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光の住人  作者: 海堂莉子
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第81話

「説明してよね、お姉ちゃん」

 腕を組んで、私を見据える璃里衣は少々不機嫌そうだ。

「あの、璃里衣? なんか怒ってらっしゃる?」

「怒ってないって言ったら嘘になるかもね」

 璃里衣の言葉がいちいち刺々しいのは、気のせいではないはずだ。

「なんで?」

「なんで? なんでって聞くんだ。お姉ちゃんは、私がどんな思いで見ていたか分かる?」

 ごめん。どうしてそんなに怒ってんのか分かんないや。

 璃里衣は、大きく息を吐いた。

「どんなに私がお姉ちゃんのこと心配していたかなんて分かんないよね? 私がどんな思いでお姉ちゃんの帰りを待っていたか、どんな思いでお姉ちゃん達がやってること見ていたか、お姉ちゃんに分かりっこないっ」

 璃里衣は、大きな声を上げて泣き出した。まるで小さな子供のように。

 目の前で起こっている出来事が私には理解できなかった。

 涙は私の専売特許だったのだ。私の記憶の中で、こんな風に大きな声を上げて璃里衣が泣いている姿は見当たらない。前回、私が日本を発った時に涙を流してはいたが、こんな激しいものではなかった。

 璃里衣が泣いている……。

 そして、泣かせたのはこの私なんだ。

「ふっふっふぇ。お姉ちゃんがぁ。どんどん遠くに行っちゃうよぉ」

 私は、璃里衣を抱き締めた。

 もう璃里衣は私の背を追い越してしまった。

 腕の中に納まり切らなくなってしまった妹に、淋しさが込み上げてくる。

「璃里衣。私は、そんなに遠くに行ったなんて思ってないよ? 確かに物理的には、遠くに住んでるかもしれないけど、いつも璃里衣のこと忘れてないよ?」

「でも、お姉ちゃんは私の知らないところに住んで、私の知らない力が使えるようになって。私の知らない人みたいで……悔しいっ。知らないことがどんどん増えてく。私が一番お姉ちゃんのこと知ってると思ってたのに」

 そんな風に思ってくれていたんだ。

 私がお姉ちゃん離れした璃里衣を見て、淋しい思いをしていたように、璃里衣も今までとは違う私に淋しさを感じていたのかもしれない。

「じゃあ、璃里衣もカリビアナ王国に行く? 今、夏休みなんでしょ? 私がこれから生きていく世界を璃里衣にも見てもらいたい。知ってもらいたい。アレック、いいよね?」

 私達の少し後方で大人しく傍観しているアレックに問いかけた?

 リューキは不機嫌な表情を浮かべながらも、大人しくアレックの腕の中にいた。

「いいんじゃないか?」

『ボク、璃里衣好き。一緒に遊べるの嬉しい』

 リューキは前回の時に璃里衣に沢山遊んでもらったことが、よほど嬉しかったのか、よく懐いている。

「アレックもリューキも賛成だって。璃里衣はどう? 行きたい? 行きたくない?」

 璃里衣は素早く目を擦って涙を拭うと顔を上げて叫んだ。

「行くっ。お父さんとお母さんが反対したって絶対行くからっ」

 一気に涙は引っ込んでしまったようだ。

「よし。じゃあさっさと帰ろう。お父さんとお母さん説得しなきゃならないしね。あ、お父さん達には私が大事な物を公園に落して探してたってことにしよう」

「なぜだ?」

「余計な心配させたくないからさ」

 それに、今日あったことをどう話せばいいっていうんだ。

 こんな話をしたところで信じられるとは到底思えない。

「うん。その方がいいと私も思う。こんなの目の前で見ていたって信じられない」

「璃里衣には全部見えたの?」

 私やリューキ、お母さんから力を貰ったアレックなら見ることは出来るけれど、普通は見えないはず。

「全部? 突然公園が戻って来たことでしょ? そう言えばその後、二人何かしてたよね」

 ブラックホールもニョロリと出てきた公園も、私が持っていた針も璃里衣には見えていなかったようだ。

 私は、家に戻るまでの道すがら、これまでの経緯を簡単に説明した。

「そっか。そんな大変なことになってたんだね」

 璃里衣に全てのものが見えていなくて良かったと、私は思っている。きっと璃里衣は、私が大変な事態に巻き込まれているのを目にしたら、どんな危険でも首を突っ込んでしまうから。

