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27粒目

「どうする?」

「ふぬ……」

金物屋のある通りが祭りが行われる大きな道の1つであり、屋台だったりそのまま店でお祭りならではのものを売るのだけれど。

「今年は女房が本調子でないから、何も出来なくてな。でもメインの通りだし、誰かに声かけて店の前を貸して屋台でも出そうかと思ってたんだけど」

暇そうに街をぶらつく我等のことを思い出したと。

「旅人さんの屋台は新鮮味があって盛り上がるんだよ」

屋台。

お店屋さんごっこであるか。

まぁ断る理由もなく。

「フーン?」

何を売るのですかと狸擬き。

「何でもいいと言われたけどな……」

お隣の国でお祭りを体験したため、狼男も、

『屋台はスピード勝負な所があるな』

「そうの」

歩いた方が案が出ますと狸擬き。

「おやの」

珍しくまともな提案にするのと思えば。

狸擬きが先導して向かった先は、街に一番近いの1つ。

あの妖精たちがいた森とは別の小さな森。

「フーン♪」

到着するなり、ステテテテと狸擬きは即座に消えて行く。

「甘味よりツマミ系かの」

甘味ならば作り置きも来るけれど、卵を使った菓子は、街の十八番であろうし。

「鶏肉も多いだろうな」

鳥のお祭りであるしの。

『俺は、出来ることは何でもやるぞ』

腕捲りをすると狼男。

「おや、何とも頼もしいの」

案を出す相談中であるのに、森へ消えた従獣とは大違いである。

我等も薄情な狸擬きを追って森へ入ると、離れた場所、枯れ葉の下からカサカサと音がする。

何かが、枯れ葉の下を、土の上を這っている。

(ふぬん)

「の」

「うん?」

抱っこか?

と男が我に両手を伸ばしてきたため。

「の、蛇はどうの」

別に抱っこではないけれどと両手を伸ばせば、

「……蛇?」

しかし男が動きを止める。

『蛇?』

「屋台の出し物の」

『蛇を見世物にするのか?』

と狼男。

「のん、蛇を捌いて串刺しにして揚げ焼きにでもするのの」

「……」

『……え?』

我に両手を伸ばしたまま固まる男に、理解が及ばない顔の狼男。

「頭は落とすし、平たくすれば見た目の嫌悪感は減るのの」

金物屋には、旅人ならではのものを期待されている様子も窺えた。

蛇ならば、多少は珍しい部類に入るであろう。

「いや、その、蛇は……」

やっと我を抱き上げた男が、言いにくそうに口を開き。

「のの」

そうである、我の男は蛇が得意でない。

うっかり失念していた。

狼男は、

『ひ、人は、何でも食べるんだな……』

久々に、

“カルチャーショック”

