22粒目
祭りは2日目。
街の一番大きな広場に、一番大きな曲芸団が来ていると聞き、行ってみようかとすでに人の多い街中を進んでいると。
「ひゃー!!嘘!会えた!本当に会えた!!」
「……おぉ……なんだ……まだ居たのか……」
「もーっダーリンってばそんな言い方ないでしょ!」
「……人前でダーリンはやめろと言ったろ……」
「ダーリンはダーリンだしっ!」
「……ま、まだ居たのか、は、なんだ、その、再会を喜んでるんだ……」
「私ならともかく他の人には解りにくいでしょ!」
我等は、村の靴屋の師匠と弟子と、早くも再会を果たした。
ダーリンの腕にしがみつき、人前ではやめろと渋い顔をする師匠に構わず頬を寄せる弟子は、
「ずっといたの?私たちはまだ来て数日なの!」
そうなのか。
「きゃー靴も履いてくれてる!やっぱり可愛い!」
「の」
着飾ることに興味はなくとも、この靴はお気に入りの1つである。
2人に茶に誘われ、祭りの通りからは外れた細い路地の茶屋を案内される。
少し道を外れたお陰で、ふと音のない空間が落ち着ける。
「私の仕事がまだ残っててね、ダーリンにも手伝って貰って、お店片付けて、村でみんなの前で結婚しますって宣言して、やっと出てきたの!」
村のみんなの前でとな。
苦虫毒虫どころか噛めば即死する毒茸でもかじらされた様な顔をしていたであろう、目の前の師匠の顔は、少し見てみたかった。
「両親にはね、もう挨拶したの!老けてた!!」
おかしそうに笑っているけれど、師匠が何も言わず、苦笑いで弟子の背中を軽く叩けば。
「……」
「うん、……ちょっと反省した」
笑った顔をくしゃりと歪め、
「……お店持てた時点で、一度帰るべきだったなってね……」
クスンと鼻を啜ったけれど。
「ダーリンがさっさと私を嫁に貰ってくれないのが理由の1つですけどねー?」
弟子が師匠の顔を覗き込めば。
「……それについては、お前のご両親の前でも、謝っただろうが……っ」
「えへ?そうだっけ?あ、来た来た、これ美味しいんですよ、食べて食べて」
「……ったく……」
仕方ねぇなと毒付く師匠の表情は柔かい。
目の前に置かれたのは、黒い土のような色のケーキ。
粉砂糖が掛けられ、雪のよう。
「ケシの実のケーキだそうだよ」
小麦粉よりもケシの実の分量が多いため、黒いと。
「ぬんぬん」
しっとりと甘く、温かい牛の乳と合う。
珈琲が好まれるため、やはり珈琲に合う甘味が多い。
「せっかくだし、お祭り満喫してから、出発しようかって話してて」
今は弟子の実家で世話になっていると。
今年は人が多いと聞きましたがと、我の口許を拭う男の問いに。
「多い多い!ちっちゃい頃と比べても何倍にもなってるよっ」
靴の見応えもあるけどねぇと、職業病は抜けない様子。
「雑な靴を履いてる奴が多い……」
ふんと不満そうな師匠。
けれど、
『師匠の靴は、多くの人間が履くべきだと思う』
狼男の率直な褒め言葉に、
「……お、おぉ……。あぁ……なんだ、そうだな……」
酷く照れ臭そうに喉の奥を鳴らして笑う。
「本当に再会できて良かったっ!」
「……また、……村の工房に、顔を出せばいい……」
茶屋の前で大きく手を振ってくれる2人に、我等も手を振り返す。
主に狸擬きが、昨夜の恨み言を伝えに、パンとウインナーがみちりと詰められた屋台飯を差し入れつつ、服屋の行商人の元へ向かえば。
「おぉ同士よ、来てくれると思ったぞ!」
すでに腹を押さえている。
行商人は、フンフンフンと何やら自分に対し怒る狸擬きに、
「???」
ウインナーに齧り付きながらも困惑していたけれど。
狼男が狸擬きを抱え上げると、
