第40話 盟友
「何が可笑しい鬼よ」
天狗の赤ら顔が怒りに染まる。
「これが笑わずにいられるか。衾には何の力もなかった。
だが奴は俺を動かし鬼を討ち、お前を動かし俺を討つ。
奴こそが鬼討つ英雄そのものよ」
それを聞くと天狗の長は怒りを収め、笑い始めた。
笑いで涙が滲み出る。
「全くだ。奴が妖怪変化の方法を知ると鬼と通ずるとは誰が思う。
いつもいつもそうだった。まっすぐで夢を見て、我らの助けがなくばあの年まで生きられまい。
だというのに里の者、里の者とそれしか口にせぬ」
「その光景は想像に易いな。妖怪を名乗って腹芸も出来ぬ。
豪胆に過ぎる。あれを誰が人間だと思うか」
「まったく、真っすぐで眩しいぐらいに人間だった。
だから、我らも見誤っていた。
衾なら何とかなると。何とかすると。いつも通り我らを巻き込んでな」
「その誤算の元である人間にたかるハエは始末した。
あとは衾が蒔いた種が実るのを待つばかりだ。
さて、お前が衾の盟友だというのはわかった。ならば渡すものがある」
俺は衾のカタチを摸したであろう煙管型の鬼の角を取り出す。
「これは俺が持つべきではないだろう。奴の願い通り人の手にあるものだ。
託してもいいか?」
「これは、そうか。衾の一番の楽しみはこれだった。体を悪くして吸えなくなったが、最後の願いは一服をしたかっただろうに。最後まで里の者を優先か。
確かに受け取った。人の手に渡るように努めよう」
「助かる。いつか俺を討つ人間の手助けになる物だろう」
「貴様の願いは貴様を討つほどの人間だったな。なれば我らが人間を育てよう。お前を討てるほどの人間。その時、貴様と我らは敵になるのであろうな」
「当然だ。今の俺は衾と共にはいない。椿の生存を知った時、衾は俺を討つと宣言した。ならばその盟友は敵になるのが道理だ。
衾の願い通り、里に来たものを一度は見逃した。これから先に二度目はないぞ。
次の邂逅は敵だ。俺を討てる人間を用意することだな」
「鬼よ。人食いを改める気はないか。
妖怪となりて鬼討つ人を共に育てる。
衾の撒いた種を共に育てようではないか」
「それは無理だ。俺はその実を食す側だ。育てる側ではない。
人を刈り、人を食い、人に狩られる。
俺は鬼でいたいのだ」
「そうか。貴様が人を刈り続ける限りいつか必ず敵対する。だが、その時までは手出しはすまい。お別れだ人食いの鬼よ」
「さらばだ。鬼討つ英雄の盟友よ」
妖怪たちは去った。
そして妖怪たちではない怒気をはらんだ眼差しが後ろから俺に突き刺さる。
これは美味だな。
一難去ってまた一難か。




