表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

1

雨が海に落ちていき、波紋を残す。

雨が降るたびに、彼女のことを思い出す。

 雨と彼女はほとんど接点がない。あるとしても一般的な人たちと同じくらいのものだ。

なぜ雨が降ると彼女のことを思い出すのだろうか。

 ……わからない。もっとも理由なんてないような気がする。あったとしても、それは本質的ではない理由だ。

 

 彼女は、とても美しい女の子だった。そう簡単に言ってしまうと、うまく伝わらないかもしれない。モデルのようなに際立ってきれいだというわけではない。ただ、全体として見たときに、うまくまとまっていた。

そういえば、唇の右上に小さいほくろがあった。そのほくろにそっとキスをすると彼女はとても喜んでくれた。あのほくろがなかったら、僕は、彼女を好きにならなかったのではないかと思う。そのくらいの危ういバランスで美しさが成り立っていた。今振り返ると、ジグソーパズルのような美しさだったと思う。ひとつピースをなくしてしまえば、もう二度と完成することなんてなくなってしまうのだ。

 彼女の名前は、石橋愛と言った。

 僕が石橋愛と付き合ったのは、ほんの短い期間だった。けれど、付き合っていたのかどうか今考えるとわからなくなる。デートらしいデートもしていないし、あまり多くのことを話すことはなかった。でも、僕たちはお互いを十分すぎるほどに理解し合っていた。それだけは間違いない。それが正しいことなのかはわからないけれど。

 

 三年経った今、僕は彼女といっしょに眺めていた海に一人で立っている。僕は大学生となり、彼女は高校生のままだ。この海は、おそらく何も変わっていない。変わったのは僕のほうだ。その現実は、不規則な波音によって告げられているような気がする。

 雨で濡れたTシャツを冷たい潮風が膨らました。


 高校二年生の夏の話だ。全てがうまくいくと僕たちは勘違いをしていた。全てが星のように煌めいていると思っていた。けれど、その星はあまりにも遠すぎた。僕たちが理想とする地図は、砂浜に書いた絵のようにあっけなく波に消されてしまった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