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光の住人  作者: 海堂莉子
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第27話

「あぁぁぁっ」

 無礼を承知で、シルビアの隣ですました顔をしている人物を指差した。

「あら、マリィ。ギルドを知っていましたの?」

 シルビアが大きな瞳をさらに大きく見開いて、そう言った。

「姉上。先程偶然、廊下でお会いしたんですよ」

 言葉はシルビアに向けたものであるのに、微笑みを含んだ瞳は私に向けられていた。

「おお、そうだったのか。改めて紹介しよう。私の最愛の妻の弟君、ギルドだ。ギルドは色んな国を飛び回っている。暫くこの国に滞在する予定でいる」

 ルドルフが国王の顔をして、ギルドを紹介する。

 国を飛び回っているって、要するに放浪癖があるってことなんじゃないですか?

 そう思ったが、この場で指摘は出来ないだろう。

「よろしく。マリィ殿。あなたのことは姉上からいやというほど聞いています」

 爽やかな笑顔を惜し気もなく向けられ、私も笑顔で応えた。

 シルビアが私をどんな風に伝えたのかは気になるところであったが、ギルドが私に向ける表情が親交的であったので、変なことは言われていないようだと解釈しよう。

 アレックとも友好的な挨拶を交わすと、和やかな夕食の時間が始まった。

「ギルドはマリィとどんな話をしたのかしら?」

「えぇ、マリィ殿が亀を見ていたんですよ」

「そうなのっ、シルビア聞いてよ。池の真ん中にある岩の上に亀がちょこんといて、何かを懸命に見ているようだったの。亀の視線の先には、一羽の鳥が枝に止まっていて、ギルドさんと亀は鳥に恋をしてるんじゃないかって話していたら、その鳥が飛び立ったかと思うと、その亀の甲羅に降り立ったんだ。あれは、絶対両想いなんだよ」

「まあ、亀と鳥が……。種別を越えた恋ですのね。なんだか素敵だわ」

 シルビアは私とギルドの話を聞いて、たちまち夢見がちな少女の顔になった。

「マリィ、明日私もその亀と鳥が見たいわ」

「私は構わないけど。明日もそこにいるかどうかは解らないんだよ。いいの?」

 私ももう一度あの亀と鳥を見たいと思っていた。

 池に行くことは私の中では既に決定事項だった。

「アレックは明日も仕事? 一緒に見に行けない?」

 さっきから黙り込んでいるアレックに話の矛先を向けた。

「明日も仕事だ」

 淡々と語るアレックの表情に笑顔はない。

 先程からの難しい表情が気に掛かる。

「アレック。具合でも悪い?」

 みんなに聞こえないように、アレックの耳元で囁いた。

 アレックは首を横に振るだけ。

 やっぱりいつものアレックらしくない。

 なにかに怒っているようにも見える。

 仕事のことで、何か気になることがあるんだろうか。

 それとも、気付かぬうちに私が何か気に障ることでも言ってしまった、もしくはやってしまっただろうか。

 心当たりがないつもりではいるが、アレックにしてみれば山のようにあるんだろう。

「私のせい……かな?」

 自問自答のつもりで呟いた。いや、本当は言葉に出すつもりは毛頭なかった。考えていたことが口からぽろりとこぼれ落ちただけなのだ。

 だから、アレックが聞いていたなんて思いもしなかった。

「お前のせいじゃない。具合が悪いわけでもない。少し疲れたのかもな」

 その言葉に少なからず嘘があることに気付かない筈がなかった。

 この部屋の扉を開ける前までのアレックはいつもの調子だったのだ。

 疲れた顔一つ見せなかった。

 アレックが疲れた時の表情は何度か見たことがあるので、心得ているつもりだ。一つ発言の中に嘘を見つけてしまうと、何処までが嘘で何処までが真実なのか解らなくなってしまう。

