第41話 怒気
「大餓。あれは大餓に食べてもらうために出したんだけど」
美味だ。疑問符がないな。
衾を食って作り上げた煙管型の角の事だろう。
「あれは何時か俺の口に入る。人間どもに熟成してもらおうではないか」
「そういう話じゃない。大餓はあーしの献身よりも人間を優先したの」
「まて。あれが帰ってくる時は鬼討つ人間と共に来る。お前の望みも叶うだろう」
「それも大餓に美味しいおかずを食べさせるため。順序が逆。大餓が食べないならもう出さない」
「わかった。以後気を付ける」
だが美味の怒気は晴れなかった。
「あーしはね。大餓の為に美味しい鬼の角を出してるんだよ。
だから、きちんと食べてご馳走様をするの。わかった?」
「理解した。
だがあれは今この場で俺の口に入るものではなかった。
その『刻』が来る。
その時まで熟成させたいというのは本心だ。その時は共に味わおう」
美味の怒気が収まる。少しは伝っているようだ。
「お前の献身を軽視したわけではない。
いつも感謝し、楽しみにしている。
だからこその今回だ。重ねるが鬼討つ英雄を元にした鬼の角は食うべき『刻』が来る。その時は俺の判断に任せて欲しい」
「わかった。そこまで考えてるなら大餓の好きにしてもいいよ。でもせっかく作ったものを口にされないのは寂しいの。それはわかって」
美味が俺に今しがた出した鬼の角を俺に渡す。
俺は手を合わせてそれを頬張る。
いつもの鬼の角だが格段に美味くなっている。
「ご馳走様でした」
「お粗末さまでした」
俺と美味は笑い合う。
「ギャアアアア!!! そんな綺麗に終わってもらっちゃ立つ瀬がないのですよ!
さあさ大餓サマ。今ひりだした私の角でございますよ。たまには出さないと体に悪いのです。
さあ! 召し上がれ!」
「喚き。お前という奴はこの流れでその表現が出来るのか」
「勿論です! さあ、もう鬼の角は食べられませんねぇ! これからはこの喚きが美味サマの角を戴くのでご安心ください!」
俺は無言で喚きの角を奪い取るとバリバリと咀嚼する。
「鬼の角は人間を食ってこそだ。お前ではなく角の元になった人間に感謝だ。どのような形であれ人間を貶めるな」
「ほら、喚きはあーしの血。ちゃんと飲んで」
美味が喚きを後ろから抱きしめ自分の指を喚きの口に入れる。
「美味サマ。これ凄く濃ゆいです。んッ、いつもと違います」
「お仕置き。いつもは喚きの為に薄めているの。今日は大餓が飲めるくらいの濃いやつを流すよ」
「んッ。これ、凄すぎまふぅ!」
「ちゃんと飲んで強くなって。いたずらに角を落とさないの」
俺達はいつの間にか美味に胃袋を支配されているのか。
さもありなん。その名の通り美味なのだからな。
▽
Tips補足
何故大餓がここまで衾を買っていたかは『第27話 妖怪』の衾の最後の台詞。
「・・・我等妖怪は世に仇成す存在ではありますまい。ただ自然に生くるのみ。人や鬼のように過ぎた望みは持たないので御座いますよ。力を持てば引き返せませぬ」
ここに共感したため。
この時点では半信半疑だったがそれが本心と知って力を貸した。




