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光の住人  作者: 海堂莉子
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第23話

「まあ、そうなの? マリィったら、アレクセイ様をそんなにお慕いしていたのね」

「いやいやっ、そういうわけじゃ決して……ないというか」

 両手をぶんぶんと大袈裟に振って、否定を現したが、シルビアはクスクスと笑うだけで、全然取り入れてくれないようだ。

「マリィ。真面目な話、私もラドルフ様も、アレクセイ様だって、それだけじゃないわ、王城にいる家臣達も皆、あなたがこの国に残ってくれたらって心から思っているのよ。そして、本当の意味で、あなたとアレクセイ様が心を通わせてくれたらって思ってるの」

 庭園の池の前にあるベンチに座り話していた。

 シルビアの真剣な瞳が容赦なく私に降り注いでいた。その真剣な瞳に呑み込まれて、頷き返してしまいそうな自分がいて、本気で焦った。

「でも、マリィーシアが……」

「そうよね、マリィーシアのことを考えたら、こんなこと軽はずみで言ってはいけないのよね。だけど、この気持ちに嘘はないのよ。それだけは解って」

「うん。解ってる。その気持ちだけ受け取っておくね。ありがとう、シルビア」

 マリィーシアが今どんな気持ちで日本にいるのかは解らない。

 泣きながら過ごしているのなら、早く入れ替わるべきだと思う。

 もしそうでなく、日本に残りたいと思っていたら、その時は私はどうするんだろう……。

 どんな方法でもいい、マリィーシアと一度話がしたい。

「いけない。シリアスな話になってしまったわ。陛下の為にどんなことをしてるかって話でしたわね?」

「ああ、うん、そう。シルビアは何をしてる? どんなことをすれば、感謝の気持ちを伝えられるのかな?」

「私はよくラドルフ様へお菓子を焼いて差し上げるの。ラドルフ様は甘いものが好きだから。特に疲れている時は喜ばれるわ」

 ああ、手料理ですか……。

 私に人に手料理を食べさせるような手腕があるとお思いか?

 自慢じゃないが、家庭科の授業以外で料理なんて作ったことないんだから。

 別に私は絶対やらないとか思ってるんじゃないんだよ? 私が台所に入って手伝おうとすると、余計時間がかかるから来てくれるなって、お母さんに追い出されちゃうんだよ。

 料理は璃理衣の方が100倍上手なんだよね。

 私は卵焼きもまともに作れるか自信がない。そんな私がアレックに何か作って出したら、アレックの体のほうが心配だよ。お腹を壊すこと必須だよ。

「シルビア……。私に手料理は無理みたい」

「そうねぇ、う~ん、ラドルフ様は私と語らうだけで疲れも吹き飛ぶって仰って下さるから」

 可愛らしく、頬を桃色に染めるシルビアをなんとも言えない複雑な思いで眺めていた。

 結局、私はアレックに何をしてあげれば喜ぶのか解らなかった。

 私が何をすれば喜んでくれるのか。

 そもそも、私はアレックのことを何も知らない。

 何が好きで、何が嫌いなのかも。私は、アレックの誕生日がいつなのかをしらない。アレックがどんな幼少期を送って、どんな立場にいるのかも知らない。アレックのお父さんとお母さんがどんな人なのかも。アレックがどんな女性を好きなのかも。何も。

「あっ、そうだ。今度、私の弟が一週間ほどここに滞在することになるの。マリィにも是非会ってほしいわ」

 私が気落ちしているのを知ってか知らずか、シルビアが全く別の話題を振った。

 シルビアなりの気遣いなのだろう。

「えっ? シルビアの弟? 絶対会うっ。シルビアの弟かぁ。すっごい楽しみっ」

 つい今しがたまで気落ちしていたのが嘘のように、素敵な妄想が私の頭を駆け巡る。

 シルビアの弟ってくらいだから、それはもう美少年に違いないよね。

 シルビアと一緒に育ったんなら悪い人ではきっとないだろうし。

 私の頭の中では、シルビアと弟君が並んだ姿が映し出された。

 背が高くて、白タイツ履いてて、白馬に乗ってて、マントをひるがえしながら、白い歯をキラリと光らせて、行き交う女性たちが瞬時に目がハートになってしまうような、そんな人。

