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26粒目

妖精たちに、しばらく我等と行動を共にするかと訊ねたけれど。

「あんたたちと一緒にいたい気持ちはあるけど」

「もしかしたら、仲間が追いかけてくる可能性もあるので……」

用心して、朝にはここから旅立つと。

夜は飛べぬのかと問えば。

「夜?私たちは夜は眠るわ、夜目は利かないもの」

羽が発光していてもか。

「羽根が光るだけで、先が見えないのです」

なるほど。

そして、人間たちがこの妖精を狩らないのは、森から出せばすぐに死んでしまうからと、知っているからなのだろう。

「傷はどうの?」

じわじわ回復しているように見える見た目は。

「回復が早いわ」

「朝には飛べそうです」

座り込んだまま羽根をパタパタ動かしている。

森の生き物たちとは、

「んー話せたり話せなかったり、色々」

「僕たちはあまり美味しくないみたいで、狙われることも少ないです」

我等の夕食の用意を興味津々で眺めていた2人は。

「あまーい♪」

「美味しいっ」

テーブルの上で、小皿に移したお汁粉を両手で掬っては美味しそうに飲んでいる。

「フーン♪」

美味しいですとご機嫌狸。

狼男は、

『腹に馴染んで美味しい』

腹にであるか。

刺激が少ないといいたのであろう。

汁物の代わりに甘いお汁粉にしたけれど、

「俺は甘いものでも大丈夫だ」

問題はなさそうである。

妖精2人は、普段は、素朴なものでなくても、わりと雑食であり、なんでもおいしく食べると。

夜はベッド脇の小さなテーブルにハンカチを敷いて横たわる2人の上に、狼男がもう1枚のハンカチをかけてやっている。

「守られてる感じね」

「安心感があります」

妖精たちに合わせて、夜更かしすることなく眠り。


朝。

髪を1本、先の方を切れば。

「色味は我慢するのの」

2人の左の足首に髪を一巻きし留める。

「別にこれくらい気にならないわ」

「あの、これは……?」

首を傾げる弟。

「お主等は人には見えぬけれどの、良からぬ有象無象はお主等に気づくであろうし、その有象無象からすれば、お主等はきっとご馳走に見えるのの。したらばその足に巻いた髪は、その幾多数多の有象無象からお主等を守るのの」

