第39話 神の炭
「で、これは食べられるの」
星が落ちたかのような大穴の底に燻るのは神であった者の燃えカスだ。
それを前に怒りを表した美味がその燃えカスをすくう。
「流石にあーしも消し炭は食べられないよ。どうしてこんな勿体無いことをしたの」
疑問符ではないな。俺は言い訳を考える。
「煙管だ」
「?」
「これに詰める炭が欲しかった」
俺は神の炭を煙管に入れて吹かす。
「で。どうしてこんなことをしたの」
「・・・神への警告だ。これ以上人間を無駄にするなとな」
「その大餓が神の体を無駄に消し炭にしたんだ?」
「・・・以後気を付ける」
「はい。気を付けて。・・・折角の神肉がこれだけなんて」
美味が食っているのは最初に衾がくれたものだ。
「でもよかったのです。あの駄目肉を食わずに済んだのは僥倖なのです」
喚きが嬉しそうに呟く。
しまった。その言い訳があったか。
「食べ物は無駄にしないの。きちんと食べる」
差し出された肉片を受け取る俺達。
もっちゃくっちゃもっちゃくっちゃ。
全て消し炭にするべきだったか。
ーーー
「貴様か。衾を食った鬼というのは」
俺達が里から去ろうとすると妖怪たちに囲まれていた。
空にも天狗が飛んでいる。
この鼻の長い爺は天狗の長といった所か。
「そうだ。何用だ」
「なぜ衾を食った」
「俺が鬼で奴は人間だからだ」
「あのような枯れ木を食うほど腹が減っていたのか大いなる餓えよ」
「お前は衾のなんだ」
「衾は我らの盟友だった。その仇に用があるとは思わんのか」
「衾の死に様を見届けてその責を鬼を負わすか。鬼から逃げ、神から逃げ、俺から逃げ、その盟友とやらを死なせた。その矮小な妖怪が俺に意見するのか」
妖怪たちがざわめきだす。
「なぜお前らが俺の目の前で生きていられるか不思議に思わないのか。
それは衾の願いだ。この里に訪れたものは一度見逃せ、と。
お前たちの命は衾によって救われているのだ。
それを理解したら今すぐ立ち去れ。
盟友を見捨てた愚かな妖怪よ。俺は衾と共に在る」
長鼻の爺が膝をついた。
「聞かせてくれ。鬼よ。衾は最後に何と言って逝ったのだ。
頼む。聞かせてくれ」
長鼻の爺はこうべを垂れた。
「お前が衾の盟友を名乗るのなら心して聞け。
桃を食い、梨を食い、
柿を食い、蜜柑を食う。
皆と食べるともっと美味い。
これで終わりだ」
妖怪たちの嗚咽が漏れた。
「知っておった。衾が何を望んでいたか。だが我らは妖怪、人の世に関わることは出来ぬ。そう自身を戒めていた。
だが! もはやそれは戯言だ!
盟友のためならば人の世も、鬼も、神でさえも、我々は恐れぬ!
それはお前であってもだ! 鬼よ!
我らは二度と違わぬ!
我らもまた、衾と共に在る!」
長鼻の姿が大きく膨れ上がり赤い面の天狗が現れる。
俺は笑いがこみ上げるのを止められなかった。