を見せている。

「蛇には、毒蛇もいるだろう?」

危ないと男。

なんの。

「毒の部分は切り捨てれば良いだけの」

身体中に毒を有する蛇はこちらではまた見たことがない。

けれど。

「色々と刺激が強過ぎる」

我の案はすげなく却下され。

テンテコテンテコと森にはしゃぎつつ、我等の姿を見掛け、のこのこ戻ってきた狸擬きは、

「フーン」

わたくしめは主様お手製の甘味が良いですと、主張だけは一丁前狸。

「おやの」

酒のツマミとでも言うかと思えば。

「フゥン」

屋台を出す側は飲めないのですと利己的狸。

『ええと以前、君は葉で“ふね”と言うものを作り、川に流してくれた。それに、紙でも不思議なものを作る』

草舟や折り紙のことであるか。

ふぬぬ。

紙なら作っておけるし、暑さ寒さの管理も必要ない。

今日からでも出来るし、何より、皆で出来る。

当日は並べるだけ。

「いいな」

「フーン」

わたくしめはあの手裏剣とやらと希望しますと狸擬き。

決まった決まったと、狸擬きの森への散策を付き合い、街へ戻れば。

「飲食物のみ?」

「おっと悪い、言い忘れてたな」

金物屋のある道沿いは、飲食物の屋台と決まりがあるのだと。

「のーぅ」

振り出しに戻る。


結局。

「蛇!?食べてみたいっ!!」

パァッと顔に明るさを見せるのは、あらいらっしゃいと、2階へ繋がる階段から降りてきた金物屋の嫁。

どんなものがいいかと金物屋と話している時。

男が、軽口で出した蛇の単語に、ウキウキと反応を見せている。

「な!?おいっお腹の子がいるだろう!?」

「久々に食べたいって思えたのよ」

蛇を、ではなく。

少しの悪阻(つわり)があり、あまり食事も摂りたくなかったのだけれど、蛇などと言う珍味ならば、食べてみたいとウキウキ。

「蛇?あらあらまぁ、やっぱり旅人さんにお声を掛けて正解だったわねぇ」

若い(むすめ)の様に頬に手を当てるのは組合長。

「私も、売り切れる前に食べに行くわね♪」

我等の姿にカウンターから出てくると、勿論許可するわと二つ返事で許可を貰えた。

組合を出れば。

『……お、女と言うものは、どの生き物でも、共通して強いんだな』

何を言う。

「お主は山生まれの、身近な生き物であろうの」

食料にもなっているはずである。

なのだけれど。

『ええと蛇は、たまに遠くからやってきた大きな蛇が、長が話していた姿を見たことがある』

ほうほう?

たまにとな。

「フーン」

あそこは極端に蛇が少ない山でしたと狸擬き。

ぬぬ、あの自己主張の強いお山は蛇を嫌うか。


「へーび♪」

「フーン♪」

「へーび♪」

「フーン♪」

馬車を出して貰い、西側に位置する少し大きめの森まで向かうと。

この時間から森へ入る者はいないだろうけれど、奥の方まで向かい、一応、

『ここから先、蛇用の罠の仕掛けあり、注意』

と貼り紙を木に留めていく。

我1人で充分だけれど、罠は狼男に罠の仕掛け方を教えるためでもある。

我は更に奥をうろうろ歩きつつ。

「フーン」

狸擬きが気配や臭いで見つけたものを、

「ふんす」

尻尾を踏んで捕まえたり。

自身に力があるととんだ勘違いし、我の前にぬるりと姿を現した蛇の、

「の」

横っ面をひっぱたいて昏倒させ。

ずるずる引き摺っては袋に積めていく。

昼過ぎには気温も上がり、

「のの」

湧き水場へ向かうと。

「~♪」

小豆を研いでから。

本番に向けて、

「では解体の練習の」

『あぁ、頑張る』

頭を落とし血を抜く。

肛門辺りも抉り、皮を剥き、骨を取り。

蛇の種類ごとに調理を変える時間も器用さもなく、全て揚げ焼き。

「臭い消しと風味付けも兼ねて、香草くらいまぶすかの」

香草ならば、そこいらでいくらでも賄える。

「フーン」

ではわたくしめが採ってきましょうと、美味しいもののためなら手間を厭わない狸。

『手で剥げるのはいいな』

「の」

絶えず眉を寄せた男が、開いた蛇の肉をナイフで等分に切り串を刺し、粉と塩と香草をまぶし。

フライパンに敷いた油に、蛇と言われなければ分からない薄めの白い肉を焼けば。

「ののっ」

『うおっ!』

「これは、水分が多すぎるな」

跳ねる跳ねる。

もう1つのコンロに掛けていたフライパンでも別の蛇肉を焼けば。

「こっちは平気の」

『……美味そうな匂いだな』

あんなに引いた顔をしていたのに、今は大きく喉を鳴らす狼男。

「フゥゥン♪」

すでに涎を垂らしている狸擬き。

しかし男だけは、自身で焼いても尚。

「う……」

離れた場所で、(うごめ)くズダ袋が目に入るお陰か。

ならば。

「くふふ。ほれ、あーんの」

我自らの手で、あーんをしてやれば。

「……ぐ」

さすがに(あらが)うことはせず、大人しく口を開いて歯を立て。

「……ん、んん。……うん?」

寄せていた眉から目を大きく見開き。

「……案外、悪くないな」

『とても美味い、蛇とは案外あっさりな味なんだな』

「フーン」

狸擬きは、わたくしめにもあーんを願いますと口を開いて待っている。

「なんの、お主は相変わらず甘えん坊の」

ほれのと口に放り込めば、熱さにハフハフしていたけれど、

「……フン♪」

淡白さは油で、風味は香草で(おぎな)われ、大変に美味ですとグルメ狸。

「こっちも焼いてみよう」

多く捕れたのは、主に三種類の蛇たち。

太さでいうと真ん中の蛇も。

「旨味が強いな」

『これも好きだ』

「フーン♪」

これは塩だけでも十分美味ですと好評。

「我とこやつで捌くの、お主は焼いて欲しいの」

「分かった」

「フーン?」

「お主は会計の」

「フンフン」

任せてくださいと狸擬き。

とは言え。

「見た目で敬遠されるであろうからの」

物珍しさで、たまに客が寄ってくる程度であろうと。

そう。

前日までは、呑気に構えていたけれど。


「蛇だって!」

「蛇を見るの?食べる!」

「捌いてる!焼いてる!!」

(ののーぅ……)

