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28粒目

翌日も快晴であり。

我等の

“げてもの屋台”

が繁盛してる理由は。

「小さな君が、蛇を捌いているのも話題の1つらしい」

なんと。

「これで路銀を稼いでいるのかとも聞かれるよ」

ふぬ。

「蛇がいる場所ならばそれもよいの」

金物屋の男が、

「研いでおいたぞ」

我等の刃を研いでおいてくれた。

「のの♪」

これは有り難い。

通じないけれど礼を告げて受けとると、続いて出てきた嫁も顔色は悪くなく。

「夜もぐっすり眠れたの、忙しかったのが良かったみたい」

と腹を擦り、

「今日もいい天気ねぇ」

空を見上げる。

今日は朝から組合で蛇の整理券なるものが配られ、

「おはよう、今朝も忙しいだろうけど、お願いするわね」

組合長がニコニコとやってきた。

「昨日食べた人は、なるべく遠慮してくれって声を上げているんだけど、噂を聞き付けた隣街からもね、人が来てるみたいなの」

組合長が頬に手を当て大きく溜め息。

娯楽が少ない弊害の1つであろうか。

「蛇なんて敬遠されると思ったんですが……」

男も戸惑ったように、屋台の脇に並ぶ今も蠢くズダ袋を振り返り。

「蛇が“美味しい”って言うのが、一番の理由みたいねぇ」

(ふぬぬ)

どうやら、喜ばれてはいる様子。

ならば、我等は今日も捌いて焼いて売るのみ。

2日目は、たまにでもなく、

「いいもん食わせて貰ったから」

と、酒や日持ちする食材を貰えたり。

「ほら、取り急ぎだけど縫ってきたから」

と、街の女たちに小さなエプロンを手渡され、血と臓物で汚れたエプロンは洗ってくるからと、汚すたびに回収され。

『水は替えるからキミの手伝いに徹してくれと、街の人に声を掛けて貰えた』

狼男がやってきた。

「おやの」

組合だけでなく、街の者たちの助けも入り、賑やかに忙しなく、卵の街の祭りは過ぎて行き。


早朝は曇り空の3日目。

組合長の厚意で、

「“仕入れ”もあるでしょう、最終日は午後からで、客は焦らして待たせればいいわよ」

最終日は、我等は昼からの重役出勤となり。

そのため本日は早朝から、あの妖精たちのいた、街を囲む森の中では一番大きな森へ馬車で向かいつつ。

「街では、子供たちのお手伝いが増えたそうだよ」

のの?

「自分より小さな子が、蛇を捌いて生計を立てている姿を見て、自分も頑張りたいと思うらしい」

なんと。

子供らしく遊べばいいものを。

「ただ、刃物を使いたがって困ってもいるそうだ」

「ぬぅ」

子供は、良いものも悪いものも吸収するの。

早朝の森はまだ薄暗く。

「……」

目を凝らせば、あの妖精たちの仲間の光は離れた場所に見えるけれど、どうやらこんな時間に森に来た我等の姿に、警戒して逃げている様子。

正確には、我から、であろうけれど。

(こちらもお主等には興味ないの)

