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第31話 稚魚

「なんじゃ、ぬしゃあ見掛け倒しだったんか」

「そう言うな。俺は喚き様の影武者のようなものだ。あの風体では舐められるからな」

「確かになぁ。要らぬ揉め事も増えるわなぁ。あの見た目じゃワシもこの話はもってこんかったものな」

「そうだろう。もし俺達の話をするのなら俺が首領という事にしておいてくれ。後の二人は戦えもせんとな」

「わかり申した。どうやら里の人間も救われたようじゃな」

「わかるのか?」

「ホッホッホッ。妖怪の情報網を舐めるでないぞ。喚き様は出来たお方じゃ。この御恩は忘れまいて」


 傷の手当の終わった衾と俺は話している。

 先の俺と喚きの入れ替わりで俺はハリボテという事になっている。

 その方が都合がいい。

 しかしこれでも尻尾が出ないという事は俺の見立ては間違っていたか。


「ありがたいことじゃ。これこの神の血肉は主に預けるがよろしいか?」

「いいのか?」

「当然じゃ。やはりわしは人と長く良すぎた。里の者が無事ならそれでよい。かの鬼たちはもうお主等を放っておくことはないじゃろう?」

「それも込みか衾爺。食えない奴だ」

「ホッホッホッ。では大餓殿。後の事はお頼み申した」


 衾は去った。


ーーー


「大餓。人間達を見逃したの?」

 美味か。

「ああ。罠かと思ったが何もなかった。泳がせてもみたが何もなかったな」

「それは情?」

「情というよりも衾という男が気になってな。あれは妖怪ではない何かだと踏んでいた」

「それで逃がしたの?」

「そうだ。なんだ? お前が欲しそうな人間が鬼に捕まっているわけがないだろう。何かあるのか?」

「ううん。大餓が人間牧場を始めるのかと思って気になっただけ」

「牧場というよりも稚魚の放流だな。増える人間をわざわざ刈り取る必要はあるまい」

「本当に? 大餓もあーしに人を食うなと言い出すんじゃない?」

「鬼が人を食わずに何を食う。稚魚を刈る程餓えてはいないというだけだ。お前が食うのを邪魔する気はないぞ」

「あーしも稚魚まで食う気はないけどね。大餓。あーしはさ、人間を食べるのを禁じられていたんだよね」

「では何を食う」

「人間ではない何か。ずっとずーっと。

 大餓があーしを救ってくれたんだよ。人間を食っても良いって」


 確かに俺と会った時、美味は人無し鬼だった。


「俺を恨んでいるのではないのか? 両親の仇だぞ」

「あれは違うよ。あーしの両親じゃない。あーしを連れだしただけのお目付け役。それを付けた両親も死んでいるだろうけど」

「そうか」

 美味の両親か。実の親かどうかは知らんが特殊な出自の鬼という事か。

「そう。大餓。大餓が人を食い続けるならあーしはずっと傍にいる。嫌だと言ってもついていくからね」

「構わんぞ。お前に関しては釣りがくるほどだ。何か望みはあるか?」

「だったら喚きも守ってほしい。喚きともずっと一緒に居たいから」

「わかった。奴が嫌がっても引きずって行く事にしよう」


 美味は笑う。

 だが、喚きに関しては奴自身がいつまで俺達についてくるかわからんがな。

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