「ほい替えの水だ」

金物屋が桶に水を汲んで来てくれた。

「すまぬの」

会計は狸擬きと、金物屋の嫁も手伝ってくれている。

「座っていられるし、気が紛れるから丁度いいわ」

と。

我等は、予想を遥かに越えた見世物として繁盛、大繁盛をしていた。

森の近い街では、蛇など珍しくないであろうと思ったけれど、

「蛇を食べられる」

と言うのがどうにも肝らしい。

しかし。

「ののん、通りの流れを止めてしまっておるの」

それがまた人を呼び、何より。

「えー!美味しっ!!」

「蛇なんて初めて食べた!」

蛇が、食べられる上に美味だと、大きく噂が広まり。

「ぬぬ、キリがないの」

これでは休憩も取れぬと困っていたら、

「組合!組合で蛇の番号札を配るよ!!」

「悪いけどね!今焼いてる分で休憩に入りますからね!」

「蛇の在庫もあるから!」

やってきた組合長と組合の人間が声を上げ、その場を仕切ってくれた。

「のの」

助かった。

我はよくとも、他の者がバテてしまう。

「いや凄いな、みんな蛇が怖くないんだなぁ」

金物屋が、蛇の頭や内臓などの入った血生臭い樽を見てうっと仰け反る。

『休憩の後は、俺も水を運ぼうか』

「ぬん」

確かに、処理の水が追い付かない。

「お願いするの」

「君は1人で捌くことになるけれど大丈夫か?」

男に心配されるけれど。

「人数の制限が入れば、焦らなくて済むから平気の」

白いエプロンは血と贓物で汚れているけれど、男が手早く洗い乾かしてくれる。

「フンフン」

忙しくてお昼が食べられませんとご不満狸。

「夜はお酒を飲んでいいから我慢するの」

「フンッ!」

頑張りますと狸擬き。

「見学はほどほどに頼みます!」

休憩の後は、どうやら街の顔でもあるらしい組合長を含め、組合の人間たちが仕切ってくれ、我等は我はひたすら蛇の頭を落とし血を抜くためにぶらさげ、血の抜けた蛇の皮を剥ぎ内臓を取り出し。