夜行性の蛇はたちはそろそろ眠りに就く頃であり、昼間動く蛇ちはもう起きている。

そして、街を挟んでいるとは言え、

「のの?ここまで違うのの」

「フーン」

餌の影響でしょうかと、狸擬きが首を傾げる程に、蛇が大きい。

木の枝からぶら下がり威嚇してくる蛇を、

「ふんの」

平手打ちし昏倒させ。

とりあえず1匹。

ずるずる引き摺って戻れば。

「どうした?」

『早いな?』

下準備をしてる2人に驚かれ。

「これが食に値する蛇か知りたくての」

『うお、デカいな』

狼男に捌いて貰い、焼いてみる。

「肉厚だから、焼くのに少し時間がかかるな」

「ぬぬん」

時間勝負の屋台ではあまり向いていないであろうか。

『でも、匂いからしてもう美味い』

「フゥン♪」

美味しそうですと鼻をヒクつかせる涎狸。

味は、一番野性味があるものの、

「変わったものを食べている」

感も強い。

「肉厚だし、価格を上げてもいいな」

男の許可も出たため、急いで狩りに向かう。

狸擬きの背に乗って森の奥へ向かえば、光がちらほら見える。

『……若干、閉鎖的な空気ですね』

「おやの」

それでも、そんな空気は、我等には関係ない。

大きな蛇のみに狙いを定め、狸擬きの背中から小豆を貫通させていく。


「蛇もいいけど鳥も美味しいよ!」

賑やかな街へ戻れば、そんな掛け声が聞こえてくる。

「くふふ」

離れた広場から音楽が流れてくる。

子供たちが、躍りを披露しているらしい。

金物屋と嫁に挨拶し、顔見知りになりつつある両隣の屋台の者たちとも挨拶し。

「卵の街でなく蛇の街なんて名前が広がりそうだよ」

そんな軽口を叩かれつつ、蛇の腸を取り除く。

「お主も随分と手際が良くなったの」

『あぁ、蛇だけなら自信を持って捌けると言える』

頭から狼の耳を生やし、腰の下から尻尾を揺らす精悍な若い男が、生きた蛇を容赦なくかっ捌く姿に、女たちがほぅと艶かしい溜め息を吐く。

かと思えば、

「蛇が美味い」

その言葉に釣られてのこのことやってきた男が、この世界でも狩りに行くこともないのか、もしやどこぞのぼんぼんであったのか。

「……!?」

我や狼の血にまみれた手を、顔にエプロンに飛ぶ血を、捌かれる蛇の姿を目の当たりにし。

「おい!倒れたぞ!」

客が失神したり。

大小のあれやこれやはあれど。

あっという間の3日間、無事に祭りを終えた夜。

組合が主催の後夜祭では、

「フーン♪」

組合と街からも、礼として我等はタダ酒を振る舞われ、

「フンフーン♪」

組合前に並べられたテーブルで、狸擬きがご機嫌に尻尾を振っては、カパーッカパーッとビールをワインを喉に流し込んでいる。

知らぬ街の者達にも順に礼を述べられ、どこからかいらしたと問われ。

牽制の如く我をしっかり胸に抱く男と違い、狼男は若い女たちに身を寄せられ、

『ええと、なんだ、その、距離が近いな』

狼男が戸惑う程度には、酒の入った若い女たちは尚更大胆であり。

『どこから?あぁ、ええと、少し離れた山の麓の村から来た』

『す、素敵?いや、俺は見掛け倒しで、何も役に立たない』

『酒も煙草も、独り立ち出来てからと決めているから、気持ちだけ頂く』

人の女の扱いに慣れず、狼狽えている姿がおかしい。

しかし。

「酒だけは、独り立ちの前に覚えておく方が良いの」

なんせ今日はタダ酒である。

『う、ううん』

ビールを受けとる狼男は、狸擬きの真似をして一気にビールを煽るも、

『に、苦いし、不味い……っ!』

顔をしかめ、周囲の笑いを誘う。

アルコールには耐性があるのか、続いてすすめられたワインも、渋いし甘くないと眉を寄せつつ、酔いは少なくとも(おもて)には現れない。

「あなたたちにお願いして本当に良かったわ」

小柄な組合長が、人混みを抜けてやってきた。

「段取りが悪く、色々と街の方たちの手を煩わせてしまいました」

男が我を抱いたまま謝れど、

「街のお祭りなのよ、みんなで手伝えて、みんなが参加出来て、大満足よ」

そういうものであるか。

わっと声が上がり、目を向けると、

「おやの」

狼男が、街の、多分力自慢である男と、どこからか運ばれてきた背の高い小さなテーブルを挟み、腕相撲を取っている。

『……』

狼男は、どれくらい力を入れればいいとこちらを窺ってきたため。

「ぬん」

握った手を小さく振ってみせれば。

『……』

考える顔をし、

「はい、3、2、1!」

審判役の男が、構えた男たちの手から手を離した途端。

「うおっ!?」

狼男の手は、相手の手をテーブルに伏せていた。

(ののん)

