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収監者

12 収監者




 エリリカが、昨夜の件で自首した。

 私だって殴り返したのだから、咎める気などない。

 刑死を望んでいると言う。

 何を考えているのか・・・


「バンモ、エリリカをここへ」


 私は、平静を保つよう努力していた。

 でも・・・取り乱しそうだ。


「今は、牢に収監中です。できません」


 バンモは、ぼそぼそと言った。


「連れてこいと言っている!」


 私の平静を保つと言う努力は、水泡に帰した。


「すでに、城内の者、皆の知るところです。安易なことをなさいますな」


 バンモが、冷たく言った。

 何が安易なのか?

 私は、王女だ。王の代理だ。


「何を言っている? まさか、死刑にするつもりなのか?」


 私は、少し笑った。

 目の前の老人を馬鹿にしているのだ。

 足し算や引き算のように、子供でもわかる簡単なことだろう。

 親しい者を、見す見す死なせるなんて、ありえないだろう!


「王家の者を、攻撃したのであれば、それは反逆です」


「攻撃などされていない! ただの喧嘩だ」


「エリリカは、そうは申しておりません」


「私が言っているだろうが!」


 このぼけ老人!

 話が通じない!

 私の握りしめる拳に力が入る。

 いっそ、切り捨ててしまおうか・・・


「姫様、何事も法の下に管理されているのです。姫様が事実を曲げてこの件を無かったことにしたら、この国で法を守るものがいなくなります」


「知った事か! 大事な者を守れなくて、何が法だ!」


「王が! 王家が軽んじられるのですぞ!」


 突然のバンモの剣幕に、私は怯みたじろいだ。


「ま、まってくれ・・・バンモ、少しゆっくり話そう」


 もう私の頭の中はパンク寸前だ。

 どうすればいいのだ。

 誰か、助けてよ。

 私は、目の前の老人の存在に気づく。


「バンモ、助けてくれ――どうしたらいい?」


 私は、バンモの手を取って懇願した。


「わかるだろう? 失うわけにはいかないのだ」


 私は、バンモのシワシワで堅い手に額をつける。

 一瞬、部屋が静かになった。

 その所為か、私は外の喧騒に気づいた。

 どうやらバンモも気づいたようで・・・


「騒がしいですな。姫様、少々お待ちください」


 バンモは、そう言って部屋の扉を開けた。

 通りかかった者に、声をかけている。


「何だと!」


 バンモの悲鳴のような声がした。

 しばらくして戻ってきたバンモの顔は、蒼白だった。

 何かが起きたことは明白だ。


 私は、再び不安になる。

 怖い・・・

 今度は、なに?

 何が起きたの?


「どうした?」


 バンモが、なかなか切り出さないので、私は訊ねた。

 バンモは、私の目をじっと見つめる。

 怖いよ――


「落ち着いて聞いてください、姫様――」


 そんな前置き、もっと怖くなる。


「アルカナンサスが、逃亡いたしました」


 バンモは静かに言う。

 私は、ほっとして力が抜けてしまった。

 その場に座り込んで、項垂れた。


「姫様、お気を確かに――」


 バンモは、私の手を取り立たせようとする。

 私は、それを辞して呼吸を整えた。

 バンモは、私がショックを受けたと思っているようだが、逆だった。


 私は、安堵した。

 エリリカに関することかと思って、心配した。

 彼女が無事なら、他は細事だ。


 この国を預かるものとしては、失格なのだろうが・・・

 しかし、これは好機だ。

 きっと、うまくやれる。

 私は、立ち上がるとバンモに命じる。


「バンモ、何が起きた! 説明しろ!」


 私は、毅然と言ってみる。


「ハッ、アルカナンサスが、今朝方勇者殿に連れられて、脱走した模様です」


 何だと!

 あのクズが!