大概のものは避けていくののと、身体を起こせば。

「……ね、ねぇ」

姉のひきつった作り笑い。

「の?」

「そ、それって」

ふぬ。

「あんたを前にして、私が今生きてるのって、もう奇跡を越えた何かじゃないの?」

「フーン」

今更気づいたか、主様の寛大さに感謝しろと狸擬き。

スンと鼻を鳴らす狸擬きに、

「……ねぇ、この生き物なんなの?街には普通にいるの?」

姉は不思議そうに、少し不審気に狸擬きを見上げる。

「お山や森にいるはずなのだけれどの。こちらでは少々珍しい様子の」

「へー。あんたの住んでた場所には、いっぱいいたの?」

「いるはずの。でも大変に臆病での、我も別のお山で見かけただけの」

姉は、ふーんと唇を尖らせた後。

「ね、じゃあこの子の仲間を探しに行きましょ!」

弟を振り返る。

「えっ!?」

「いいじゃない、山や森だって、街から街へ移る時に通るんだし」

「見付けてどうするのさ?」

「この人たちに教えてあげるのよ、ここにいたよーって」

おやの。

「だって、それくらいしかお礼できないし?」

「ま、まぁ、そうだよね……」

しおっとなる弟。

礼であるか。

姉と違い弟の方は、恩義を無駄に重く受け止める性格でありそうであるしの。

「では、お主等の方が移動は遥かに早いであろうからの。お主等が見て回った世界の感想と、先の土地の情報を教えて欲しいの」

「感想と情報?」

「そうの。旅の話はとても貴重の。同じ場所へ行っても、感想は異なるものであるし、お主等は、我等の行けぬ場所にも、容易く飛んで行けるからの」

我の提案に、パッと顔を明るくした姉は、

「うんっ!分かった!期待してて!」

大きく頷き、弟も、少しは借りを返せると思ったのか、安堵した表情で頷いている。

部屋に飾られている花瓶から、花の葉を頂戴し、持ち込んだ糸と針で、ほんの小さな簡易な背負い鞄を作ってやれば。

「あら、案外器用なのね」

意外そうな顔で鞄を手に取られる。

「姉さんっ!」

「え?あ、これは褒めてるのよっ!」

褒めてるのか。

「次にお会い出来る時までには、姉の言葉遣いと礼儀をもう少し矯正しておくので」

弟は小さな身体を更に小さくするけれど。

「もう慣れたの」

我より遥かにちんまき者に、何を言われようが何も思わぬ。

2人は葉で作った鞄を背負うと、

「またね!そのうち、あんたの気配を探して会いに行くから!」

「僕達に命を授けてくれたこと、感謝してもしきれません」

ありがとうと手を振りながら、テラスからふわふわと空に飛び立って行く。

「またの」

「フーン」

長生きしろと狸擬き。

2人はすぐに小さな光になり、ふわりふわりと飛びながら消えて行く。

『綺麗だな……』

「の」

『色んな生き物がいるな』

「本当にの」

2人と入れ違いの様に、弾丸小鳥が飛んできた。

「おやの」

誰からかと思えば。

「ええと、彼女からだ」

男の、そう嬉しそうでもない口振りからして、黒子か。

『元気してるー?僕は元気だよ。君たちの仲間のタヌキ君を紙芝居に出演させてみたんだけど、絵に描いても派手さもなければ大きさも中途半端で、ウケはいまいちだったよ、残念』

「フーンッ!!」

出演料を寄越せとご立腹狸。

『僕は寒いところに来てるよ。寒さには強いんだ。娯楽も減るから、僕みたいなのでも歓迎される』

『懐の痛まない手紙はそんなに悪くないね、また送ってよ』

生きてはいるらしい、生存確認のためだけの短い手紙。

「の、の、あやつに蝶々の妖精に会ったと書くの、自慢するの」

男のシャツを引っ張れれば。

「そうしようか。あぁ、狼男と旅をしていることは書かなくていいのか?」

ちらと笑われ。

「のっ!?そうの、書くことが多いの」

当の狼男は、黒子の手紙を眺め、

『読めない……』

眉を寄せている。

「茶の国の文字であるからの」

男が手紙を書いている間、狼男に、

「こやつは、旅芸人であるの」

黒子のことを教えてやる。

稀代のろくでなしであり、ちゃらんぽらんな部分を除いて教えてやれば。

『とても夢のある仕事だな』

興味を持ったらしい。

「そうの」

仕事だけは、立派なのだけれどの。


食事は、黒子へ手紙を送りつつ外へ出ることにした。

春を追いかけるように土地を巡ってきたけれど。

すでにこちらは初夏の気候。

街角で小さな子供たちが踊りの練習?をしている。

「小さな子供たちも、祭りの主役なんだそうだよ」

卵に近いからと。

遠目に眺める狸擬きも、つられて小さくステップを踏んでいる。

改めて街に飾られる卵を見渡せど、禍々しいものは見えず。

郵便鳥の店は、乗り合い馬車に乗る距離で、乗り合い馬車にも卵の飾り。

小さな広場では、子供たちが卵に黄色い顔料で絵を描いている。

「旅人さんか、先の大きな広場の前に建つ、カフェへ行ってみるといいよ」

郵便鳥屋で勧められた。

「話のネタになるよ」

と。

勧められた茶屋は、黄色い顔料で塗られた卵料理が主な茶屋なのだと。

初夏のこの時期だけでなく、一年中卵の街にしたいと、街の方でも目論んでいるんだよと、若い店主が教えてくれる。

テーブルを覆う布にも、卵と鳥の刺繍がなされている。

メニューは。

「のの、見事に卵を使った甘味しかないの」

卵タルト、パンプティング、卵のババロア、カスタードが挟まったケーキなどなど。

長考し、卵タルトを頼むと、

「フーン」

わたくしめも主様と同じものと狸擬き。

『パン、プ……プデ?』

「プティングの、パンに甘い卵液が染み込み美味であると思うのの」

朝食代わりにもなりそうだ。

『では、これを食べてみたい』

運ばれてきた皿には、卵タルトが気前良く3つも皿に並んでいる。

「……ぬん♪」

卵が濃い。

タルトはサクサク甘さ控え目と仄かな塩っ気、やわこい中身はとろりと甘く。

(案配が良いの)

