですが………?…分かりました…。では、終わり次第そちらに向かいます…」
…彼の会話は終わったようだ。なら気付かれないように逃げなければな……
しかし、どうやってアイスに今のことを話そうか…。
アイスの推理は当たるものです。