「そうだ、そちらの可憐なお嬢さんが着れくなった服を売ってくれないか?」
高く買い取るぞと提案されたけれど。
「荷を減らすためにギリギリの数しか持っていない」
と男。
「あーだよなぁ、旅人だもんなぁ」
荷積みの悩みは誰も同じ。
商売をしていれば尚更。
けれどそもそも、我の幼き頃の服などない。
人混みから見知らぬ若い女が、パタパタ駆けてくると、
「やっぱり昨日のワンピース欲しいんだけど、まだ残ってる?」
息を切らして行商人に声を掛ける。
「えぇ、えぇ勿論あります。お嬢様のために取り置きしておいたので」
調子よく答える行商人。
初日は様子見、とはこういうことか。
行商人は今日が本番。
我等は、
「フーン」
酒、酒とうるさい飲兵衛のために、昼から酒とツマミを出している立呑屋へ。
「♪」
ただ、狸擬きの足の短さでは、到底背の高いテーブルに届かないため、男が抱えてテーブルに座らせれば。
「フーン♪」
カパーッとご機嫌にワインを流し込む狸擬き。
「ワインもあるんだな」
「ワインは最近流行ってるんだ、ずっとビール1択だったけど、ワインは若い子に人気だよ」
おかわりとツマミのオリーブとチーズを運んで来てくれた店の若者が教えてくれる。
年寄りほど、ビールこそ酒だと、頑固らしい。
小さなテーブルを囲むのも、若い男女が多い。
男が礼を伝えれば、店の若者は笑顔で店の中へ戻って行く。
「フーン」
3杯も流し込めば、1軒目はこれくらいにしておいてあげましょうと狸擬き。
無駄に酒に強いため、足取りも軽やかに歩き出すけれど。
「フン?」
2軒目の酒屋を探す前に、
「フンフンッ」
的当てがありますと、まんまと子供向けの屋台に足を止められる狸。
「あれは正確には輪投げであるの」
丈夫な紐が丸く編まれ、地面に棒が立ち、下に模様が描かれている。
模様によって景品は違うらしい。
辺りを見渡せば。
「あれの、ここは子供向けの通りであるの」
安価な小さな装飾品の店や、小さな菓子が売られている屋台が並ぶ。
小さな子供や子連れが多い。
『楽しそうな店が多いな』
「フンフン」
数人の子供の後ろに早速並ぶ狸擬き。
一方、輪投げの隣の店に並ぶ、小さな木彫りの狼に夢中になるのは狼男。
熱心に眺めているため、
「その木彫りを買うかの?」
問えば。
『い、いや。無駄に荷台に荷を増やすわけにはいかない』
とキリリと答えるものの。
(尻尾は大きく揺れているの)
それに気づいた男が、
「それくらいなら大丈夫だ」
出来もいいし、買う価値は高いと後押しし。
大変にいい笑みを浮かべ、箱に仕舞われた木彫りを大事そうに肩に引っ掛けている鞄に仕舞う。
絵描きもいれば、村の雑貨屋のおばばの様に、ガラクタにしか見えないものを売っている商人も端にいる。
「あれは主に馬車のパーツだ」
ほう。
狸擬きは、首から下げた革の小物入れからコインを出しては、今度こそ的当ての屋台で、盛大に外している。
「君は、見たいものや遊びたいものはないのか?」
我を抱っこする男に問われるけれど。
「あまりないの」
そもそも我の欲求は、小豆洗いのみである。
それでも男が少し気遣う様に、我の興味を惹きそうなものはないかと、長考を始めたため。
「そうの、では、橋へ行きたいの」
幅深く大きく、小豆を研げるような川ではないけれど、まだ、馬車で1つの橋を渡り、それっきりであった。
橋は、特になにもなくとも、賑わい、真ん中の橋は特に人が多い。
「隣の国まで続いてる川だそうだよ」
ほう。
『建物にも驚くけれど、本来ならばここまでと足を止められる川に、橋を架けて先へ進められる技術は本当に凄い』
狼男は橋が好きらしい。
一方で、