あまりに一瞬の出来事に、場が鎮まる有り様。

「のの、少しは手加減をしてやるの」

声を掛ければ、

『あ、あぁ』

二度目の挑戦を受け、

『……』

だいぶ力を抜いて、ただ、

(演技が下手であるの)

必死で力を込める対戦者に、狼男は戸惑いが見えてしまってる。

それでも。

狼男がそろそろと、掴んだ対戦相手の手を板に付けると、しかしその圧倒的な力に、場が盛り上がる。

次は俺だ、俺もと対戦者が声を上げ。

力を入れてない狼男は疲れ知らずであり。

一番盛り上がったのが、

「フーンッ!」

名乗りを上げた狸擬きとの対決。

結果は。

「フーン♪」

ガッツポーズする狸擬き。

わざとらしく肩を落とす狼男。

「フンフンッ」

今なら主様にも勝てるのでは?と、調子に乗り狸がテコテコやってきた。

ふぬ。

「笑止、であるの」

「フンッ!?」


祭りの翌日。

屋台の解体、街の掃除に参加し。

「鳥舎にね、大きな身体と爪を持つ鳥がいるのだけれど、あら、知ってる?」

さすが旅人さんね、と組合長。

ここの大爪鳥とは話が出来るかのと、せっかくだからと大爪鳥を雇う鳥舎へ案内され。

2羽のうち、1羽は3日ほど留守にしていると。

残った、鳥舎の外に出ている1羽は。

「フーン?」

狸擬きが声を掛けてみるも。

『……』

「フンフン」

『……』

変わった生き物だな、とあまりこちらに興味がない様子ですと狸擬き。

今もこちらを見向きもせず、自身の毛繕いに余念がない。

その圧倒的な巨体に比例し、我等の様な小物など微風程度の存在らしい。

では。

「の、お主は浮き島の存在は知っておるかの」

『……』

問いかけてみれば。

その問い掛けは、ほんの、思い付きの単語でしかなかったのだけれど。

ちらとこちらに視線だけを向けた大爪鳥は、しかし、おもむろにぐいとこちらに(くちばし)を寄せ、

『……その話題は、この辺りではあまりするな』

と壮年の男の声で、辺りを見回しながら忠告をしてくれた。

(おやの)