 出来ることなら璃里衣には、危険なことに首を突っ込んでは欲しくない。


 日本の両親とシアは、リビングのソファに並んで座り、テレビを見ているようだったが、私達が再び戻ったことを心配して、テレビの内容など何一つ頭に入っていないようだった。

「あ、このお笑い芸人まだ人気あるんだ? 直ぐに人気なくなっちゃいそうだったのにね」

 私の言葉に首を傾げていたのがその証拠と言えよう。

 私は、心配して待っていてくれた三人に先ほど考えた、再び戻って来たわけを話した。

 三人は私の言葉に疑うこともなく、捜し物は見つかったのか、と聞いた。良心が疼いたが、余計な心配をさせるよりはいいのだと、自分に言い聞かせた。

「それでね。璃里衣をカリビアナ王国に招待したいんだけど、いいかな? 夏休みだし、いい機会かなと思ってるんだけど……」

 親としては、全く知らない大地へ娘を向かわせるのには抵抗があるだろうと思っていた。

「あら、いいんじゃない?」

 返ってきた言葉は意外にも簡単なものだった。

「え? いいの?」

「マリィがいるなら安心だろう。それとも、何か危険なところなのか?」

 結局日本の面々は私のことをマリィと呼び、真里衣のことをシアと呼ぶようになっていた。シアの方でもそれに不満はないようなので、それに落ち着いていた。

「危険は全然ないよ。平和な国だから」

 これから向かうのは、アレックのご両親の家だから、王城よりもさらに平和だろう。ただ、若干危険な人物が、一名いるくらいだ。それでも、あの変態さ加減もスルーしておけば害はない。犯罪行為を犯すほどには、狂っていないはず……。

「じゃあ、行ってくるといい。璃里衣が気の済むまで向こうにいても構わないが、新学期に間に合うように帰ってくるんだ。夏休みの宿題のことも考えておくんだぞ。シアも行くかい?」

 最後の言葉だけ、シアに向けられた。

 シアは、すぐに首を横に振った。

「初めて過ごす日本の夏だから……」

 シアの表情が、初めて会った時よりも明るくなっていた。やはり、シアには日本の方が合っていたのかもしれない。私が、カリビアナ王国ではのびのびと過ごせるのと同じように。

「じゃあ、私、お姉ちゃんと一緒に行くね。宿題はあっちに持っていってちゃんとやるから。お姉ちゃん、用意してくるから待ってて」

 別にそこまで急がなくてもいいのに、璃里衣はスッと姿を消すと、ダダダッと階段をかけ上っていった。

 璃里衣が戻るまで、お母さんが出してくれたお茶を飲んでゆっくりしようと腰を下ろした。

「お姉ちゃんっ。用意出来たよ、行こう」

 上に向かった時と同じように、ダダダッと騒々しい音を立てて戻って来た。

「早っ」

 まだお茶に手さえ付けていなかった。せっかく出してくれたお茶くらい飲ませて、と出発を急かす璃里衣をなんとか宥めすかした。

 カリビアナ王国に行けることが相当嬉しかったようだ。私達がお茶を飲んで雑談をする間もソワソワと落ち着きなく、私達の周りをうろちょろと歩き回っていた。

「んじゃ、行きますか」

 立ち上がると、おやつをむさぼっていたリューキが私の腕に飛んできた。

「ねぇ、リューキ。一人増えるけど、問題ないかな?」

 こっそりリューキに耳打ちする。

『問題ない。マリィの力、とても強い。もっとたくさんの人一度に運べる』

 私には自覚がないが、リューキがそういうならそうなんだろう。

「よし、行くよ。璃里衣も私に掴まって」

 目標はアレックのご両親の家、エレーナと出会った川辺。

 いざ、カリビアナ王国へ。


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