「フーン」
酒、と橋などどうでもよさげな狸擬き。
薬屋は、また繁盛している反面、席を外せないだろうと、街中へ戻りつつ差し入れの甘味を選びつつ、薬屋まで向かえば。
「やぁん、可愛いぃ!」
苺柄のワンピースを褒めてくれるのは助手。
「可愛い可愛い!似合いすぎ、赤い瞳とよーく合う!」
「えー……あらぁ、あらあらあらぁ?」
いいわねぇ、素敵ねぇ、とっても似合ってると、世辞でもなさそうに、買った店を問われ。
「あ!あのお店でしょ?初めは、高っか!って思ってたんだけど、遅効性の毒みたいに、じわじわ~って、やっぱりあれ良かったなぁって思うのよね」
先生、後で行ってみよと助手。
「えー……そうねぇ、売り上げもいいし、後で行ってみようかしら」
艶かしく唇に人差し指を当てる店主。
だけれども。
あやつは商売熱心でもなく、夕刻には閉めてしまう。
ならば、
「お主等は、少しばかり休憩がてら店へ向かえばよいの」
我と狸擬きは奥の店内に、店番は男2人にさせればいい。
昨日とは売り物も少し違う。
女の客も呼べるであろう。
男も構わないと、2人に伝えると、
「いいのっ?」
「えー……お願いしようかしら?」
エプロンを外し、ウキウキと人混みに消えて行く2人を見送り、我と狸擬きは店内へ。
たった1日来ていないだけで、少しの懐かしさを感じる。
(ふぬ)
勝手にするのはどうかと思うけれど、いちいち店主に説明するのも面倒臭い。
我は奥の部屋から背の高い椅子を持ち出すと、狸擬きを椅子の上に立たせ、我は狸擬きの背中に2本足でつま先立ち。
壁に作り付けの灯り台の根元に、
「ぬん」
頭から1本引き抜き、唇を滑らせ湿らせた髪を巻き付けた。
色が濃茶のため、見上げる程度では無論、目を凝らしてもそう簡単に気づかれない程度には同化している。
「これで大丈夫かの」
「フーン」
問題ありませんと狸擬き。
これでしばらくの間、
“店主が昼に目が覚めた時”
のみの不運は避けられる。
椅子を片付け、狸擬きと会計机の椅子に座り、ぼんやりしていると。
「あ、あの、助手さんは……?」
外から聞こえてくる声は、
(あれの、この声はガラス屋の倅であるの)
男が、彼女は席を外していると答え、ガラス屋の倅が、ガッカリ肩を落としている様子。
(何とも、諦めが悪い)
ではなく。
そもそも袖にされている事に気づいていないのだから仕方ない。
それでも。
「百折不撓であるの」
「フーン」
縁やタイミング、引きも大事な要素ですと狸擬き。
「そうの」
「フゥン」
ただあの若造にはどれもない様ですがと従獣。
「手厳しいの」
そもそも、あの助手は、どちらかと言うと女子が好きなのだ。
思ったより長い留守番になりそうな気配に、店の掃除をしていると。
「ごめんねー!つい夢中になっちゃって!」
「えー……もうお陰でたくさん買えたわぁ♪」
掃除も終わる頃に2人が帰ってきた。
「うわっ、売れてる」
「えー……あらぁ、凄いわ」
「あ、チビちゃんも退屈だったでしょ、ごめんね」
平気のとかぶりを振れば。
「あーいい子、うちの子にしたーい!」
男が作り笑顔で我を抱き上げ、
「じゃあ、俺たちはこれで」
とスタスタ薬屋から撤収を試み。
「なっ!ちょっと待ってよ!」
「えー……もぉ、助手ちゃんが余計なこと言うからぁ」
「余計じゃない、本気!」
男の歩く速度が早まる。
「えー……!あ、待って待ってっ」
2人に、お礼にと食事に誘われた。
昨夜の二の舞は御免だと構えたけれど、連れて行かれたのは、女性が好みそうな、テーブルにはきちんと白いクロスの掛けられた店であり。
「お疲れ様、カンパーイ♪」
「えー……かんぱぁい♪」