 それでも、アレックが私に微笑みを向ければ、それ以上の詮索は出来なくなってしまった。

「美味しいな、マリィ」

 ズルい。アレックは、ズルい。

 その笑顔で、私はもう質問することが出来なくなってしてしまう。

 微笑み返すしかないではないか。そんな風に笑顔を向けられたら……。

 ズルい。ズルいよ……。

 それからのアレックは、私の視線を意識してか自ら率先的に会話に加わった。

 私に心配させないため、私を不安にさせないためだと、私には解る。

 だから、私もそれに合わせるしかないのだ。アレックがそう望むなら。少なくともこの場だけは。


「今日、食事会楽しくなかった?」

 アレックと二人になって、漸く私は聞くことが出来た。

「楽しかったよ」

「何があったのか、聞かれるのはイヤ?」

「ごめん。自分でも説明できないんだ。ただ、はっきりしているのはマリィ、お前のせいでは決してない。それは真実だ」

 私を覗き込む瞳に嘘は見つけられなかった。

「何か、困ったこととか悩んでいることとかあったら、何でも聞くよ。アレックの抱えている問題は、私なんかが聞いたところで、なんの解決にもならないかもしれないけど、話せば楽になることもあるから」

「マリィ。ありがとうな」

 頭をくしゃくしゃと撫でられた。

 私は、アレックの相談相手になるには、役不足のようだ。

 仕方のないことだ。

 アレックの抱えている問題が仕事の件であるのなら、私みたいな子供に話しても理解すら出来ないのだから。

「それより、お前の話が聞きたい。何か話してくれ」

「話ってどんな?」

「そうだな、お前の国の話がいいな」

「日本の話?」

 ああ、と優しい笑顔を私に向ける。

「私はね、日本にいる時高校っていう学校で毎日勉強していたの。この国にも学校はある?」

「王族や貴族は勉強を学ぶには家庭教師を雇うから、学校にはいかない。だが、町には小規模ではあるが、そういったものがあると聞くぞ」

「高校って三年間通うんだけど、私は、二年生だったんだ。一クラス30人前後いてね、大体男女半々で。毎日そのクラスメイト達と勉学に励むの。といっても、授業中はみんな先生の話なんて聞いてなくて、寝てたり、こっそり手紙回したりしてるの」

「なんだ。勉強する気あるのか?」

「勿論、真面目に先生の話を聞いている人もいるよ。でも、大抵はテストの前にだけ勉強する人ばっかりかな」

 自分が学校に通っていたのが、遠い昔のことのように思えてならなかった。

 大多数の人は、学校を楽しいと言うかもしれない。勉強をするのはイヤだとしても、友達に会うという名目のもとに、毎日通っている人が多い。

 私は、佑一に会うために学校に通っていた。

 それ以外の楽しみは私にはなかった。

 佑一は、私が孤立しているのを知っていて、いつも私の傍にいてくれたのだ。

 佑一自身は、人格があるため友達が多かった。私がいなければ、佑一には周りに沢山の友人が集まる。

 私がいじめられなかったのは、佑一がいてくれたお陰なんじゃないかと、私は思っている。

 一度佑一に、私のことは放っておいていい、と言ったことがあるが、自分の意志で私の傍にいたいんだ、と優しく跳ね返されてしまった。

 今、こんな風に佑一のことを思い出しても、ここに来た当初のような胸の痛みがない。

 私にとって佑一は、好きは好きだが、友人、恩人としてのもののような気がしてならない。

 佑一には、幸せになって貰いたい。マリィーシアにも、アレックにも。

 どうすれば、みんなが幸せになれる?

 私は、アレックを好きになってしまった。

 マリィーシアは、佑一を好きになってしまった。

 このまま、この状態のままここに留まることは、いいことなのか。それとも再び入れ替わることがいいことなのか。私には、答えを見つけることは出来なかった。

「マリィ、どうかしたのか?」

 私の瞳を覗き込むアレックの瞳を見つめ返しながら、私は問い掛けた。

「……アレック。アレックはマリィーシアが好き?」


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