 よくやってくれた。

 私は、初めて勇者に感謝した。

 もちろん顔には出せない。


「あのクズめぇ~」


 ちょっと恨めしく言ってみる。


「なぜ、勇者がアルカナンサスを?」


「わかりません・・・ですが、正装をまとい、聖剣を携え牢にやってきたそうです」


 老人は、常に思案顔だ。

 国政を担ってきたこの老人は、頭をフル回転させて現状を解析しているのだろう。


「続けろ」


 私は、熟考で口の止まった老人に先を促した。


「死刑執行のためアルカナンサスを連れて行くと、看守に申したそうです」


「なぜ、それで牢を開けたのだ?」


 私は、何も命じていない。

 バンモですら、私の許可なしで牢を開けることなどできないのだ。


「勇者殿は、姫様の命令と申したそうで・・・勇者殿の態度があまりに仰々しく、看守も信じてしまったようです」


 たぶんそこまでの子細は、報告されてはいまい。

 この老人が、少ない情報を頭の中で解析して言っているのだろう。


「もしかしたら、看守を信じ込ませるやり取りが、2,3あったかも知れませんが、それは調査しませんと――」


 お前の頭の中の説明は、もういい。

 どうせ私にはわからない。


「もう捜索には出ているな?」


 訊いてもしょうがないことで、バンモもあやふやにしか答えられない。


「バンモ、情報を集めてくれ。私は執務室にいる」


 私は、部屋を出て執務室に向かった。

 バンモほどではないだろうが、私も頭の中をフル回転させた。

 これは好機だ!

 絶対にやる!




 

 私は、王の趣味の部屋でもある執務室で、過去の判例など法規に関する書物を読みあさった。

 いつもなら、数ページめくっただけで眠くなるのに、目がどんどん情報を探していく。

 こんなことができるとは、自分でも驚きだ。

 部屋の扉がノックされた。


「入れ!」


 今忙しいのに~

 私は、不機嫌だ。

 イライラする。


「失礼します。姫様、サラ・サーラ将軍がお目通りを請うておりますが・・・」


 バンモだった。

 変によそよそしい。

 何か後ろめたいことでもあるのか?


「かまわん。入れ」


 もう~、いちいち断らなくていいから、勝手に入って勝手に報告して!

 そう言いたくなるのを、我慢する。


「姫様、此度の件、すべて私の不徳の致すところ、誠に申し訳ございません。いかなる処罰でもお受けいたします」


 そう口を開いたサラ将軍は、床に両膝をついて項垂れていた。 

 彼女の顔の下にある石床には、小さな黒いしみができている。

 ああ、そうかぁ。


 城の警備は、サラ将軍の管轄だ。

 責任を感じているのだろう。

 気にしてないけどなぁ、どうしよう。


 私は、バンモに意見を聞きたくて、老人に目を向ける。

 バンモは、難しい顔をしてサラ将軍を見下ろしていた。

 難しいのかぁ。


「サラ将軍! 貴女の処遇については、追って知らす。今は、捜索に心血を注げ」


 私は、毅然と言い放った。

 ちらりとバンモを見る。

 小さく口を開けて、感嘆の声をあげていた。

 よし、良いぞ、私!