目をぱちくりした我を、改めて見下ろす大爪鳥は、

『……なんだ、少しでなく、だいぶ変わっているな』

小首を傾げているため。

「お主は何が好きの」

『?』

話を聞きたい、交換条件であると提案してみれば。

大爪鳥は、再び辺りを見回してから、

『……俺は鶏肉が好きなんだ』

と大層言いにくそうに教えてくれた。

「ほうほう」

『同じ鳥仲間であるから、なかなか言いにくいんだけどな』

鶏肉であるか。

調達は容易であるのと頷けば。

何か思い出したように瞬きをした大爪鳥は、

『……もしかしてお前さんたちか、祭で蛇を捌いて食わせてたってのは』

大爪鳥にまで伝わっている。

「そうの」

『俺もたまに食べるけれど、丸飲みなんだ、焼いたものを食べさせてくれないか?』

おやの。

「食通であるの」

『まぁな、これから一仕事あるんだけれど、今日は近距離でな』

ふぬ。

『仕事が終われば自由に動ける。妖精の森の奥に来てくれないか』

この獣ならば、俺の気配を追えるだろうと狸擬きに視線を移す。

「よいの、こちらの提案を受け入れてくれて感謝するの」

『気にするな』

鳥舎の人間が、荷を積めた大きな箱を運んできた。

仕事らしい。

大爪鳥が大きく羽根を広げれば、風圧で狸擬きはひっくり返っている。

こちらは何度目かになる蛇狩りであるけれど。

「まだ居るかの」

この辺りの森の蛇はだいぶ狩ってしまった。

「どうせ馬車を出すなら、少し山の方へ行ってみようか」

「の」

街に来た道を戻る様に向かい、道を外れ。

さすがにあれだけの量の蛇を焼けば、男も蛇に慣れるらしい。

「いや、そうでもない」

苦笑いの男。

『俺は蛇は美味しいものだと、苦手は克服した』

おやの、逞しい。

けれど酒は、

『なんだ、こう、腹が熱くなる』

ただそれよりも、舌に感じる苦味や渋みに反応し、

『あまり好まないな』

味覚はまだ幼い様子。

今回は狼男も混じり、山の方で蛇を狩り。

とりあえずズダ袋は3袋に蛇を積めると。

馬車の入れるギリギリまで森の端まで向かい、狸擬きの案内で森へ入れば、馬車を停めた場所からは割りと近い、池以上湖未満の水辺で、一仕事終えた大爪鳥が水浴びをしていた。

スダ袋を見せ、足りなければ狩りに行くのと伝えれど。

『こんなにあるのか!?』

「の?」

大爪鳥は、せいぜい数本焼いたものを味見させて貰えると考えていたらしい。

それでも、

「お主の一食分には到底満たぬであろうの」

『いやいや充分だ、いいおやつになる』

おやつとな。

ウキウキと尻を振る大爪鳥は。

蛇が捌かれる姿を興味深そうに眺めながら、浮き島の話を聞かせてくれた。

『俺も、又聞きでしかないんだがな』

随分昔に、近くの村で疫病が広がった。

村人たちがバタバタと倒れていく中、何とか症状が浅く済んだ少年が、空に浮く浮き島を見掛け、村で飼っていた大爪鳥に頼み、浮き島へ向かった。

『その数十分後だか数時間後かに、命のあった村人は、全員村から消えていたらしい』

「のの?」

少年が浮き島で何を願ったのか、何を望んだのかは、謎のまま。

少年を爪の中に囲むようにし、飛び立った大爪鳥だけが、村に戻り。

村を訊ねた街の人間が、村の異変に気付き大騒ぎになるも、その後、村に村人が戻ることはなかったと。

それはまた、夢のない怖い話であるの。

「その村はまだあるのかの」

『もう打ち捨てられて長い。人の住んでいた建物も、崩れていたりする』

当時、街の人間が村に訪れた時は、まだ民家の水場では万能石に火が点き、鍋の湯が沸いていたり、洗濯物は干されている途中で、カゴには濡れた洗濯物が入ったままだったと。

『街には、廃村の存在を知っている人間たちもいるけれど、その存在はなかったことになってる』

ふぬ。

「では、少年が大爪鳥に乗って浮き島へ向かったと言うのは?」

どこから。

『街へ向かっていた別の行商人が見掛けていたと聞いている。飛んでいる大爪鳥の爪の中に囲まれるように、少年が空を指差していたと』

ふぬ。

その時、他の村や街からは、大爪鳥を飛ばして浮き島に向かうことはなかったのであろうか。

『それがな』

「?」

『なにやら一定の条件が揃わないと、地上から浮き島は見えないらしい』

「ぬ?」

それは飛んでいる大爪鳥や鳥たちから見ても同じだと。

あまりに大きいため、浮き島は低い位置に感じるけれど、鳥たちよりも遥か高くを飛んでいるとも。

(のの?)

