第37話 果実
「大餓殿! この鬼は危険じゃあ!」
その里は鬼に占拠されていた。残るは衾一人。それも手負いだ。
「散々暴れてくれたな無頼の鬼よ! この鬼武器の切れ味をお前で試してやる! 人ではなく、鬼が放つ鬼武器の威力をその身で味わえ!!!」
「鬼角雷閃刃」
俺は右腕を構えると数百本の鬼武器を屠った異能を放つ。
鬼武器とそれに同化した鬼が連なって俺の放った雷の一閃で風穴があく。
あとは雑魚か。俺は衾を影に潜らせると雷雲を風で渦巻かせて火を放ち最後に水を掛ける。
名付けて「雷雲風渦火放水掛!」
「なんじゃあ、ぬしゃあ強かったんか」
影潜りからだした衾の一声がそれだ。
その体から人間の匂いがする。
「騙してすまんな。だがそれはお互い様だ。お前が人間だったとはな、衾よ」
「バレてしもうたかぁ。こうでもせんと話もできんかったじゃろう」
「食えない爺だ。だが目についた人間は食うと言っていたのは憶えているか?」
「勿論じゃ。じゃがどうしてここへ、ガフッ、ゴホッ、ゴホッ」
衾の咳からは血が見える。この傷の具合からももう長くないか。
「椿といったか。刀を携えてやってきたぞ」
「・・・そんな、なぜじゃ!」
「生きているぞ。ガキの使いだ。その場に置いてきた」
「・・・なんじゃあ。憎たらしい事をしおってからに。ならばおぬしを討たねばな」
弱々しい動きで衾の手が懐刀を取り出す。
「ああ。お前はここで死ぬ。俺に食われる。最後に言い残す事はあるか」
「ならば頼みじゃあ。この里に来たものは、一度だけでいい。一度だけ見逃してくれんかのぉ。それを聞けば思い残す事は無い」
「聞き届けよう。辞世の句を詠むか?」
「そうじゃなぁ。
桃を食い、梨を食い、
柿を食い、蜜柑を食う。
皆と食べるともっと美味い」
ーーー
「衾爺!」
俺達が衾を食っていると椿がやってきた。
「この人食い鬼がぁ!!!」
予想通りその刃は俺には届かない。
俺が殴り飛ばすと椿は立ち上がり切りかかってくる。
俺はその顔を掴んだ。
「衾の最後の願いだ。この里に来たものは一度見逃す。ここから去れ」
「ふざけるな! これでおめおめ引き下がれるか!!!」
「耳がないのか人間。衾の最後の願いだ。聞き届けろ」
俺は椿を放り投げる。
「殺してやる! いつか必ずその腹を引き裂いて衾爺を引きずり出してやる!!! あたしの名は椿だ! 必ずお前を討つ!!!」
「大いなる餓えで大餓だ。お前が討つべき鬼の名だ。それが出来るのならな椿」
ーーー
「逃がすのですか大餓サマ?」
「ただの稚魚だが化けるかもしれん。美味の欲する鬼を討つ人間にだ」
「どうかな。女の子にそれが出来るとは思えないけど」
「それでもだ。鬼討つ子を産むかもしれんぞ」
「気の長い話なのです」
「だが、種は撒かねば芽は出まい」
さて、どんな実がなるのか。
楽しみだな。衾よ。