 うん、そんな人だったら面白い。

 そう言えば、この国で出会う男の人はみんなイケメンさんだ。

 別に私はイケメンが大好きってわけじゃないけど、男も女も美しい人を見るのは目の保養になるから、嫌いではない。

 私としては、絵画を鑑賞しているような感覚なのだ。

「楽しみだなぁ」

 色々考えだしたら、嬉しさに顔が緩みっぱなしになってしまった。


 シルビアと別れた私は、一人王城を探険していた。

「どっかに開かずの間とかないのかなぁ」

 私は、暇な時こんな風に城内をやみくもに歩き、偶然開かずの間を見つけることが出来ないかと、期待を胸に膨らませているのだ。

「出て来いっ、出て来いっ、開かずの間ぁ」

 適当にメロディをつけて、ご機嫌に歩いていると、前方から見知った人が歩いてきた。

「あっ、ジョゼフっ」

 パタパタとジョゼフの前まで走っていくと、ジョゼフは、はぁっと大きな溜め息をして見せた。

「マリィ様。あなたの侍女達が探してましたよ?」

「あっれぇ、そう言えばいつの間にいなくなってる」

 チラッと横目でジョゼフを盗み見ながら、そう言えば、冷たくこう返された。

「そんな小芝居いりません。早く自分の部屋にお戻り下さい。城内だからといって危険がないとは言いきれないのですから」

「ねぇ、ジョゼフ。恋人いる?」

「なっ? そんなものおりません」

「そんなに眉間に皺ばっかり作ってると、女の子にモテないよ。もっとスマイルだよ、スマイル」

 ジョセフの頬を両手で少し上に持って行き、スマイルを作ろうと頑張るのだが、それはスマイルどころかただの変顔で、自分でやっててなんだが、可笑しくなって来てしまって思わず吹き出した。

「ひゃひゃひゃっ、面白いっ。ジョゼフの顔っ」

 普段無表情なジョゼフの変顔がツボにハマり、笑いだしたらなかなか止まらなくなってしまった。

「全く、あなたという人は……。どうしようもない人ですね」

 盛大な溜息をした後、フッと優しい笑顔を私に向けた。

「あっ、ジョゼフが笑ったぁ。うんうん、やっぱりジョゼフが笑った顔の方が全然いいよ。可愛いっ」

 パタッと一瞬、その笑顔が幻なんじゃないかと、考えたが、私の目に狂いがある筈もない。

 数少ないジョゼフの笑顔を見れたことに私は妙にテンションが上がってしまっていた。

「なっ、男が可愛いなんて言われて嬉しいわけないじゃないですかっ」

 顔を真赤に染めたジョゼフが、あたふたしながら、そう声を荒げた。

「うわぁ、貴重。ジョゼフの百面相だ……。私、一生忘れないよ。ジョゼフのこんな顔滅多に見れないもんね」

 私がそう言うと、真っ赤な顔をしたジョゼフは怒って踵を返して行ってしまった。

「ああ、惜しいことをした。もう少し、あのジョゼフの慌てっぷりを見ていたかった」

 ジョゼフが慌てている姿を見る人は数少ない。

 アレックでさえ、そんな姿を見たのは数度だと言っていた。

 それも、私が来てからなんだそうだ。それまでのジョゼフは完全なる無表情男で、笑った顔を見た者は皆無だったそうな。

「お前は凄いな。あのジョゼフを笑わせたり、怒らせたり出来るのは、お前くらいなもんだ」

 とは、アレックの一言で、私が何かやらかしてジョゼフに怒られたりしているのを見ては、後でこっそり耳打ちするのだ。

 ジョゼフの真っ赤な顔を思い浮かべて、薄ら笑いを浮かべながら、私も再び歩き始めた。


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