では、空を流れる鯨と蛇も、小さく見えるけれど、だいぶ大きいのかもしれない。

浮き島は、人間は目に留めるだけでも、一定の条件が必要なのだと。

気象条件的な話なのか。

それとも、もっと“オカルト”的な条件であるのか。

『……』

考える我を、何とも言えぬ顔で見下ろす大爪鳥。

この大爪鳥のいる街が、村人が消えた村に一番近く。

命のあった村人が1人残らず消えると言うショッキングな事件は、大昔の話とはいえ、安易に余所者に街中で話題にされたくはない気持ちも解らなくはない。

とは言え。

「の」

『なんだ』

「我等の会話は、人間たちには聞こえぬし通じぬの」

あの場で話しても何の問題もなかった。

『おっ!?』

失念していたらしい。

『確かにそうだ、なんだ、無用な手間を掛けさせてしまったな』

蛇の焼けるいい匂いがしてきた。

「礼はしたかったからちょうど良いの」

熱いものは平気かと問えば、

『少し冷ましたものの方が得意だ』

狸擬きが涎を垂らしているため、大爪鳥に、1枚だけ分けて貰えぬかと頼めば、

『勿論だ、構わず食べてほしい』

大変に心が広い。

『村に戻った大爪鳥はどうなったんだ?』

手慣れた様子で蛇を捌く狼男は、それが気になったらしい。

『街に、こちらも以前は村だったらしいけれど、保護されて、仕事を続けていたそうだ』

ののん。

こやつは子孫なのだろうか。

いや子孫ならば、浮き島へ降り立った話を聞いているか。

男が風魔法で冷ました蛇を、大爪鳥は、

『焼いた蛇はとても美味いな』

足踏みをして喜んでいる。

捌いた蛇を焼いては男が風魔法で冷まし、大爪鳥に与え。

半分程で、

『いや大変に満足だ、有難う』

「の?もう良いのの?」

『充分だ』

そういえば、規格外の巨体であっても鳥ではあるため、飛ぶために滅法身体は軽く、胃も大きくないであった。

『休まないと飛べないくらいに食べてしまった』

満足そうに身体を揺らすと、

『……あの村へ行くのか?』

「そうの、我はまだ廃村と言うものを見たことがないからの」

こちらの世界では。

『……気を付けろ』

「の?」

『なにがあるか分からない』

村人は消えた。

どう消えたのかは不明のまま。

廃村に、土地に、なにかあったとしてもおかしくない。

「あの村へ向かった街の人間や旅人が消えたなどの話はあるのの?」

『いや、ないな。当時は、すでに疫病でなくなっていた村人たちを埋葬するために、街の人間たちが村へ入ったけれど、皆無事に帰ってきたと聞いている』

ぬぬん。

一体、どんな疫病だったのであろうか。

『人の病気の話にはとんと疎くてな』

むしろ詳しい方がおかしいしの。

この世界の人間は丈夫であり、疫病は、それを上回るものだった。

村人が、家族が弱っていく中で、少年は。

浮き島で、何をどう願ったのか。

「……」

大爪鳥が少しいいかと口を開き。

「?」

大爪鳥は、自分は雇われ鳥で、飛べても同じ場所を行ったり来たりで、他の土地の事は案外疎い。

広い世界の話を聞かせてくれないかと頼まれたため、それは狸擬きに請け負ってもらう。

我はその間に、一緒に運んできた、街で貰いすぎた卵をパカパカと割っていく。

狸擬きのフンフン鼻を鳴らす音に、大爪鳥の可笑しそうな笑い声。

何を話しているのやら。

男と狼男にも手伝って貰い、荷台から大きな鍋を運び、牛の乳と砂糖を温めたものの中に、ほぐした卵を流し込んでいると。

「フンフン」

食後のデザートを所望しますと狸擬きが振り返った。

「それを今用意しておるのの」

『デザート?』

大爪鳥が小首を傾げる。

「ほんのおまけの礼であるの」

鍋一杯に作ったプリン液を、更に大きな鍋に沸かした湯に浸し、湯煎する前のものを覗き込んだ大爪鳥は。

『な、なんだと!?』

跳ねるように身体を硬直させると。

「の?」

『ちょっと待っててくれ!』

ひとっ飛びして腹をこなしてくると、それでも我等に、風圧でひっくり返る狸擬きに気を遣い、離れた場所まで木々を避けながら倒しながら歩き、羽根を広げて飛び立って行った。

「彼は、どうしたんだ?」

「プリンを美味しく食べたいから、お腹を減らしてくるそうの」

男が小さく笑うと、

「フーン」

ではわたくしめも少しばかり走ってきますと、バビュンッと消えて行く。

「お主は良いのの?」

狼男に問えば。

『あぁ、俺は片付けを手伝おう』

腕捲りをする。

ののん。

もし、先々で狸擬きと狼男のどちらかを置いていく事態になったら、迷わず狸擬きを置いて行くことにしよう。



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