顔に跳ねた血を手の甲で拭う。

「ぬ、ナイフが使い物にならぬの」

疲れはしないけれど、刃がすぐに駄目になる。

我の力を無駄に込めると、蛇にまで伝わりろくなことにならず。

けれどそこは。

「うちのもあるし売り物もある、俺も研ぐし、いくらでも使ってくれ」

餅は餅屋。

さすが金物屋。

有り難く借り、蛇を捌く。

儲けのための屋台でなく、穴を開けないための賑やかしの屋台であるため、夕刻前には閉めてもよいであろう。

何より。

「夜行性の蛇を捕まえに行かねばならぬからの」

祭りの最終日まで楽に賄えると思っていた、蛇を詰め込んでいた複数のズダ袋たちはすでに空っぽ。

狩りであるのと張り切ると、

「組合を通して街の方から、民家に近い森で狩って欲しいと依頼を受けたよ」

「のの?」

「子供たちが森で遊ぶ時に、蛇がいてたまに危険があり、少し減らしてくれると助かると言われた」

ふぬぬ。

今日狩るのは夜行性であるけれど。

「フーン」

主様の気配で、眠っている蛇たちも嫌でも目を覚ますでしょうから問題ありませんと狸擬き。

ふぬ。

ならばと、我はより自身の精度を高めるため、森の手前、荷台の中。

巫女装束に着替える。

髪をほどき、下駄に履き替えて荷台から飛び降りれば。

『お、おおぉ……』

狼男に、感嘆を含んだ、唸る様な声を上げられた。

「?」

目新しい羽織物のお陰か。

『何だろうな、こう、ええと、山を感じる』

山。

『山に感じる気持ちと似ている、誠意、ううん違うな』

狼男は胸の辺りに手を押し当てる。

「見下ろしていることが、悪に感じる』

悪とな。

『主様という存在、その圧倒的な力に対しての敬意、もしくは畏怖』

狸擬きが口を開いた。

『それだ。俺の呼吸は浅い、胸の早鳴り、地に立つ足のおぼつかなさすら感じる』

どうやら褒められている様子。

「くふふ、我を(あが)(たてまつ)るがよいの」

その場でくるりくるりと回ってみせると、

「解体の準備もできた」

男が立ち上がり、自分達は水を運んでくると言う。

「の」

夜の蛇たちは、より視力に頼らない。

感覚がより研ぎ澄まされている。

だからこそ。

「良いの」

我は、大層美味な餌として森を徘徊する。

(おやの)

ほどほどの森の深さ、甘く見ていたけれど。

「大物も蔓延っているではないかの」

我の気配で、もそりもそりと動くのは、木の上からも。

ミミズクやフクロウの気配。

「よいの。お主等も、無駄なく我の糧としてやろうの」

冷蔵魔法と保存魔法があれば、ほんの一晩程度ならば捌いたものでも問題なさそうである。

蛇は容赦なく我に襲い掛かってくるため、平手で叩き、ミミズクやフクロウは小豆を飛ばして頭を貫く。

「……」

先日出会ったばかりの妖精の姉が、卵の中身を踏み潰した我の姿を見て、

「悪いものを我自身の糧にしている」

と喚いていたらしいけれど。

もしそうならば、とても面白い。

残念ながら自覚はなし。

けれど。

もし、殺生した獣たちや有象無象たちが、我の力に、糧になるとして。

その相手が、人間ならば。

我が。

多くの人を(あや)めれば。

さて、はて。

人が我の糧となった、その結果は。

『主様』

隣をトテトテ歩く狸擬きが声を出した。

「の?」

『大変に悪いお顔をされております』

「……のの?」

立ち止まり口許に触れれば、我は、唇の端を引き上げていた。

『従者たちの元へお戻りになられる前に、普段のお顔に仕上げておく方が無難かと』

「そうの」

こんな顔を見られたら、さすがに我の男でも。

(ぬぬん)

「若干見せたい気もするの」

狸擬きは暗闇でスンと鼻を鳴らすと、

『わたくしめは木から落ちた獲物たちを積めつつ先に戻ります』

踵を返し。

「頼むの」

我は1人、奥へ、奥へ。

我の気配で、森は仄かにざわついている。

辺りを見回してから、

「森の中に、我と話せる者はおるかの!さすればその命、見逃してやらぬこともないの!」

街には勿論、男等にも届かぬ程度に声を上げてみたけれど、

「……」

返事はなし。

(ふぬ……)

代わりに、うぞうぞと這い出て来てくれた蛇たちの頭を紐でくくり、ずるずる引き摺って男たちのいる場所へ戻ると。

「フンフン」

わたくめは空腹が限界でありますと、狸擬きがジダジダ地団駄を踏みながら迎えてくれた。

「そうの」

何も食べていない。

約束した酒もお預けになりそうであるし。

「赤飯を炊くかの」

「フーン♪」

単純で助かる。

炊飯器がシュンシュンしている間も、残りの蛇をミミズクをフクロウを回収し、羽を毟る。

湯を沸かし、しばしの休憩。

夜は忍び、我等の狩りも解体も続く。


深夜。

灯りを落とした宿の小さな受付のある空間は当然静まり返っている。

ただ、初日にも受付てくれた宿の男が、受付の小さな灯りの中、本を広げながら待っていてくれた。

「遅くなりました」

男が恐縮するも、

「いえいえ、小さな街の祭りのために、こんな時間まで、有り難うございます」

皆さん、特に女性方が蛇に興味津々で驚きましたと宿の男。

(そうの)

腹を無様(ぶざま)にかっぴろげられる蛇の姿を、恍惚とした顔で眺めていた女たちも、珍しくない程度にはいた。

お疲れさまでしたと労られ、部屋に戻りしばし、順番に風呂で身体を流していると。

「受付の彼に、ご厚意でお茶とビスケットを差し入れて貰えたよ」

「おやの」

有り難く頂くことにする。

人と獣と半獣と化け物の、深夜のお茶会。

『なんだか楽しい』

「の」

「フーン」

「そうだな」

早く寝なくてはならないのに、この時間が妙に愛しく感じ、しばらく、皆でクスクスと笑い合っていた。

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