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第6話 美味

 俺は焼き尽くした鬼の館の匂いに酔いしれる。

 臭い鬼の肉が浄化されるようだ。

 食いでのない未熟な角を齧りながら嘆息を付く。

 首領でさえこの程度の味か。


 俺が周りを見やると瘦せ細った人間達が目に留まる。

 こちらもまるで食いでがない。食指が動かん。

 ここで何が起きていたかと言えば、人間を飾る悪趣味な館が全てを語る。

 人間(食べ物)を粗末にするとは鬼の風上にも置けぬ。


 ここの鬼たちは食事よりも遊びに夢中であったようだ。

 人を食わずに遊び惚けて、骨と皮になるまで放置した人間を飾るとは。

 流石の俺も腐りかけた人間を口にする趣味はない。

 いっそ焼いてしまった方がいいだろうと館ごと火をかけた。


 不味い。

 こんがり焼けた人の骨を齧るが不味い。

 こんな状態になるまで放置したあの首領鬼こそここで飾るべきか。

 そんな無意味な事に興味がない俺は食いでのなかった鬼たちを焼き尽くす。


「いただきます」


 そんな時に響いてきたのが美味のこの言葉だ。

 この腐った骨と皮の人間を口にする気か。

 これを口にするほど飢餓があるとは思えんが。

 生きているかも怪しい人間にトドメを指し口に運ぶ。


「それは美味いのか?」


 美味は首を振った。それでも咀嚼をやめない。

 俺でも腹を下しそうな代物をよくも口にできるものだ。

 案の定、喉を詰まらせている。

 その上生えてくる角も赤く毒々しい。


「言わんことではない」


 それでも美味は食べるのをやめない。

 その姿勢は見上げたものだ。

 俺は食いでのない鬼たちの角を美味の前に差し出す。


「見ているこっちが不味くなる。これと喰え」


 少しは食いやすくなったようだ。

 そしていつものように自分の角を差し出してくるが、毒々しい赤だ。

 俺はそれを手にすると二つに折って美味に渡す。


「毒見だ。まずお前が食え」


 美味は不服そうだがそれを口にする。

 美味いという顔ではないな。

 美味いどころか苦しんでいる。

 美味に二本の赤い角が新たに生える。


 俺は手にした毒々しい赤い角を見ると齧る。

 美味いではないか。

 自分の角を自分で食うのは無理なだけか。

 咀嚼し嚥下する。

 新たな美味だ。美味を介せば腐った人間でさえ美味になる。


「ご馳走様でした」


「お粗末様でした」


 俺と美味は言葉を交わす。

 食事を大切にする鬼か。

 流石はおなごだ。俺では及ばぬ極地だな。

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