「フーン♪」

美味しいですとご機嫌な狸擬きは、

「フーン」

狼男の食べるパンプティングを、一口寄越せ、と鼻先を寄せている。

男は、卵珈琲なる、名前からすると何やら珍味に分類されそうなものを頼んでいたけれど。

出されたものは、もったりした黄色いクリームが乗せられた珈琲カップ。

下はブラック珈琲だと。

上にたんまり乗せられたクリームを、男に口に運ばれ舐めてみれば。

「ぬ?……ぬん♪」

卵黄と練乳を合わせて撹拌させたものだと。

「まったり美味で、汎用性が高そうの」

狸擬きに鼻先を寄せられながらも、何やら考えながらパンプティングを食べていた狼男は。

『隣の国の祭りでは』

顔を上げて我等を等分に眺めて来た。

ふぬ。

『異国の食べ物を売っている屋台も多かった』

そうの。

『あれも“仕事”』

「の、食べていくためのお仕事であるの」

屋台に興味を持ったかの?と問えば。

『あぁ。キミたちも旅人だけれど、キミたちは、ああやって稼ぐことはないのか?』

と。

ののん。

「ないの」

『それは、なぜだ?』

不思議そうに首を傾げられる。

なぜとな。

『キミたちの作る食事は、とても美味しい』

真顔で言うのだから、笑ってしまう。

他所様(よそさま)に振る舞う程、料理が好きでないのの」

男も同じだと。

『んんん、得意と仕事は、また別のものか?』

「のの、そこはそれぞれの。得意だからこそ仕事と割り切る者も珍しくないしの」

「接客もとてもサマになっていたように思うけどな」

男が煙草に火を点ければ、

『いや、俺は、冗談と言うものが、あまり通じないらしい』

狼男が苦笑いでかぶりを振る。

冗談が通じないと言えば、あの大柄な猟師を思い出す。

今は、どの辺りにいるのだろう。

茶屋を出て、帰りは乗り合い馬車ではなく、黄色い街を歩きながら食材を買い足しつつ、店先を眺めていると。

「あぁ、いたいた」

昨夜の金物屋が、宿へ行ったらもう街へ出たと聞いてなと、身軽に駆けてきた。

「ちょっといいか?頼み事をしたい」

頼み事とはっきり用件を告げてくれるのは有り難いけれど。

「内容を聞いてからで良ければ」

こちらは、慎重にならざるを得ない。

「勿論だ、組合の方で話したいんだ」

のの。

組合とな。

組合の言葉で、男が少し(ひる)んだのは確かで。

それでも、話は聞くと言ってしまった手前、金物屋に案内されつつ、両隣を食堂に挟まれた組合へ向かえば。

お祭りも近いせいか、旅人や行商人らしき客は、ほどほど。

奥にカウンター、壁には手紙とお知らせ、異国の臭い、ある意味、見知った空間。

他と違うのは、2階への階段の手摺に黄色いリボンが飾られ、カウンターにも黄色く塗られた卵たちが飾られている所。

「組合長」

金物屋の男がカウンターへ声を掛けると、

「あらあら、はいはい」

(おやの)

大層小柄な老婆が、鼻眼鏡を外して胸ポケットに仕舞いながら、カウンターから出てきた。

動きはおっとりでも、足におぼつきはない。

「まあまあようこそ。お呼びだてしてしまってごめんなさいね」

来てくださってありがとうございますと、ぺこりと頭を下げてくる。

差し出された右手は、小さく皺が多い。

男が手を差し出すと、ブンブン振ってから、

「ここでもいいんだけど、人数も多いし、お隣へ行きましょうか」

右隣は茶屋で左隣は食堂兼酒場だと。

「お子様にはミルクセーキがお勧めかしら」

ミルクセーキ。

先刻の茶屋でもメニューにあったけれど、どんなものであったかの。

「卵黄とミルクとお砂糖を混ぜたものよ」

ののん、栄養がありそうである。

「フーン」

わたくしめもそれがいいですと狸擬き。

『俺も、それがいいな』

「あらあら、甘党なのねぇ」

見た目からして麦酒のジョッキが似合いそうな姿であるしの。

鍛冶屋と男と組合長は珈琲を頼む。

「奥さんはお元気?」

「はい、重いものを持とうとしたりするから、ちょっと心配な時もありますが」

「あらあら、それは良くないわ」

小柄な組合長は、元冒険者の様な面影は見えず、指もペンダコがあるくらいか。

「えぇ、えぇ。私は冒険者なんて経歴は全くないのよ。ずっと組合で働いていたのだけれど、もうカウンターに立つ年でもなくてね、奥で事務仕事をしているの」

ふふふと控え目に笑う。

「他の国では、冒険者上がりが組合長になったりするのか?」

むしろ金物屋が驚いたように訊ねてきた。

「珍しくないですね、組合に訊ねてくる客も冒険者が多くなるので、事情も話も通じやすいんです」

「へぇ、なるほどなぁ」

運ばれてきたミルクセーキは、淡い卵色。

とろりとまろかや、卵と牛の乳が甘く絡み。

「ぬん♪」

初めて飲むのになぜか懐かしさを覚える味。

『うん、美味い』

「フーン♪」

素朴な甘さと狸擬き。

「好評な様で何よりだわ」

組合長は、砂糖だけを落とした珈琲を上品に啜ってから、

「お呼びだてした件なのだけれども」

改まった様子で、膝の上で手を重ねた。


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