第51話 最終章 壱
俺は破邪の剣を手に取り握る。
この剣を手に取るには強き魂が要る。
それは異形と異能を捨て、肉の身でのみ生きる存在。
人間に戻る事だ。
破邪の剣により吹き飛ばされそうな俺の魂を。
俺の意思で強くしていく。
俺の魂が強さを増すたびに、鬼となった異形の体が人の形に戻る。
俺の魂が強さを増すたびに、世界を変貌させる異能の力が失われていく。
俺は人間に戻り、破邪の剣をその手に握る。
この状況を唯一打開できる。破邪の剣。
それを握るために、俺は人に戻った。
ーーー
俺は破邪の剣を振るい、それに近づく。
鬼神となった美味を擁する神の塊。
そこから美味を救い出すためだけに俺は人に戻った。
今の俺には黄泉の神の加護がある。
黄泉に封じられ二度と日の光を浴びられぬと絶望した黄泉の神。
それが俺の手によって日の光を浴び、その仇である神の塊の元へと辿り着いた。
俺は神の塊を切り裂きたい。黄泉の神は神の塊に仇成したい。
俺達の道が一つになるのは自明の理であった。
そして破邪の剣の間合いまで俺は進む。
あれほど強固だった黄泉の神も俺を守るために消耗し消え失せた。
あとはこの刃を神の塊に差し込むのみ。
俺は躊躇わずにその刃を滑りこませ、美味を救い出す。
神の塊の最後の慟哭がその実の震えだけで表現される。
鬼神美味という種子をくりぬかれ、ただの果肉になり下がる。
神の実は実らず腐り堕ちる。
この国は神の手から放たれたのだ。
ーーー
「大餓。どうして?」
俺と美味は対峙する。
鬼と人だ。その結末は決まっている。
人間だけが鬼を討つ。人間だけを鬼が食う。それこそが人と鬼の矜持だ。
「人間であるならば鬼は討たねばならぬ。
鬼であれば人を食わねばならぬ。
それが俺の知る唯一の矜持だ」
そして俺は破邪の剣を構え、辞世の句を口にする。
「魂も
血肉も
生き様も
その全てを鬼神美味に捧げる。
受け取ってくれるか? 鬼よ」
ーーー
俺と美味は切り結ぶ。
「大餓、命乞いをして」
「それがお前の願いならば聞き届けよう。美味、俺を助けてくれ」
「わかった。助ける」
「だが俺は人間だ。俺は鬼であるお前を討たねばならん」
「じゃあ、あーしも命乞いをする」
「駄目だ。お前の願いはもう聞き届けた」
「大餓の馬鹿! 大馬鹿大餓!」
「その通りだ。だが俺は俺を変えられん。
鬼となっても。
人に戻っても。
俺の願いを叶えてもらうぞ鬼神美味」




