表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
光の住人  作者: 海堂莉子
25/131

第24話

 私の城内探険はまだまだ続行中だ。

 ジョゼフと別れた後、あの百面相ジョゼフの狼狽え様を思い出しては、口元を緩めていた。

 暫く歩くと、今まで一度も足を向けたことのない場所へと淀みなく入っていった。

 城内を探険することは、アレックも知っていることで、最初こそ反対されたが、じゃあ、城の外に脱走する、なんて脅迫まがいなことをほのめかしたら、何とか許可してくれた。

 それでも、嬉々として探険する旨を報告すると、いい顔はしない。

「おっと、こんなところに扉が……。この古めかしい外観、錆付いた取っ手、ほの暗い雰囲気……」

 ゾクゾクと背中を悪寒がかけのぼった。

 もしかしたら、ここは私が探し求めていた開かずの間かもしれない。

 高鳴る胸を全身で感じながら、取っ手に手をかけ、ノブを回す。

 いともあっさりと扉が開いてしまったことにがっかりとしたが、せっかくなので、その部屋を探索することにした。

 その部屋にはぐるりと全ての壁際に本棚があって、棚の全てに本が隙間なく埋まっていた。

「図書室……ではないよね?」

 城の図書室にはアレックに一度連れられて行ったことがある。もっと広くて、蔵書数もここの比ではない。

 では、ここは何の部屋か。

「……書斎」

 恐らくそうなんだろう。

 埃の立ち具合から言って、この部屋に足を踏み入れるのは何年ぶり、何十年ぶり、正確な所は解らないが、とにかくかなりの年月が経っているように思う。

 かつて誰かの書斎だったのだろう。

 部屋に足を踏み入れて、正面に置いてある机に触る。机の上に手を乗せただけで、手が真っ黒になるほど埃が積もっていた。換気の為に窓を開けたい所だが、窓は本棚で隠れていた。

 その為、この部屋は昼間なのに暗い。

「ふぇっふぇっふぇっくしょい」

 埃が鼻に入ったのか、むずむずしてくしゃみがでた。

 そのくしゃみのせいで辺りの埃が一斉に舞い上がり、今度は激しくむせこんだ。

「なんじゃここは……」

 この国にマスクというような代物はなく、持っていたハンカチで口と鼻を覆うように塞ぎ、何とかその場をしのいだ。

「せめて窓さえ開けられたらいいんだけどねぇ」

 窓を塞ぐように置かれている大きな本棚を恨めしそうに睨み付けながら一人ごちた。

 なんとか体制を取り直した私は、机の引き出しを引いてみた。

 引き出しの中には万年筆のようなものと、紙が入っていた。紙が赤茶けていることからも、この引き出しを開けられていたのが、遠い昔であることが解る。

 ふと引き出しの奥に目を向けると、まだ何かあるようだった。

「なんだろ、これ」

 それを奥から引っ張りだすと、埃に包まれた一冊の本のようなものが姿を現した。

 表紙の埃を手の甲で、パッパッと落とした。

 何の題名も書いていないワインレッド色の表紙をめくると、黄色く変色した用紙。

 1ページ目は白紙、1枚目を捲ると、私の目に文字が飛び込んできた。

 ここは、日本ではないのだから、ここに書かれてある文字は当然日本語ではないのだが、私はこの文字を読むことが出来た。

 この国の文字を読むことが出来ると気付いたのは、アレックに図書館に連れて行って貰った時のことだ。始めは、何が書いてあるのかちんぷんかんぷんだった筈なのに、暫くその文字を目で追っていると、不思議とその言葉の内容が理解出来ている自分に気付いたのだ。

 私がこの国の文字を読むことが出来るという事実は、アレックには伏せておいた。

 私が光の住人だと信じている(自分は未だに信じていない)アレックに、変な風に騒がれるのがイヤだったからだ。

 1行目に日付が書かれている。

 そう、そういえば後で気付いたことなのだが、この国は日本と同じように日付を30日若しくは31日で1月としていた。ただ、曜日という観念がないようだ。そして、日本のようなカレンダーなるものは存在しない。

 それぞれ頭の中にカレンダーは入っているという。

 私は、馬鹿ですぐに日にちを忘れてしまうので、今度自分でカレンダーを作ろうと考えている。

 1行目に日付が書かれている時点で、私はこの本が日記であることを知る。

「日記かぁ」

 最初のページには、こんなことが書いてあった。


『私はあることに気付いた。

伝説であると世間からそう言われて来た光の住人が、実際に存在していたという事実だ。

私は光の住人であるというその女性に、占い師の元で偶然にも会ってしまったのだ。ばあさんは以前から、その事実を知っていて、その女性とも懇意にしていたそうだ。

それはそれは美しいその女性の名は、マディと言った。私はその女性を見た途端に、胸が衝撃を受けたように痛んだのだ。これが、もしかすると世にいう恋というものなのかもしれない。

ああっ、今すぐにでも会いたい。愛しい、マディ。だが、私はマディという彼女の美しい名前しか知らないのだ。どうすれば、彼女に会えるのだ。明日もばあさんの元に向かおう』


 私の心に残った言葉は二つあった。

 「光の住人」そして「マディ」。

 この日記が何年前のものかは解らないが、この日記がこの王城にあるということは、この部屋を使用していたということは、王族であると考えることは出来ないだろうか。

 いや、そうとは限らないか……。宰相や力のある者であればここに王から部屋を与えられることも、場合によってはあるかもしれない。

 この日記を書いたのが誰なのかも気になるところだが、「マディ」という人物のことも気にかかる。

 おばあさんは、私の母もお祖母ちゃんも光の住人であったと言っていた。

 もし、おばあさんが私をマリィーシアだと勘違いしていると考えると、その女性がマリィーシアのお母さんもしくはお祖母ちゃんであると考えられるのではないか。

 だって、私のお母さんもお祖母ちゃんもそんな名前の人はいないんだから。

 きっとそうなんだ。

 私はやっぱり光の住人でも何でもないただの女子高生で、光の住人っていうのは、マリィーシアのこと。

 そうよ、どんなに凄い占い師だってたまには間違えることだってあるのよ。

 おばあさんは、本当にすごくおばあさんだから、もしかしたら占いの勘が狂ってしまったのかもしれない。

 そんなことを考えながら、私は少し晴々とした気分で、ページを捲った。

 自分が光の住人じゃないという事実(勝手にそう思っているだけなのだが)が、私をすっきりとした気分にしてくれていた。

 でも、待てよ。マリィーシアがやっぱり光の住人だったら、マリィーシアはこちらに帰らなきゃならないんじゃないかな。

 光の住人がいるからこの国はこんなに平和でいられるんだよね……。

 だとしたら、この国から光の住人が消えたら、何か酷いことが起こるなんてことになるんじゃない?

 今は、マリィーシアのお母さんがいるからいいけど、お母さんがもし亡くなってしまったら……。

 私はやはりマリィーシアと話がしたい。そして、二人は再び入れ替わるべきだと伝えよう。

 どうやったら、マリィーシアと話が出来るのかな。

 ……鏡。

 鏡は他の時空と繋がっている窓口だとか、パラレルワールドの自分と鏡越しで話すとか、きっとそれは物語の話だとは思うけど、ダメ元でやってみてもいいんじゃないかなって思うんだけど……。

 うんっ、やってみる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