 サラ将軍は、意を決した顔つきで、部屋から飛び出して行った。


「バンモ、何かあるか?」


 私は、バンモが集めている情報について訊ねた。

 正直、どうでもよかったが・・・


「ハッ、これと言ってはないのですが・・・強いて言えば、勇者殿は牢を訪れた際、頭髪を油で整えていたようで――」


「もう下がれ」


 時間の無駄だ。

 バンモも、すごすごと去って行った。

 少なからず、要職にあるバンモも責任を感じているようだ。

 さて・・・一人になるとどっと疲れが押し寄せてきた。


 私は、机の上に両肘をついて握った拳に額を預ける。

 頭が痛い。

 色々なことが、いっぺんに起こりすぎだ。


 私は、机の隅に追いやられていた書きかけの手紙に目を落とす。

 2歳下の妹である第二王女リリノに宛てだ。

 彼女は、リザードとの戦争が始まってから、母方の親類に預けている。


 疎開させているのだが、王位継承の妨げにならないよう私が遠ざけたと邪推する者もいる。

 そんなことはどうでも良いのだが、こうなってしまうと傍にいてほしかったと痛烈に感じた。

 今は、エリリカだ。

 彼女を何とかしなければ・・・





 執務室を出ると、城内の慌ただしさに事の重大さを感じる。

 あいつも、大胆なことをするものだ。

 目的はわからないが、多くの犠牲を払って得た数少ない成果なのに・・・


 そう考えると、若干憎らしくも思えてきた。

 私は、兵士たちの目に留まらぬよう隅を移動して、地下牢に向かう。

 地下牢に続く階段の前に、一人の兵士が立っていた。

 さて、どう交わすかと、迷っている暇はない。


「姫様、どうされました?」


 兵士は、挙手の敬礼をして訊ねる。


「状況を確認に来た」


 私は、兵士に目もくれずに言う。

 ワザとだ。


「いや・・・しかし――」


 口ごもる兵士に、私は初めて目を向ける。

 力強く睨みつけ、非難がましく言うのだ。


「逃がした敵将の牢を見る」


 若い兵士は項垂れて、申し訳なさそうに先導した。

 地下へと降りる薄暗い螺旋階段を降りていくと、細い通路にたどり着く。

 通路の先には鉄格子の扉があり、その前に牢番の兵士が粗末な机で書き物をしていた。

 兵士は私に気づくと、慌てて立ち上がり敬礼をする。


「ひ、姫様! このような所に――」


 来てはいけないと言いたいのだろうが、私はそれを制して門の開錠を指示した。

 渋る兵士に再度言う。


「開けろ!」


 兵士は、私を先導した兵士と目配せをして、渋々鍵束を取り出した。


「姫様、この事はサラ将軍やバンモ様にはご内密に――」


 背後の兵士が、小声で懇願する。

 サラ将軍の耳にでも入れば、厳しく叱責されるのだろう。

 私は、答えない。


 鉄格子の扉が解放されると、私は奥に向かって駆け出した。

 待ちきれなかった。

 急く気持ちが、押さえられない。


「姫様! こちらです。アルカナンサスの――」


 背後で兵士が、私を呼び止める。

 アルカナンサスの入れられていた牢を、通り過ぎた私を訝しく思ったのだろう。

 これも、無視する。


「エリリカ! どこだ!」


 私は、左右の牢を交互に見ながら叫んだ。

 丁度、左手の牢に人影を見つけた。


「姫様!」


 エリリカだ!

 私は、牢の鉄格子に縋り付いて薄暗い牢の中に彼女の姿を求めた。


「エリリカ! 無事か? 酷いことされてないか――」


 闇の中から現れたエリリカの姿を見て、私はその場にうずくまった。

 エリリカの姿を見たら、急に力が抜けてしまった。


「姫様! このような所に来てはいけません!」


 一瞬笑顔を見せたエリリカであったが、すぐに真顔になって私を叱責する。


「貴方! 何をしているのです! 姫様をお通しして良い場所ではありません」


 エリリカの叱責は、ついてきた兵士にも向けられた。


「そ、それは・・・そうなのですが・・・」


 若い兵士は、困って狼狽えるばかりだ。


「エリリカ、すまなかった。今すぐ出してやる」


 私は、傍にいる兵士にすぐに開けろと迫った。


「なりません!」


 エリリカの剣幕に、若い兵士は鍵束を落とす。


「貴方! これ以上の失態を犯してはいけません。姫様を早くここから連れ出しなさい」


 エリリカは、鍵を拾う兵士に諭すように告げた。

 言われた兵士は、何かを思い出したような顔つきになって、鍵束を腰のベルトに納める。


「エリリカ! お前は何もしていない!」


 私は、鉄格子につかまり立って怖い顔のエリリカに呼びかけた。


「早くなさい!」


 エリリカは、兵士を急かすと背を向けてしまう。

 私は、兵士に羽交い絞めにされ鉄格子から引き離されてしまった。


「貴様! 何をする!」


 私は、私に触れる兵士を叱った。

 しかし、その拘束は解かれない。

 何故、私の言うことを聞かない!


「放せと言っているだろう!」


 私は、叫んで暴れた。

 騒ぎを聞きつけた兵士が、奥から駆けつけて加勢する。 


「エリリカ――」 







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