「フーン♪」
ワインとジュースで乾杯。
明日のお祭り3日目の薬屋は。
「えー……お店でねぇ、行商人さんたちと取引の日なのよ」
もう屋台は出さず、このお祭りの時だけに訪れる行商人たちと交渉なのだと。
「いつも先生の独り勝ちだけどね」
「えー……そんな事はないとは、うぅん言い切れないわね」
言い切れないのか。
本人が言うのだからそうなのだろう。
大きく賑やかな街の一等地に、狭くとも店を持てるはずである。
そこには某の縁も、含まれていそうだけれど。
「卵のお祭りの?」
「そうそ、卵祭り」
目にしたことはないけれど、イースターとやらに似た祭典であろうか。
季節も春ではなくずれているけれど。
3日目は昼。
「あんたたちが向かう国とは反対になる隣の国だけどな、そろそろだよ」
と差し入れの、今日は余り物を挟んだだけのサンドイッチを、
「おっ!?うまいっ!!」
とがっつきながら教えてくれた。
多くの行商人は、この国から引き返し、今度は卵のお祭り先で仕事をするらしい。
「俺も今まではそうしてたんだけど、今年はちょっと先まで行ってみようかなって思ってるんだ」
気楽な一人身だしなとは言うけれど。
(ぬぬん?)
“勘”と言うものは、一体どこが、やはり五感と言うものが反応してのものなのか。
服屋の行商人の、言葉尻がほんの微かに高くなり、そうとは分からぬ位に指先が跳ねている。
さては。
「……お主。お隣の国で、何かやらかして来たのの?」
男を介して問うて見れば、あからさまに飛び上がり、
「……い、いや?別に……なにも、う、うん」
目をあらぬ方に向け、不自然に歯を見せて笑う。
しかし我のジト目に、
「侮れないねぇ小さなお嬢さん」
となぜか開き直った顔で、
「去年だよ、俺はどうやら酒の勢いで、顔も覚えていないお嬢さんに、次に来た時に結婚するだのなんだの言ったらしくてなぁ。これがまた全く、言ったこともやったことも1つも身に覚えがなくて……」
ののぅ。
どんなに飲んでも記憶だけは残すあの黒子より酷いの。
いや、あれは記憶があっても忘れたふりをするのだから、より悪質であるか。
「それで逃げてそれっきりと」
「あぁ、ほとぼり冷めるまで、……じゃなくて」
なくて。
「行商人は、いつでも新しい土地を求めてるんだよ」
ののん。
自身でほとぼりと口にしているではないか。
フーンとどうでもよさげな狸擬きに、歩く純真無垢である狼男は、口を挟まずとも、
「それはあまり良くない事なのではないか?」
とおろおろしている。
そしてまっさらな他人事であるため、ニコニコして我の通訳に徹するだけの男。
「先の国はどうだ?」
と聞かれ、こちらよりだいぶのどかであり、人も温厚。
手前の街などは魚が多いと男が答えている。
「魚かぁ、いいツマミもありそうだなぁ」
更に先の街は細やかな刺繍の生地が多く売られ名産品でもあるらしいの言葉に、
「ちょっと行ってみる」
行商人が決めたと大きく頷くため。
「の」
「うん?」
「少しの山沿いを抜けた先の、街の手前の村に医者の娘がいるのの。身体が少々不自由しているから、土産話でもしてやるの」
そう伝えれば。
「お?」
医者の単語で、耳敏く金の匂いを嗅ぎ取ったのか、ぐいと身体を乗り出してくる。
「勉強熱心でもあるから、旅の話をしてやるだけでもきっと喜ぶのの」
「おぉ。必ず訊ねてみる」
ふぬ。
わざわざ暇潰しを送り込んでやるとは、我も大概に人が良い。
滅法人のよい男に似てきたのであろうか。
なぜか半眼で我を見てくる狸擬きの視線は無視する。
行商人からも先の話を聞き。
後で、
「君は、とても優しいな」
男からは褒められた。
「ふぬー♪」
何か言いたげな狼男に、プスーと鼻を鳴らす狸擬き。
男が、出発の前に厩舎の馬の様子を見てくるから先にと、途中で男を置いて宿に戻ると。
『服を売る彼に紹介した人間は、キミが“あまり良くない人間”と言っていた者だろう?』
狼男に問われた。
「そうの」
『俺には、近付くなと言っていた』
少しの焦りすら見せる狼男。
あの行商人が、心配なのであろう。
けれども。
「以前も伝えたけれど、この世界、白黒だけではないのの。お主には毒でも、薬になる場合もある」
『薬……?』
「ものの例えであるの。少なくともあの行商人は、あの娘に易々と呑まれるような馬鹿ではないの」
狼男は、パチパチと瞬きし、
『……俺は、馬鹿なのか?』
いや確かに賢い自覚はないがと自答され、堪らずに笑ってしまうけれど。
「のん、言葉が悪かったの。お主は馬鹿ではないの。ただの経験の差であるの。あの行商人はずっと1人で長旅を続け、色々な人間と出会っておる、だから、多少の勘が働くし、あやつは、引き際と言うものを知っておるの」
『引き際……』
小首を傾げる狼男。
『いいのですか?』
狸擬きが口を開いた。
「の?」
『あの無責任な行商人の口から、わたくしたちの事が話題に上がります』
ふぬ。
だから何である。
寧ろ。
「何が問題である」
この世界。
「あの小娘に、手足が片方ずつ不自由した人間に、一体何が出来ると言う?
あやつは文字通り、
“何も出来ない”
のであるの」
『行商人に何か漏らすかもしれません』
「まこと不自由な身体を持つ気の毒な娘が、
”自分は一風変わった旅人の子供に、陥られたのです”
とでも訴えるかの。
いや、違うの。
“偽物を掴まされた”
のであったかの?」
取り繕えもしない、あやつの、本性。
「それを聞いたあの行商人は、どう思う?
きっと、
“ああ可哀想に、身体の不自由さで頭までおかしくなってしまっている”
と思うのが関の山の」
『……』
だんまり狸。
「だからこそ、深き慈悲の心を持つ我が、あやつのほんの少しの心の慰めにでもなればと、遠い国からの行商人を、わざわざ送り込んでやるのの」
胸に手を当てて見せれば。
フンスと大きく鼻を鳴らす狸擬きに、
『主様は、なぜあのお人好しの人間の男、更には、この非常に、赤子のごとく無垢な半獣半人を側に置きながら、底意地の悪さが底無し沼のごときにお深くあられるのですか』
そう問われても。
そんなの。
「お主に似たのであろうの」
それしかない。
今度は深く頷いて見せれば、
『従獣が主に似ることはあっても、従獣に主が似ることはありませんっ!』
フーンッ!
と毛を膨らませての憤慨狸。
太い尻尾まで立てている。
「なんの、主が従獣に似ることだってあるであろうの」
『この場合に限りは食べかす程にもありませんっ!』
ジタジダ地団駄踏み狸。
膨らんだかと思えば地団駄を踏んだりと、我の従獣は忙しいの。
『い、一体、君たちと、その人間の間に、何があったんだ……?』
狼男には、青ざめながら問われたけれど。
「くふふ。……それは、また今度の」
狼男には、もっとこの世界の、とかく綺麗で優しく、楽しい世界を見せたい。
それからのちに、ちょっとした刺激として話すくらいが丁度いい。
たまにはおかしな人間もいると、狼男の旅立ちの時にでも、話してやればいい。
「ただいま」
「の、おかえりの」
厩舎から戻ってきた男に駆け寄り飛び付けば、
「おっとぉ?」
男は大袈裟に仰け反りながら我を抱き留める。
「くふふのふ」
無論。
そのいつかの狼男には、
「我の男には話すなの」
と、強めの口止めは、必要だけれども。




